【絶対。】
エリックが笑いながら、俺のこめかみを軽く小突く。和やかな雰囲気で、俺たちは姉さんの家に着いた。姉さん一家は俺たちを歓迎してくれて、俺は何回も訪れていたから、旦那さんも交えて話が弾む。だけどエリックが無言なのに気付いてうかがうと、妙に神妙な面持ちでテーブルに出されたシュークリームを見詰めていた。
「エリック、シュークリーム苦手だった?」
「あっ、いや、そんなことはねぇ……ありません!」
やっぱりエリックは、初対面の相手に心を開かないところがあるから、緊張してるのかな。そう思って、水を向けた。
「チビちゃんには、シュークリームじゃなくてプリンが良いんじゃないかって言ったのは、エリックなんだ。三歳じゃまだ、上手く食べられないだろうって」
「あら、お気遣いありがとう。そうね、もしシュークリームだったら、クリームをこぼしていたでしょうね」
「エリックさんは、お酒はたしなむ方ですか? もし良かったら、良い白ワインがあるんですが」
姉夫婦も悟ったのか、エリックに向かってにこやかに話しかける。
「いえっ、あの、そのっ……」
こんなエリックは初めて見た。ひどく狼狽して、何か言いたそうではあるけど、言葉に詰まっている感がある。
「どうしたの? エリック」
「あの……」
ごくり。エリックが生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。チビちゃんも含めて全員の注目を浴びて、数秒間、時が過ぎる。不意にエリックが立ち上がり、姉さんに向かって勢いよく頭を下げた。
「アランさんを! 俺に、くださいっ!!」
全員の目が点になった。……ど、どどどうしよう。この空気。いたたまれなくなって何とかフォローを入れようとしたが、先に口を開いたのは姉さんだった。コロコロと、鈴が転がるように軽やかに笑う。つられて、旦那さんも朗らかに笑っていた。大好きな両親が楽しそうで嬉しいのか、チビちゃんも笑顔だった。ようやく笑いを収めると、姉さんは気負わず明るくエリックに声をかけた。
「ええ、もちろん。こんな弟で良かったら、貰ってやって頂けるかしら。エリックさん、顔を上げて。これから家族になるんだから、堅苦しいのはよしましょう」
「は、はいっ。ありがとうございます!」
「良かったね、アランくん」
顔を真っ赤にしていると、旦那さんから思いがけなく祝福される。今度は俺が言い淀んでしまった。
「あっ、はい……ありがとうございます」
「結婚式はするの?」
「いや、エリックが挨拶したいって言って来ただけだから……凄くビックリした」
「あら、サプライズなのね」
「は、はい」
「うふふ、エリックさんてロマンティストなのかしら。じゃあ、幸せな花嫁に『サムシングフォー』をあげる。アランに、これを貸すわ」
姉さんは両手を首の後ろに回してネックレスを外そうとするが、さり気なく旦那さんが外してあげていた。
「いつも話に聞いてるエリックさんがいらっしゃるから、お洒落したの。これ、私が持ってる中で一番のネックレスよ。着けてくれると嬉しいわ」
「ありがとう」
それは確かに、『質素倹約』が座右の銘の姉さんにしては、小綺麗なネックレスだった。ヘッドには、大中小のダイアモンドが真っ直ぐに連なって揺れている。受け取って、俺も項に手を回すと、エリックがすぐに着けてくれた。あ……姉さん夫婦とおんなじだ。こうやって極自然に、相手を思いやることが出来ているんだな。その事実も、俺の頬を上気させた。
「エリック、シュークリーム苦手だった?」
「あっ、いや、そんなことはねぇ……ありません!」
やっぱりエリックは、初対面の相手に心を開かないところがあるから、緊張してるのかな。そう思って、水を向けた。
「チビちゃんには、シュークリームじゃなくてプリンが良いんじゃないかって言ったのは、エリックなんだ。三歳じゃまだ、上手く食べられないだろうって」
「あら、お気遣いありがとう。そうね、もしシュークリームだったら、クリームをこぼしていたでしょうね」
「エリックさんは、お酒はたしなむ方ですか? もし良かったら、良い白ワインがあるんですが」
姉夫婦も悟ったのか、エリックに向かってにこやかに話しかける。
「いえっ、あの、そのっ……」
こんなエリックは初めて見た。ひどく狼狽して、何か言いたそうではあるけど、言葉に詰まっている感がある。
「どうしたの? エリック」
「あの……」
ごくり。エリックが生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。チビちゃんも含めて全員の注目を浴びて、数秒間、時が過ぎる。不意にエリックが立ち上がり、姉さんに向かって勢いよく頭を下げた。
「アランさんを! 俺に、くださいっ!!」
全員の目が点になった。……ど、どどどうしよう。この空気。いたたまれなくなって何とかフォローを入れようとしたが、先に口を開いたのは姉さんだった。コロコロと、鈴が転がるように軽やかに笑う。つられて、旦那さんも朗らかに笑っていた。大好きな両親が楽しそうで嬉しいのか、チビちゃんも笑顔だった。ようやく笑いを収めると、姉さんは気負わず明るくエリックに声をかけた。
「ええ、もちろん。こんな弟で良かったら、貰ってやって頂けるかしら。エリックさん、顔を上げて。これから家族になるんだから、堅苦しいのはよしましょう」
「は、はいっ。ありがとうございます!」
「良かったね、アランくん」
顔を真っ赤にしていると、旦那さんから思いがけなく祝福される。今度は俺が言い淀んでしまった。
「あっ、はい……ありがとうございます」
「結婚式はするの?」
「いや、エリックが挨拶したいって言って来ただけだから……凄くビックリした」
「あら、サプライズなのね」
「は、はい」
「うふふ、エリックさんてロマンティストなのかしら。じゃあ、幸せな花嫁に『サムシングフォー』をあげる。アランに、これを貸すわ」
姉さんは両手を首の後ろに回してネックレスを外そうとするが、さり気なく旦那さんが外してあげていた。
「いつも話に聞いてるエリックさんがいらっしゃるから、お洒落したの。これ、私が持ってる中で一番のネックレスよ。着けてくれると嬉しいわ」
「ありがとう」
それは確かに、『質素倹約』が座右の銘の姉さんにしては、小綺麗なネックレスだった。ヘッドには、大中小のダイアモンドが真っ直ぐに連なって揺れている。受け取って、俺も項に手を回すと、エリックがすぐに着けてくれた。あ……姉さん夫婦とおんなじだ。こうやって極自然に、相手を思いやることが出来ているんだな。その事実も、俺の頬を上気させた。