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【五月雨のあとに】

「アラン? どうしたんだ」

「エリック」

 パジャマを着たアランは、ベッドを出て窓際に立っていた。先ほどまでシトシトと降っていた雨がやんで陽が差し込み、多少血色の悪いアランの頬を、暖かく照らし出している。振り向いて、アランは嬉しそうに笑った。思わず、つられてエリックも微笑んでしまうほどのスマイルだった。

「見て」

 窓の上の方を差す。エリックはアランの横に並んで、窓の外を見上げて肩を抱いた。ベッドから出て冷えたのか、少し体温が低い。

「ああ……虹か」

「うん。綺麗だな。何か、良いことが起こりそうな気がしないか?」

 アランは日頃からそんな、多少子どもっぽいとも思える純真さを持っていた。

「そうだな。だけど、身体が冷たい。ちゃんとベッドに入って、輸血が終わるまで安静にしててくれ」

 アランは、ふふと吐息で笑った。

「心配性だな、エリック。ちょっと貧血なだけだから、そんなに甘やかさないでくれよ」

「どれだけ甘やかしても、足りねぇってことはねぇよ。アラン。……愛してる」

「俺も、エリック。……ん」

 唇が触れ合った。薔薇色だった唇も、少し青ざめている。アランの頬を両手で柔らかく包んで、啄むように何度かバードキスを交わしてから、エリックは愛しげにチョコレートブラウンの後れ毛を撫でつけた。

「さあ、ベッドに入ってくれ。少し眠った方が良い」

「うん。分かった。……エリック」

「ん?」

「俺が眠るまで、そばに居てくれる?」

「ああ。もちろんだ。手を握っててやるよ」

「嬉しい」

 アランが冷えた身体をベッドに横たえると、エリックが大切に毛布で包んだ。言葉通り手を握ると、アランは幸せそうに微笑んで、うつらうつらと眠りの淵に落ちていった。
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