【君といつまでも】

【メキシコ 十一月二日】

 イギリスには帰らずに、アメリカから直接メキシコへの出張だった。

「ったく。人使いが荒いぜ」

 ぼやく俺と肩を並べて歩きながら、ふとアランが路地の向こうの大通りを指差す。そこには沢山の人間が溢れていて、どうやらパレードをしているようだった。

「何だろう? お祭りかな。観に行かないか?」

 声を弾ませるアランには悪いが、俺は細く吐息する。

「悪い。疲れた。ホテルに帰って休みてぇ」

「そうか。じゃあ俺も、一緒に行く」

「悪いな」

 俺が帰ると言えば、アランも大抵行動を共にする。分かっていて言った台詞だった。
 そんなアランが愛おしくて、俺は白いこめかみに唇を押し当てる。
 メキシカンの陽気なギターの音色と遠目にも分かるカラフルな人々の衣装に背を向けて、俺たちは殺風景なホテルに向かった。ホテルがなかなか取れなかったのは、この祭りのせいか。
 
「あ、見てエリック」

 ホテルの近くの小さな土産物屋には、たくさんのマスコットが売られていた。手作りなのか、ひとつひとつデザインが違う。華やかな礼服を着た頭の大きな可愛らしい骸骨で、顔には模様にも見えるユニークなメイクが施されていた。
 アランが真っ赤なドレスを着た一体を手に取って、笑顔でこちらに向ける。

「なあこれ、グレルさんにそっくりじゃないか?」

「確かに」

 クスクスと、ふたりだけに分かる笑いを共有する。
 今度は俺が、黒い燕尾服を着た一体を手に取ってアランに見せた。

「こっちは、ウィリアムさんだな」

「なあエリック、これお土産にしないか? そんなに高くないし」

「そうだな」

 出張の度に土産を買っていたら高くつくから普段は買わないのが暗黙のルールになっていたが、あまりにもアランが楽しそうなので付き合うことにした。
 ロナルドのイメージに合うマスコットを探して、ワゴンの中身をくまなく探す。最終的に、金髪でパーティスーツに身を包んだ一体を探し出し、俺たちは大事にそれを抱えてホテルに戻った。
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