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【俺の天使】

 死神派遣協会、回収課。俺たちの文化は独特だ。文書は伝統を重んじてタイプライターを後生大事に使うけど、派遣協会の建物自体は十二階建てと近代的で、ネット環境も整っている。
 ケースナンバー666-4242、通称『千の魂と堕ちた死神』と呼ばれた事件後、俺はずっとブログを書いていた。日記代わり、備忘録代わりに。君と感じた季節、君と聞いたビッグベンの音。なにひとつ忘れない、忘れられない。仕事の間の十分休みなんかに、書き溜めていた。

「あ」

 もう何度目になるか、君と新人研修で初めて会ったときの印象を記事にしたら、すぐに既読の合図の『ハートマーク』がひとつ付いた。俺はこの何処にも宣伝していないブログの毎記事にハートをひとつ押してくれる存在を、『天使』と呼んでいた。派遣協会の誰かかな? 紅茶をひと口含んで、微笑む。暖かい気持ちでノートパソコンを閉じ、俺はその日帰りまでそれを開くことはなかったのだった。

「……え?」

 そんな声が出たのは、帰る前に一度ブログを開いたときだ。ダイレクトメッセージのマークに重なるように、『1』の文字。俺は動揺して少しの間、口元を押さえて固まる。このブログを俺以外で読んでいるのは、『天使』だけのはずだ。天使になった君が……メッセージをくれたのか? そんな風に思いながら、震える指でマウスをクリックする。

『いつもブログ読んでいます。一度会ってお話がしたいのですが、考えて頂けませんか?』

 無記名だった。文面から俺が男だっていうのは分かるから、ナンパなどではない。俺は、すぐに返事を書いた。

『どういったお話でしょうか?』
『言っても信じて貰えないだろうから……会っていただけたらお話します』
『分かりました』
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