【ニューイヤー●●】

「アラン、何怒ってんだよ」

「怒ってない」

「いや、どう見ても怒ってるだろ」

「怒ってない! しつこいな!」

「教えてくれなきゃ、分かんないだろ」

 俺のアランは、たまにこうやって機嫌を悪くする。そして、理由を訊いても答えないことがあった。俺は大雑把だから、繊細なアランには我慢出来ないこともあるんだろう。俺がこうやって理由を尋ねるのは、アランだけだ。今はもう通っていないが、合コンで知り合った女が機嫌を悪くしたって、分かれて家に帰るだけで食い下がったりしない。惚れた弱み、ってやつなんだろうな。不思議と穏やかに、そう思う。

「なぁ」

 早足で先を行くアランの、左手を握る。パンと弾かれる。

「知らないっ!」

 せっかくのニューイヤー、たまには贅沢しようと小洒落たレストランで年越しイベントを終えての帰り道だった。俺は後ろから思い切りアランを抱き締め、顎を取って上向かせ、上下逆さまに唇を触れ合わせる。身長差があるから出来る、キスの仕方だった。

「んん!」

 抗議の呻きが上がるが、無視して優しく唇を吸う。アランはセックスよりもキスの方が好きだったから、たっぷり甘やかして溶かしてしまう作戦だった。柔らかく甘噛みしリップノイズを立てて離れると、トロンととろけたアランのライムグリーンと目が合った。

「なぁ、許してくれよ。ヒントをくれ」

「……キス」

「あ?」

「キス、しただろ。女の子と」

 俺は目まぐるしく記憶をさかのぼって、いつの話かと考える。合コン? いや、アランと付き合ってからは、人数合わせで顔だけ出して帰ってる。それじゃ、その前? アランは付き合う前のことに、嫉妬したりしない。じゃあ……。直近の記憶に、ピンと繋がった。

「ひょっとして、ニューイヤーキスのことか?」

「……そう、だよ」

 アランは大人しくバックハグされているが、視線を外して正面に向ける。
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