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クロ・ウィザード(クロ様)

【残業】エリアラ小話。

「ようクロ!もう上がりか?ちょうど良かった、帰りにバー寄ってかねぇか?」

「おう、エリック。良いな。この間、新しいバーを見付けたんだ」

「おあつらえ向きだな」

「ああ、そこにしよう」

2人は気安く肩を組み、まだ呑んでもいないのに、陽気に歩き出す。

ブロンドとブルネット、カラーは正反対だが、髪型や無精髭が何処かエリックに似通っている青年だった。同期でもある為、2人は仲が良い。こうして度々、明け方までグラスを共にする仲だった。

「なあなあクロ、こないだのロナルドの合コンのよー…おっと」

そのまま角を曲がった所で、エリックは自分より二回り小柄な人物に軽くぶつかり、歩みを止める。クロはその人物とちょうど良い高さの為、まともに目が合って、何故か慌てている。

「「あっ」」

2人でユニゾンして離れた。今度は、エリックも十二分に慌てている。

「合コンが…どうしましたか?エリックさん」

「ち、違うんだアラン。そんなつまみ食いとかそういう話じゃなくてだな!」

息継ぎなしにまくしたてるエリックに、クロは頭を抱えた。どうしてこう、墓穴を掘るような事を言うんだか…。おまけにエリックと気の合うクロは、だんだん恋敵として見られている節がある為、先ほど2人は慌てたのであった。真実は、真逆であるというのに。

「いや今日はお前が残業で遅いっていうからたまには同期と親交を深めようと…」

やはり、まくしたてるエリックに、うろんな表情で見上げるアラン。そしてチラッと自分にも視線をこぼされて、クロは、もはや居心地悪いのを通り越して、可笑しくなってしまった。くつくつと唇を覆うと、アランがそんなに露骨に睨んでしまっていたかと、やや頬をそめた。

「何が可笑しいんですか、クロさん」

それでもエリックがかかっているからか、気丈に冷静な声音を出す。クロは、同じ高さの目線を合わせ微笑むと、アランの肩を叩いた。

「残業だって?じゃ、俺が代わってやるよ、アラン」

「え」

「その代わり、エリックの酒に付き合ってやってくれ」

「えっ?はっハイ…」

戸惑うアランから引ったくるように書類を頼まれると、やはり何処かエリックに似た仕草で背中越しにヒラヒラと黒革手袋を振った。

(敵視されちゃかなわない。こちとら、お前たちを日々観察して、オカズにさせて貰ってるんだからな…)

ポカンとしているだろう2人に、クロは殊更大声で言って、去っていった。

「お幸せに!」

後には、見抜かれていると知った2人が真っ赤になって残り、クロはと言えば、足早に回収課へ向かいながら、携帯をプッシュしていた。

「あ、もしもしアルクス?今夜、あいつらデートだぜ。アランがヤキモチ妬いてるから、たっぷり"埋め合わせ"が入るだろうよ。…ああ、写真よろしくな…っと。もう切れてる」

念の為、ホープにも…とプッシュしてみたが、予想通り通話中だった。あの2人の連携は早い。

(俺はむしろ、2人に引っ付いて貰っといて欲しいんだよな)

派遣協会には、モラルの観点から言うと、まともな死神はいない…らしい。

End.
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