【天使と悪魔】
* * *
そんな経緯で、ふたりは酒とツマミをしこたま買い込み、アランのアパートに着いたのだった。派遣協会に入ったばかりで薄給のアランのアパートは壁が薄く、普段はみな息を潜めるようにして会話しているのだが、今宵ばかりは違っていた。あちこちの部屋から、賑やかな乾杯を重ねる声が聞こえてくる。
「エリックさん、コップ使います?」
キッチンからコップをふたつ両手にリビングを覗き込んだアランは、エリックがソファで早くも缶ビールを呑んでいるのを目にして、非難の声を上げた。
「あ~! エリックさん、乾杯まだですよ~!」
素行の悪い先輩は、何処吹く風だ。
「二杯目で乾杯すりゃ良いんだろ」
悪びれずにそう笑って、飲み干したひと缶目を握り潰す。だが端正な見かけに似合わず気の強いところのあるアランは、唇を尖らせた。
「もう、エリックさんたら。初めての家吞みなのに!」
エリックは長いローブが足にまとわりつくのが億劫で、太ももまで捲り上げてパタパタと扇ぐ。そこへ、アランがコップをひとつとフォークを二本、運んでくる。
「わっ」
アランにはエリックの下着が見えてしまい、思わず目を塞いで持ち物が落ちた。フォークは澄んだ音を立て、プラスチック製のコップはカランカランとエリックの足元まで転がっていく。それを拾ってローテーブルに置き、エリックは大いに笑った。
「何だよ、俺のパンツでそんなに興奮すんのか?」
再びローブの裾をはためかせるエリックに、アランは目を塞いだまま悲鳴を上げる。
「エリックさん、やめてください!」
「はっはっは、お前ほんとにうぶだよな。座ってろよ。コップとフォーク、洗ってきてやるから」
「え……」
エリックはコップとフォークを拾い、アランに軽くハグしてからキッチンに向かう。アランは急に、心臓がギクシャクと不協和音を奏で出すのを感じていた。混乱する。元よりエリックには尊敬と好意を持っていたが、エリックのような死神になりたいという、憧れだと思っていた。パートナーになれたときも嬉しかったが、それよりも大きく、ハグされたのが嬉しいことに戸惑う。惑乱する視界に、ふとビールが入ってきた。
「アラン……おい、お前酒弱いだろ!?」
缶ビールを一本、立ったまま一気にあおっているアランに、エリックが仰天して駆け付ける。ぷはっと息を吐いて、アランはグラリと揺れた。倒れそうになるアランをエリックが受け止めて、またコップとフォークは床に散った。ソファに寝かせると、シースルーに透ける鎖骨がやけに色っぽいことに気付いて、エリックも戸惑う。だが、混乱はしなかった。それは初めて会ったときから、自分がアランに惹かれていることに気が付いていたからだ。
「おい、大丈夫か、アラン」
「んん……ん~」
新歓コンパにも顔を出すエリックは、今まで何十人と、合格の喜びから羽目を外し急性アルコール中毒になる死神たちを見てきていた。すぐにアランの唇に耳を持っていき、呼吸抑制がないことを確かめホッとする。
「良かった……無茶するなよ、アラ……」
ギクリとする。首にアランの手がかかったからだ。間近に目を合わせると、アランの瞳は半眼にトロリと潤んでいた。完全に酔っている。
そんな経緯で、ふたりは酒とツマミをしこたま買い込み、アランのアパートに着いたのだった。派遣協会に入ったばかりで薄給のアランのアパートは壁が薄く、普段はみな息を潜めるようにして会話しているのだが、今宵ばかりは違っていた。あちこちの部屋から、賑やかな乾杯を重ねる声が聞こえてくる。
「エリックさん、コップ使います?」
キッチンからコップをふたつ両手にリビングを覗き込んだアランは、エリックがソファで早くも缶ビールを呑んでいるのを目にして、非難の声を上げた。
「あ~! エリックさん、乾杯まだですよ~!」
素行の悪い先輩は、何処吹く風だ。
「二杯目で乾杯すりゃ良いんだろ」
悪びれずにそう笑って、飲み干したひと缶目を握り潰す。だが端正な見かけに似合わず気の強いところのあるアランは、唇を尖らせた。
「もう、エリックさんたら。初めての家吞みなのに!」
エリックは長いローブが足にまとわりつくのが億劫で、太ももまで捲り上げてパタパタと扇ぐ。そこへ、アランがコップをひとつとフォークを二本、運んでくる。
「わっ」
アランにはエリックの下着が見えてしまい、思わず目を塞いで持ち物が落ちた。フォークは澄んだ音を立て、プラスチック製のコップはカランカランとエリックの足元まで転がっていく。それを拾ってローテーブルに置き、エリックは大いに笑った。
「何だよ、俺のパンツでそんなに興奮すんのか?」
再びローブの裾をはためかせるエリックに、アランは目を塞いだまま悲鳴を上げる。
「エリックさん、やめてください!」
「はっはっは、お前ほんとにうぶだよな。座ってろよ。コップとフォーク、洗ってきてやるから」
「え……」
エリックはコップとフォークを拾い、アランに軽くハグしてからキッチンに向かう。アランは急に、心臓がギクシャクと不協和音を奏で出すのを感じていた。混乱する。元よりエリックには尊敬と好意を持っていたが、エリックのような死神になりたいという、憧れだと思っていた。パートナーになれたときも嬉しかったが、それよりも大きく、ハグされたのが嬉しいことに戸惑う。惑乱する視界に、ふとビールが入ってきた。
「アラン……おい、お前酒弱いだろ!?」
缶ビールを一本、立ったまま一気にあおっているアランに、エリックが仰天して駆け付ける。ぷはっと息を吐いて、アランはグラリと揺れた。倒れそうになるアランをエリックが受け止めて、またコップとフォークは床に散った。ソファに寝かせると、シースルーに透ける鎖骨がやけに色っぽいことに気付いて、エリックも戸惑う。だが、混乱はしなかった。それは初めて会ったときから、自分がアランに惹かれていることに気が付いていたからだ。
「おい、大丈夫か、アラン」
「んん……ん~」
新歓コンパにも顔を出すエリックは、今まで何十人と、合格の喜びから羽目を外し急性アルコール中毒になる死神たちを見てきていた。すぐにアランの唇に耳を持っていき、呼吸抑制がないことを確かめホッとする。
「良かった……無茶するなよ、アラ……」
ギクリとする。首にアランの手がかかったからだ。間近に目を合わせると、アランの瞳は半眼にトロリと潤んでいた。完全に酔っている。