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アリス・カミューズ(椿様)

*    *    *

回収課でも、グレルの姿は見つけられなかった。くじけそうになる心を奮い立たせ、アリスは入り口付近で談笑していたエリックとロナルドに声をかけた。

「エリック、ロナルド、グレルってもう回収に出た?」

「またグレルさんかよ。他に聞く事ねぇのか?」

「今日は見てないっス。ノイン先輩のデスクの中でも探したらどうっスか?」

グレルと仲の良いノインに、アリスが並ならぬライバル心を燃やしているのは回収課では有名な話で、二人は冗談めかして笑い声を立てた。だが鉄の意志を持つ彼女は、くじけない。

「笑い事じゃないわよ!アタシはノインなんかと違って、心の底から、本当に、グレルを愛してるんだから!あの紅い髪の綺麗な事…!」

思い描いて身悶えるアリスに、また二人が笑いを噛み殺した。噂は人を呼ぶらしい。今度は、くだんのノインが息せき切って回収課に入ってきた。一直線に、エリックの元に向かう。

「エリック!」

「おう、ノイン。どうした」

エリックは気安く返す。だがノインは、エリックにとっては重大な事を口にした。

「アランが…倒れたって!」

「何っ」

血相を変え、エリックがもたれていたデスクから身を起こす。

「行きましょう」

エリックと親しいノインは、一緒に医務室に走った。

*    *    *

医療道具の入った黒い鞄の中を探るルーアに、エリックが拍子抜けしたような声音を出した。

「貧血?」

「そうだよぅ。はい、サプリメント。君の場合ややこしいから、しっかり飲むように」

「あ、ありがとうございます、ルーアさん」

「発作じゃなくて、不幸中の幸いだ」

「おやエリック、そんな難しい言葉知ってたんだねぇ」

二人してホッと胸を撫で下ろす様を、ルーアが揶揄した。この二人が付き合っているという噂は、女子派遣員の間では公然の秘密だったからだ。エリックがその手厳しい揶揄に応える前に、医務室のドアがノックされ、全員のスポットはドアに当たった。入ってきたのは、グレルだった。

「はぁ~い、アラン大丈夫?」

「あ、はい。お騒がせしました。貧血です」

「そう。でも体調が悪い事には変わりないワネ。エリック、ノイン、ウィルが呼んでるワ。死亡予定者が、急に増えたって」

「「俺(私)たちを?」」

ユニゾンして、二人は顔を見合わせた。

*    *    *

回収課にグレル・エリック・ノインの三人が戻ると、ちょっとした騒ぎになった。諦めて回収に出ようとしていたアリスとグレルが鉢合わせたからだ。

「嘘ついたわね、グレル!」

「はぁ?何の事?アタシは知らないワァ、言いがかりはやめて頂戴」

長引くかに思われた痴話喧嘩(?)だったが、待っていたウィリアムに一喝され、渋々アリスは口をつぐんだ。

「全く…」

三人がウィリアムの前に並び、アリスは少し後ろで話を窺っている。

「今日の正午、死亡予定者が急激に増加する地域があります。アラン・ハンフリーズの体調が優れないとの事なので、エリック・スリングビーはノイン・ユイメールとパートナーを組んで回収にあたってください。それと、グレル・サトクリフも…」

「ちょっと待って!ウィリアム!ならアタシも、グレルと組んでそっちに回るわ!」

「冗談」

グレルがうんざりした声を出すが、アリスは言い募った。

「アタシの今日の担当は簡単なのが二件なのよ。新人でも出来るわ」

ウィリアムはしばし思考を巡らせて沈黙した。グレルとアリスの関係性を差し引いて考えると、確かにそれは妙案だった。淡々と、坦々と効率を考慮して答えを出す。

「分かりました。アリス・カミューズは、グレル・サトクリフと組むように」

歓喜の悲鳴と、不服の呻きが上がるのは同時だった。アリスはグレルと強引に腕を組む。

「さっ、行きましょ、グレル!」

「ウィル~…」
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