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【いつでも、何度でも】

「エリックさん?」

 小一時間ほど待っていたアランに背後から声をかけられて、俺は派手にむせた。

「エリックさん、大丈夫ですか?」

 あまりにもひどいむせっぷりに、アランが背をさすってくれる。喫煙室はあるがそこは回収課からの帰り道ではなかったから、派遣協会の前の道路上で吸っていた。万が一俺に気付かなくても、優等生のアランは目に留めて必ず注意をするはずだ。そう踏んだ俺の『作戦』だった。

「ゲホッッ……だ、大丈夫だ。……おっ。アランじゃねぇか! 今帰りか?」

 我ながら大根だなと色んな意味で赤面するが、もう引き返せない。アランは不思議そうに、至極まっとうな感想を述べた。

「どうしたんですか? 確か一時間くらい前に、タイムカード押してましたよね」

「いっいや、それがな! どうしても煙草が吸いたくなっちまって、なあ!」

 自分の大根っぷりを意識してしまい、どんどん声が大きくなる。アランは少し驚きに目を見開いたあと、くすりと笑った。俺の大根芝居を笑ったのかと、一瞬死を覚悟する。――だが。アランは細い肩を精一杯いからせて、いつものように怒り始めた。

「だからって。それなら、喫煙室で吸えばいいんです。外でなんて風邪をひくし」

 それからうるんだ瞳で俺を見上げて、アランは小さな声で囁いた。

「でも本当は、俺は……身体に悪いから、出来れば禁煙して欲しいんですけど。エリックさんが居なくなったら、困ります」

 おいぃいいぃ! なんだその殺し文句は!! 俺は鼻血が出るんじゃないかと、革手袋で思わず鼻を覆ってごまかした。

「じゃあ、エリックさん。煙草は程々にしてくださいね。お疲れ様でした」

 ……へ? アランはぺこりと頭を下げて、そのまま俺をやり過ごして帰っていった。『作戦』の意外過ぎる幕切れに、俺は挨拶を返すことさえ出来ずに小柄な背中を見送った。

「アラン……?」

 アランが。帰った。チョコを渡しやすいように、人通りの少ない生垣の隅の方に居た俺を振り切って。……嘘だろ……? これまでの思わせぶりな態度と、あの殺し文句はなんだったんだ、アラン……。俺はよろめきながらとぼとぼと帰って、一睡も出来ずに朝を迎えた。まるで魂を抜かれたように。死神だけにな。(上手い)(上手くない)。思わずそんな自分ツッコミをしてしまうほど、心は千々に乱れていた。
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