【絶対。】
「どう?」
上半身をひねって、みんなに見えるようにして訊く。全員が一斉に喋り出して、その混沌にまた声を揃えて笑う。
「似合ってるぜ、アラン。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「『何か古いもの』は、親父から譲って貰った懐中時計があるな。『青いもの』は、ブルーローズのブーケでどうだ?」
「あ、うん。青薔薇は好きだよ」
「素敵ね。『新しいもの』は、何が良いかしらね」
「ピアスなんかどうだ?」
「えっ、アランあなた、ピアス開けたの?」
耳元を覗き込んでくる姉さんの視線を遮って、俺は顔の前で小刻みに両手を振る。
「あっ、いや。もしかしたら、これから開けようかな~……なんて!」
俺は耳にピアスは開けてない。エリックが言ってるのは、へそピアスのことだ。俺がへそピアスをしているのを知っているのはエリックだけで、そこに話題がいくことは避けたかった。
「あ、ああ。そうだな」
エリックも悟って、少し慌ててる。だけど落ち着きを取り戻してひとつ咳払いをすると、畏まって俺に跪いた。
「お姉さんの許しを得てから、と思ってたんだ」
まさか。予想通りに、ポケットから青いビロードの小箱が現われる。蓋が開くと、中にはプラチナのリングに一粒のダイヤモンドが輝いていた。
「結婚してくれるか? アラン」
姉家族は全員、身を乗り出し目をキラキラさせて、成り行きを見守っている。俺は恥ずかし過ぎて、思わず顔を覆ってしまった。その反応に、エリックが動揺してるのが分かる。
「アラン。プロポーズなんて、一生に一度きりなのよ。照れないでちゃんと応えないと、あとで後悔するわ」
強要するでもなく、姉さんはやんわりと促してくる。ゆっくり、ゆっくり手を下ろして膝の上で重ねると、跪いたエリックが不安そうな瞳で俺を見上げてた。いつもは自信の塊みたいなエリックが、捨てられた仔犬みたいな目をしてる。これは本当にエリックには悪かったけど、可愛くて愛おしくて、今度は噴き出して顔を覆ってしまった。
「アラン?」
「ごめ……ふふ、ごめん、エリック。君があんまり……」
『可愛い』と言ったらまた怒らせてしまうと思ったから、かろうじて言葉にしなかった。改めてエリックと視線を合わせ、笑顔で応える。
「……こんな俺で良かったら。謹んでお受けします」
捨てられた仔犬の目だったのが、飼い主が帰宅したときの大型犬の表情になった。どうしよう、尻尾がブンブン振られているのが見えるようだ。俺はクスクス笑いながら、左手をエリックに託す。過不足なく、リングはスッと薬指に収った。そのリングに、エリックは軽く口付ける。自然とふたりとも立ち上がって、ハグを交わしていた。
だけど控えめに拍手が上がって、ハッとした。いつの間にか、ふたりだけの世界になっていた。俺は慌てて身を離す。みんなが――エリックでさえ――笑顔で、プロポーズの成功を寿いでいた。
「改めて婚約おめでとう、エリックさん、アラン。エリックさん、アランをよろしくお願いします」
「はい。絶対。絶対、幸せにします」
親代わりに俺を育ててくれた姉さんの目には、涙が微かに光っていた。両親を亡くしたときも、俺が死神派遣協会に入って離ればなれになったときも、姉さんはけして泣き言を言わなかった。その姉さんが、旦那さんに肩を抱かれて泣いている。エリックのサプライズは、思わぬ親代わり孝行になったようだった。
「姉さん、俺、幸せになるよ。エリックと。絶対に」
「ええ。そうね」
泣き笑いのビッグスマイルに、エリックと俺は目を見交わして、もう一度幸せが身体いっぱいに行き交うハグをした。
End.
上半身をひねって、みんなに見えるようにして訊く。全員が一斉に喋り出して、その混沌にまた声を揃えて笑う。
「似合ってるぜ、アラン。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「『何か古いもの』は、親父から譲って貰った懐中時計があるな。『青いもの』は、ブルーローズのブーケでどうだ?」
「あ、うん。青薔薇は好きだよ」
「素敵ね。『新しいもの』は、何が良いかしらね」
「ピアスなんかどうだ?」
「えっ、アランあなた、ピアス開けたの?」
耳元を覗き込んでくる姉さんの視線を遮って、俺は顔の前で小刻みに両手を振る。
「あっ、いや。もしかしたら、これから開けようかな~……なんて!」
俺は耳にピアスは開けてない。エリックが言ってるのは、へそピアスのことだ。俺がへそピアスをしているのを知っているのはエリックだけで、そこに話題がいくことは避けたかった。
「あ、ああ。そうだな」
エリックも悟って、少し慌ててる。だけど落ち着きを取り戻してひとつ咳払いをすると、畏まって俺に跪いた。
「お姉さんの許しを得てから、と思ってたんだ」
まさか。予想通りに、ポケットから青いビロードの小箱が現われる。蓋が開くと、中にはプラチナのリングに一粒のダイヤモンドが輝いていた。
「結婚してくれるか? アラン」
姉家族は全員、身を乗り出し目をキラキラさせて、成り行きを見守っている。俺は恥ずかし過ぎて、思わず顔を覆ってしまった。その反応に、エリックが動揺してるのが分かる。
「アラン。プロポーズなんて、一生に一度きりなのよ。照れないでちゃんと応えないと、あとで後悔するわ」
強要するでもなく、姉さんはやんわりと促してくる。ゆっくり、ゆっくり手を下ろして膝の上で重ねると、跪いたエリックが不安そうな瞳で俺を見上げてた。いつもは自信の塊みたいなエリックが、捨てられた仔犬みたいな目をしてる。これは本当にエリックには悪かったけど、可愛くて愛おしくて、今度は噴き出して顔を覆ってしまった。
「アラン?」
「ごめ……ふふ、ごめん、エリック。君があんまり……」
『可愛い』と言ったらまた怒らせてしまうと思ったから、かろうじて言葉にしなかった。改めてエリックと視線を合わせ、笑顔で応える。
「……こんな俺で良かったら。謹んでお受けします」
捨てられた仔犬の目だったのが、飼い主が帰宅したときの大型犬の表情になった。どうしよう、尻尾がブンブン振られているのが見えるようだ。俺はクスクス笑いながら、左手をエリックに託す。過不足なく、リングはスッと薬指に収った。そのリングに、エリックは軽く口付ける。自然とふたりとも立ち上がって、ハグを交わしていた。
だけど控えめに拍手が上がって、ハッとした。いつの間にか、ふたりだけの世界になっていた。俺は慌てて身を離す。みんなが――エリックでさえ――笑顔で、プロポーズの成功を寿いでいた。
「改めて婚約おめでとう、エリックさん、アラン。エリックさん、アランをよろしくお願いします」
「はい。絶対。絶対、幸せにします」
親代わりに俺を育ててくれた姉さんの目には、涙が微かに光っていた。両親を亡くしたときも、俺が死神派遣協会に入って離ればなれになったときも、姉さんはけして泣き言を言わなかった。その姉さんが、旦那さんに肩を抱かれて泣いている。エリックのサプライズは、思わぬ親代わり孝行になったようだった。
「姉さん、俺、幸せになるよ。エリックと。絶対に」
「ええ。そうね」
泣き笑いのビッグスマイルに、エリックと俺は目を見交わして、もう一度幸せが身体いっぱいに行き交うハグをした。
End.
3/3ページ