アロウ・ラウンドカラーズ(彩矢様)
* * *
懇親会という名の、ウィリアムにとっての針のむしろは、さっそくその日の仕事終わりに行われた。三人ともがそれぞれの理由で残業しない主義なので、定時であがっての少し早い時間からの懇親会となった。場所は、ムードのあるジャズの流れる小洒落たバーで、三人でテーブル席を囲む。乾杯の音頭は、アロウが取った。
「パートナー結成を祝して」
「「「乾杯」」」
酒など呑んだ事がないというウィリアムにロナルドが勧めたのは、フルーティで口当たりの良い果実酒だった。一口呑んで、ウィリアムは微かに黄緑の目の色を変える。
「どうですか先輩?旨いっしょ?」
「…はい。美味しいです」
「良かったっス!」
嬉しそうに破顔するロナルドに、ウィリアムが意外そうな視線を向ける。
「な?ウィリアム。ロナルドが良い奴だって分かったろ」
「………」
ウィリアムは何とも言えぬ表情のまま、唐突に無言でグラスを一気に干した。
「おい、ウィリアム」
「スピアーズ先輩…!」
果実酒は呑みやすいが、アルコール度数の高いものも多い。初めての酒をそんな風に呑めば、一息に潰れるのは明らかだった。呑み干したグラスをカン!とテーブルに置き、ぐらりと崩れかかるウィリアムの身体が椅子から落ちてしまわないように支えるロナルドを見て、アロウはクスリと笑った。
「スピアーズ先輩!何やってんスか!大丈夫ですか?!」
「寝かせておけ、ロナルド。将を射んと欲すれば…だろ?」
「えっ」
ギクリと一瞬、ロナルドのただでさえ大きな黄緑の瞳が零れ落ちそうに見開かれた。だがすぐに、開き直ったような笑みが満面に花開く。今風に言うなら、『てへぺろ★』と言った所か。
「知ってたんスか。ラウンドカラーズ先輩」
『敵を射止めたければ、まず乗っている馬を狙え』、つまり、『目的を達成する為には、まず周辺から片付けていくのが成功への早道だ』といった意味あいの例えを持ち出したアロウに、ロナルドは悪びれもせずに言った。
「スピアーズ先輩、素面じゃ絶対無理だから、酔わせて口説こうと思ったのに…呑み会も差し呑みも断られるし…あとは合コンしかないって、結構必死だったんス。ありがとうございます…!」
そう言って酔い潰れたウィリアムの白いおもてと紅い唇を覗き込むロナルドの瞳は、猛々しい雄の色に光っていた。
「だけど、ウィリアムの事だ。潰れてる間にモノになんかしたら、一生口きいて貰えないだろうな」
くつくつと漏らすアロウとは対称的に、ロナルドは小声で不平を漏らす。
「蛇の生殺しじゃないっスか…!」
「まずは、家まで送って介抱してやる事だな。ウィリアムだって、憎からず思ってたんだから」
「えっ」
もはや狼狽えるロナルドを肴にちびちびとやりながら、アロウは笑った。
「永い付き合いだから、分かる。こいつは、好意を向けられてどうして良いか分からない時、突拍子もない事をするんだ」
「それホントっスか、先輩?!」
「ああ。今までも何回かそんなシーンがあったが、どれもウィリアムを御しきれる相手じゃなかった。ロナルドだから、パートナーにしたんだ。慢性的に人員不足の回収業務を、少しでも円滑に進めるように人員を配置するのが、人事課の仕事だ」
ロナルドの腕の中のウィリアムが、身動いだ。
「う~ん…」
「ほら、ロナルド。最初は紳士的に、だぞ」
「りょ、了解です!」
ウィリアムに肩を貸して店を出ていくロナルドの背中を、アロウは頬杖をついて手の中でグラスを弄びながら、一人見送った。『今度おごれよ』。その言葉は、さっそく果たされる事になったのだった。
End?
懇親会という名の、ウィリアムにとっての針のむしろは、さっそくその日の仕事終わりに行われた。三人ともがそれぞれの理由で残業しない主義なので、定時であがっての少し早い時間からの懇親会となった。場所は、ムードのあるジャズの流れる小洒落たバーで、三人でテーブル席を囲む。乾杯の音頭は、アロウが取った。
「パートナー結成を祝して」
「「「乾杯」」」
酒など呑んだ事がないというウィリアムにロナルドが勧めたのは、フルーティで口当たりの良い果実酒だった。一口呑んで、ウィリアムは微かに黄緑の目の色を変える。
「どうですか先輩?旨いっしょ?」
「…はい。美味しいです」
「良かったっス!」
嬉しそうに破顔するロナルドに、ウィリアムが意外そうな視線を向ける。
「な?ウィリアム。ロナルドが良い奴だって分かったろ」
「………」
ウィリアムは何とも言えぬ表情のまま、唐突に無言でグラスを一気に干した。
「おい、ウィリアム」
「スピアーズ先輩…!」
果実酒は呑みやすいが、アルコール度数の高いものも多い。初めての酒をそんな風に呑めば、一息に潰れるのは明らかだった。呑み干したグラスをカン!とテーブルに置き、ぐらりと崩れかかるウィリアムの身体が椅子から落ちてしまわないように支えるロナルドを見て、アロウはクスリと笑った。
「スピアーズ先輩!何やってんスか!大丈夫ですか?!」
「寝かせておけ、ロナルド。将を射んと欲すれば…だろ?」
「えっ」
ギクリと一瞬、ロナルドのただでさえ大きな黄緑の瞳が零れ落ちそうに見開かれた。だがすぐに、開き直ったような笑みが満面に花開く。今風に言うなら、『てへぺろ★』と言った所か。
「知ってたんスか。ラウンドカラーズ先輩」
『敵を射止めたければ、まず乗っている馬を狙え』、つまり、『目的を達成する為には、まず周辺から片付けていくのが成功への早道だ』といった意味あいの例えを持ち出したアロウに、ロナルドは悪びれもせずに言った。
「スピアーズ先輩、素面じゃ絶対無理だから、酔わせて口説こうと思ったのに…呑み会も差し呑みも断られるし…あとは合コンしかないって、結構必死だったんス。ありがとうございます…!」
そう言って酔い潰れたウィリアムの白いおもてと紅い唇を覗き込むロナルドの瞳は、猛々しい雄の色に光っていた。
「だけど、ウィリアムの事だ。潰れてる間にモノになんかしたら、一生口きいて貰えないだろうな」
くつくつと漏らすアロウとは対称的に、ロナルドは小声で不平を漏らす。
「蛇の生殺しじゃないっスか…!」
「まずは、家まで送って介抱してやる事だな。ウィリアムだって、憎からず思ってたんだから」
「えっ」
もはや狼狽えるロナルドを肴にちびちびとやりながら、アロウは笑った。
「永い付き合いだから、分かる。こいつは、好意を向けられてどうして良いか分からない時、突拍子もない事をするんだ」
「それホントっスか、先輩?!」
「ああ。今までも何回かそんなシーンがあったが、どれもウィリアムを御しきれる相手じゃなかった。ロナルドだから、パートナーにしたんだ。慢性的に人員不足の回収業務を、少しでも円滑に進めるように人員を配置するのが、人事課の仕事だ」
ロナルドの腕の中のウィリアムが、身動いだ。
「う~ん…」
「ほら、ロナルド。最初は紳士的に、だぞ」
「りょ、了解です!」
ウィリアムに肩を貸して店を出ていくロナルドの背中を、アロウは頬杖をついて手の中でグラスを弄びながら、一人見送った。『今度おごれよ』。その言葉は、さっそく果たされる事になったのだった。
End?