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アロウ・ラウンドカラーズ(彩矢様)

*    *    *

翌朝。いつものルーティーンを終えて人事課のデスクにつき仕事の準備を整えていると、今しがた別れたばかりのウィリアムが、珍しく苛立ったような靴音を響かせて人事課に入ってきた。

(さっそく来たか…)

「アロウ・ラウンドカラーズ」

「何だ?何か良い事あったか?」

「逆です。悪い事ならありました。貴方の指示でしょう?」

アロウのデスクの前に仁王立ちして、一枚の書類をその鼻先に突き付ける。

「ウィリアム。近すぎる。それじゃ読めないよ」

「貴方の記憶力で、忘れたとは言わせません。何のつもりですか?」

「まあ落ち着け、ウィリアム」

視界を塞ぐ書類を受け取り、アロウは頬杖をついてウィリアムを見上げた。デスクに置かれた書類には、『ウィリアム・T・スピアーズとロナルド・ノックスを、パートナーに任ずる』旨が記されてあった。

「ロナルド・ノックスは回収課で、私は管理課です。こんなパートナーシップ、前例がありません」

「君は実技も事実上トリプルAだから、たびたび回収の仕事をしてきただろう?ほら、例のサーカス団の時だって、豪華客船の時だって、ロナルドと」

「あれは…!部下の尻拭いの為に、たまたま私が…」

「たまたまじゃない。全て人事からの要請だ。君は、頼りにされてるんだよ、ウィリアム」

「…っ」

ウィリアムの言を遮ってアロウが強い声音で言うと、その正論にウィリアムは唇を噛み締めた。

「確かに進言したのは俺だけど、人事課満場一致の結論なんだよ」

「そう…ですか…」

滅多に感情を表に出さないウィリアムのあまりの落胆ぶりに、アロウは悪いと思いつつ笑いを堪えきれなかった。

「ウィリアム。そんな世界の終わりみたいな顔しないでくれよ。君が、ロナルドを煙たがってるのは分かってる。でも懐に入ってしまえば、彼だってそんなに悪い男じゃない」

「そうは思えません…」

「パートナーってのは、何十年もかけて歩み寄っていくものだ。手始めに、俺と三人で呑まないか」

人事に抗議する為に手っ取り早いパイプとなる筈のアロウにそう言われてしまえば、ウィリアムは従うしかなかった。
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