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【天使と悪魔】

「ハァーイ、エリック! アラン!」

 いつものように書類仕事をアランに任せ、仲良く残業していたふたりの前に、いつにも増して派手な装いのグレルがやってくる。スタンドカラーの長いマント、鋭い牙、シルエットは間違いなくドラキュラなのだが、そのマントの色は鮮やかなスカーレットだった。

「お前なあ、ドラキュラは闇に忍んでるんだぞ。もうちょっと忍べよ」

エリックが面倒臭そうにツッコミを入れる。

「アラ、それって一世紀前の感覚ヨ。ドラキュラだって、たまにはお洒落したいじゃない!」

 グレルにはちっとも効いていないようだ。

「グレルさん、その格好で帰るんですか?」

 驚いて目を見張っているアランに、グレルは自慢の赤毛をかき上げてみせる。

「これから、ハロウィン合コンに行くのヨ!」

「あ……ハロウィン!」

 そこで初めて気付いたようで、アランは声を高くした。

「忙しいのは分かるけど、イベントくらい楽しみマショ。アンタたちふたりとも、仮装しない訳?」

「面倒臭ぇ」

「俺、学生時代勉強ばかりしてたから、そういうイベントって殆どやったことないんですよね」

「ンフッ」

 グレルはサメのように尖った歯列を、ニイと覗かせた。

「そんなこともあろうかと、余分に持ってきたのヨ。はい、エリックはこれ、アランはこっち」

 戸惑っている内に、死神の正装、喪服の腕に衣装が押し付けられる。

「俺たちの分も? 大変だったんじゃないんですか」

「アラ、簡単ヨ。ドンキに行けば、五十ドルもあったら何着でも揃うんだから!」

「鈍器?」

「ハイ、お喋りは終わり! エリックは合コン行くの?」

「行かねぇよ」

「ア~ラ……。合コン魔のアンタがねぇ、そうなんだぁ、ふ~ん……」

 意味ありげにふたりを見比べて、グレルは再度歯を見せた。

「もう街中、お祭り騒ぎヨ。人間界も、死神界も。着たまま帰って、せめて雰囲気を味わいなさいな」

「良いんですか……」

「それじゃ、アタシはお持ち帰りキメるから! バーイ!」

 アランが伸ばした手を空中に残したまま、赤いマントを翻してグレルはスキップ気味の小走りで行ってしまった。あとに残ったのは、衣装を持ったエリックとアラン。

「……どうする?」

 顔を見合わせて、異口同音に呟いた。
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