【ウェディング・ベル】
気が付いたら教会に居た。ステンドグラスの光が優しく差し込む教会で、やわらかいパイプオルガンの音色が結婚行進曲を奏でている。シチュエーションは心安らぐもののはずなのに、何故かひどく胸騒ぎがした。俺はヴァージンロードのすぐ隣の席で、連なった長椅子の中程の位置に居た。
「新郎新婦の入場です!」
前方中央に立つ神父さんが、高らかに宣言する。両開きの扉が開く音がして、歓声が上がった。みんな振り返って満面の笑みだけど、俺は何故だか、恐くて花婿を見ることが出来ない。花婿……? そう、胸騒ぎの原因は花婿だった。不意に渡された招待状。ショックで何をどうしたのかも分からず、かろうじてループタイを慶事用の白いネクタイに変えて、青い顔をして座っているのだった。
姉さんの結婚式で見たことがある。新郎と新婦が腕を組んで、一歩、また一歩と歩調を合わせて神父さんの元へ向かうのを。俯いた俺の視界に、白いスラックスが入ってくる。俺は見たくなくて、首がグギギ、と変な方向に曲がるのを感じた。式は粛々と進み、神父さんの聖書の引用のあと、質問がされる。
「汝、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
指の先が冷たくて思わず擦り合わせると、カタカタと震えているのが分かった。これは、神様との約束だ。神様に誓ってしまったら、もう二人は夫婦なんだ。俺の入り込む余地なんてない。どうするアラン? このまま黙って宣誓を聞いて、家に帰って一晩中泣き明かすか、異議を唱えるべきか。〇.五秒の間にそんな考えが脳内を駆け巡る。理性や理屈ではなかった。脊髄反射だった。
「……は……」
「ちょっと待った!!」
教会中の視線が、立ち上がった俺を射貫いている。でもそんなことは、ものともしない。新郎を見詰めたまま、早足で歩み寄る。
「アラン……!?」
「行こう! エリック!」
俺だって男だし、鍛えてる。エリックの手首を掴む。そして、大声で宣誓した。
「俺たちは、健やかなるときも病めるときも、一緒だった。君が好きなんだ、エリック!!」
「新郎新婦の入場です!」
前方中央に立つ神父さんが、高らかに宣言する。両開きの扉が開く音がして、歓声が上がった。みんな振り返って満面の笑みだけど、俺は何故だか、恐くて花婿を見ることが出来ない。花婿……? そう、胸騒ぎの原因は花婿だった。不意に渡された招待状。ショックで何をどうしたのかも分からず、かろうじてループタイを慶事用の白いネクタイに変えて、青い顔をして座っているのだった。
姉さんの結婚式で見たことがある。新郎と新婦が腕を組んで、一歩、また一歩と歩調を合わせて神父さんの元へ向かうのを。俯いた俺の視界に、白いスラックスが入ってくる。俺は見たくなくて、首がグギギ、と変な方向に曲がるのを感じた。式は粛々と進み、神父さんの聖書の引用のあと、質問がされる。
「汝、その健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
指の先が冷たくて思わず擦り合わせると、カタカタと震えているのが分かった。これは、神様との約束だ。神様に誓ってしまったら、もう二人は夫婦なんだ。俺の入り込む余地なんてない。どうするアラン? このまま黙って宣誓を聞いて、家に帰って一晩中泣き明かすか、異議を唱えるべきか。〇.五秒の間にそんな考えが脳内を駆け巡る。理性や理屈ではなかった。脊髄反射だった。
「……は……」
「ちょっと待った!!」
教会中の視線が、立ち上がった俺を射貫いている。でもそんなことは、ものともしない。新郎を見詰めたまま、早足で歩み寄る。
「アラン……!?」
「行こう! エリック!」
俺だって男だし、鍛えてる。エリックの手首を掴む。そして、大声で宣誓した。
「俺たちは、健やかなるときも病めるときも、一緒だった。君が好きなんだ、エリック!!」
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