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【天使と悪魔】

 エリックはアランを横抱きにして、ベッドに運ぶ。装いは天使と悪魔だが、状況的には真逆の状態だろう。シングルベッドにそっと下ろして――そのままエリックは、アランに毛布をかけた。離れようとする手首を、アランが掴む。

「ん、もっと」

 今度は正味の装いになるだろう。天使エリックに、七つの大罪の内のひとつ『淫蕩』を囁く悪魔アラン。だが天使は優しく、捕まれた手を離してその甲に口付けた。

「駄目だ」

「何で」

「お前が酔ってるからだ」

「酔ってらいもん」

 エリックは失笑して、くつくつと肩を震わせた。こんなに愉快な気持ちになったのは、いつぶりだろう。

「いーや、酔ってる。それに、酒の勢いを借りなきゃ告白出来ないような奴は、まだガキだ。今度、改めて……素面のときに告白させてやる。あらゆる手を使ってな」

「んむ……」

 もう一度そっと前髪に口付けると、長いまつ毛が下りて、やはり幸せそうに微笑んだ。

「おやすみ。アラン」

「おやしゅみ……なさい……」

 規則正しい寝息が上がり出す。季節はもう初冬。エリックは、アランの首元までしっかりと毛布で包んでやってから、リモコンで明かりを常夜灯にする。それから自分は、ソファに横になった。いつも下着一枚で寝ているから、風邪を引く心配はない。だが胸が騒いでなかなか眠れず、頭の下で手を組んで、いつまでも黄緑の燐光がふたつ、薄闇にポツリポツリと光っていた。唇には、何かを企むような微笑みひとつ。翌朝から、エリックとアランの恋の駆け引きが、幕を開ける。

End.
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