【大好きな君へ】

「そうか。強引にして悪かった。鼻で息するんだ。嫌じゃなかったら、俺の首に手を回してくれないか……?」

 俯いた耳元に囁くと、おずおずと両腕が上がって、俺の項に添えられた。俺はお前の、桜色に染まった頬を包み込むように、掌を当てる。

「目を合わせてくれ」

 密着しているため、顎が上がると揃いの黄緑の瞳が、十五センチの距離で合う。

「キス、教えてやる。俺の真似してみろ」

 先とは違ってゆっくりと近付くと、お前は目を細めたが、閉じてしまうことはなかった。夢うつつのようにトロリとした半眼を間近に見ながら、努めて優しく、触れては離れる。下唇を軽く食むと、お前も真似して食んできた。だんだんと慣れてくる感覚は、『初めて』のオトコということを自覚させ、ひどく興奮するものだった。

「あ……やべぇ」

「ん?」

 唇を離して独り言つ俺を、お前は不思議そうに首を傾げて見上げる。

「アラン。続きは、終業後な」

 そう言って頭を撫でると、嘘のつけないお前は、残念そうな顔をした。俺は思わず笑う。

「そんな顔すんな。協会じゃ色々出来ねぇだろ。俺は少しこれを収めてから戻るから、先に戻っててくれ」

 これ、と言ったとき、俺は硬くなったムスコをお前の腰に当ててやった。案の定、お前は赤くなったり青くなったりしている。

「安心しろ。強引に迫ったりしねぇから。お前の心の準備が出来るまで待つ。お前も『初めて』かもしれねぇが、俺にとっても『初恋』なんだ」

 階段に座って時間を潰す体制を取ったが、お前は廊下に続く鉄扉を開けず、逆に俺に近付いてきた。

「……ん?」

 不思議そうに見上げる俺の頬を、先の俺みたいに掌で包み込み――お前は、迷える子羊に裁きの天使がするように、そっと額にキスをした。ゆっくりと離れると、俺の自慢のブロンドが乱れない程度に気を遣って、そっと撫でられる。視線の先では、お前が聖母みたいに微笑んでいた。声は発さずに、唇だけが動く。

 それからお前は、廊下へと出て行った。身長が百八十以上ある俺は、ここ何百年もひとに頭を撫でられた記憶がない。百戦錬磨のはずの俺が、じわりと羞恥に頬を染める。撫でられた部分に手を当て、心の中で先のお前の表情を反芻した。

『大好き』

 お前のつやつやした唇は、そう綴っているのだった。軽薄な女たちが囁く「I love you」とは大違いで、その言葉はおれの体温を一℃あげさせるのだった。俺も――お前が好きだ。「大好き」だ。アラン。

End.
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