【君といつまでも】

【アメリカ 十月三十一日】

「ん……あれ?」

 ホテルの部屋の前に着いてから、いつも貴重品を入れているカバンのポケットを探すがカードキーが見付からず、ガサガサと荷物や身体をあちこち探る。

「あっ、と」

 くたびれたカバンが床に落ちて、こまごまとした中身をぶちまけてしまう。どうして俺は、いつもこう……。溜め息を吐いてから、ひとつひとつを拾い上げてしまっていく。

 小さな簡易裁縫セット。俺は回収業務で戦闘することもあったから、綻びや取れたボタンなんかをアランが付けてくれる。
 缶入りの薬箱。やっぱり擦り傷なんかは、アランがこれで応急処置をしてくれた。医務室には勤務医が居ないからな。
 ハンカチ、ポケットティッシュ。出会った頃には持ち歩く習慣はなかったが、口酸っぱく言われている内に、自然と習慣づけられた。
 俺の人生は、アランによって形作られている。切り離すことがイコール俺の人生ではなくなってしまうように。

 そのとき、部屋のドアが細く開いた。チェーン越しに見える、長いまつげに縁取られた黄緑の大きな瞳。

「あっ、エリック。ちょっと待って。今開ける」

 いったんドアが閉まってチェーンを外す金属音のあと、アランが出迎えてくれる。

「おかえり、エリック」

「ああ、先に着いてたか。たすかった、鍵が見付からなくてよ」

「えぇ? ちゃんと探してくれよ。弁償するの高いんだから」

「ああ」

 生返事をして軽いハグと頬へのキスのあと、俺は思わず笑う。アランは、小さな魔女の帽子をブラウンの頭に乗せていた。

「ハッピーハロウィン!」

「おい待て、これ子ども用じゃねぇのか?」

「通りかかった店じゃ、もう子ども用しか売ってなかったんだ。気分だから、いいだろ」

「ああ。ハッピーハロウィン」

 そう言って、俺はアランを抱き締めた。
 ハロウィンの街は喧騒を極めていたが、俺たちは静かに愛を深めていった。
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