【共犯者】
* * *
ヒントはロンドン、ウエストエンド地区。それだけで君を見付けられる訳がないとも思ったが、心の奥の方ではきっと見付けられるはずだと確信してもいた。
ずぶ濡れで駆け回る俺は、優雅な傘を差した劇場帰りのひとびとが行き交うウエストエンドでは異色だったと思う。
何時間経っただろう。ついに俺は、君を見付けた。もうすっかり暗くなっていたけれど、月明かりを反射する君の金髪が、灯台のように俺を導いてくれていた。
初めて君を見たとき、強いひとだと思った。自信に満ちていて、ポジティブで、言いたいことがきちんと言えて。
だけど今、俺の腕の中で震えている君は、まるで迷子の子犬みたいだ。
コーンロウの金髪を、ゆっくりと、ゆっくりと撫でる。お洒落な君は普段髪の毛に触られることを嫌がったけど、屈んだ俺の胸に額を押し当ててジッとしてる。
季節は春と言ってもよかったが、今夜は冬に逆戻りしたような気温だ。薄暗い路地裏に、ふたり分の白い息が煙った。
雨はいつの間にかあがっていて、軒先から落ちる水滴が澄んだ音を立てている。
――それとは別に、ぽたりぽたりと響く水音も。
エリックの伝書鳩には、こう書いてあった。
『俺はお前を死なせない。魂を集めてみせる。――千の魂だけが、死への呪いから救う。愚かな罪の中で』
真っ赤に染まったドレスの傷口から零れる血液の音だけが、やけに大きく乱反射していた。
違う、俺は君と『特別な関係』を築きたかったけど、こんな風になりたかった訳じゃない。穏やかに送って欲しかっただけ。
「……アラン」
「……なに?」
「死ぬな。死なせない」
「……」
この罪を派遣協会に報告出来ない俺と君は、違う意味で『特別な関係』になってしまった。
そう、『共犯者』
「アラン、愛してる」
水溜まりの上に押し倒されて、唇が触れ合った。知りたくなかった。血液の味なんて。
End.
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