【天使と悪魔】
* * *
「グレルさん……間違えたのかな」
「いや。これは確信犯だ。ちゃんとサイズが合ってる。あの野郎……」
更衣室で着替えて初めて顔を合わせたふたりは、乾いた笑いを漏らしていた。エリックは狼男が似合いそうなワイルドな風貌だが、白一色のローブは、純白の翼を持った天使だった。反対に天使こそが似合いそうなアランは、ところどころシースルーの妙にセクシーな黒い悪魔のボディスーツだった。漆黒の翼に先の尖ったしっぽが可愛らしく揺れている。
「ど……どうしよう」
「また着替えるのも面倒だな……どうせみんな、似たような格好だろ。仕方ねぇ。このまま帰ろうぜ」
そうして繰り出した街は、グレルの言った通りまさに『お祭り騒ぎ』だった。ゾンビの大群が街を闊歩し、小さな魔女たちが家々を回っては「トリックオアトリート!」と声を揃えている。エリックのいかつい天使は不評だったが、アランのセクシー小悪魔は好評で、時々道行くひとに「アメージング!」などと声をかけられた。その度に、エリックはさり気なく「連れは自分だ」とアピールしガードしていたのだが。その辺アランは鈍感だ。
「俺、ハロウィンで仮装したの、初めてです」
アランが嬉しそうに、エリックに笑顔を見せる。
「マジか。ガキの頃とか、親に着せられなかったか?」
「あ、俺、物心ついた時から両親が居なくて。裕福じゃない孤児院で育ったから……」
寂しい生い立ちを、だがアランは初めての仮装に上気した頬のまま語る。新人研修後そのままパートナーを組んだふたりの時間は一ヶ月も経っておらず、まだ腹を割って話したことがない。子どもの頃の話をしたのは初めてだった。エリックはしまったと思ったが、そのまま謝罪して会話を気まずくするような野暮ではなかった。
「そうだったのか。じゃあ、これから毎年、ハロウィンも、クリスマスも、イースターも、一緒にやろうな」
「えっ。良いんですか!?」
元より色付いていたアランの顔が、更に輝く。素直過ぎるあまりに少し子どもっぽいところのあるアランの黄緑の瞳には、期待と好奇心がキラキラと光っていた。
「ああ。俺たちゃパートナーだ。コミュニケーションを取るのも、立派な仕事のうちだ」
セクシー小悪魔衣装を着ていてもアランはアランで、装いとは不似合いに、胸の前で両手を組み合わせ「嬉しい」と呟く。
「せっかくだから、このまま家呑みでもするか……って、あ~、俺ん家めちゃくちゃ散らかってるな」
名案が立ち消えそうになったとき、アランが明るい声を上げた。
「あ、じゃあ俺の家にしませんか?」
「マジで? 良いのか?」
「はい!」