連載【12月のDiary】

12月10日(土)

 4月にアランとパートナーを組んでから、8ヶ月経った。
 新人研修を優秀な成績で突破したアランは、仕事の覚えも早く、あっという間に回収課のアイドルになった。
 前ふたつはいい。俺にとっても喜ばしいことだ。
 だが、最後のひとつは誤算だった。

 死神は人間が自殺することで増えるから、プライベートパートナーが異性とは限らない。
 更に女の少ない回収課では、アランは文字通りの『アイドル』だった。
 アランと親しくなろうと……胸くそ悪いが、あわよくば付き合おうと、男女問わずに毎朝アランの周りはちょっとした人だかりになる。
 いつもはギリギリアウトで出勤する俺が、最近アランに時間を訊いて、始業の9時半より20分早く出勤するようになって気付いたことだった。
 みんな、誰が1番速くアランに「おはよう」を言うか、気の利いた話題で好感度を上げられるか、競ってやがる。

 次の日から俺は、更に10分早く協会に着き、エレベーターホールやタイムカードのところでさり気なくアランを待つようになった。
 喫煙室はあったが、時には玄関前で一服していて声をかけることもあった。
 小言や始末書を喰らうことはあったが、アランと組んでから俺が遅刻しなくなったと管理課から思わぬ賛辞を受けてしまい、アランが喜んでいた。
 下心で動いている俺としてはちょっと……ほんのちょっとだけ胸が痛んだが、俺のアランに手を出そうとする奴は許せない。

 俺たちには土日も祝日もイベント休暇も存在しないから、形ばかりの季節感としてエレベーターホールに飾られた年季の入ったクリスマスツリーを見て、ハッとした。
 バレンタインデーを逃して4月に出会った俺たちだが、クリスマスを一緒に過ごすことは……出来ないだろうか?
 そんな願望を持ったのは、アランが初めてだった。

 いつも、ロナルド企画のクリスマス合コンで適当な相手を見付けてはポイ捨てしてた。
 俺が恋人を作らないのは承知の上で、「それでもいい」とか「僕が最初の恋人になる」とか、気合いの入った奴らをバッサバッサと斬り捨てて生きてきたのに。
 お前相手には、どう切り出したらいいのか分からない。
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