【きっと君は来ない】

 カツカツと急ぎ足の足音が近付いてきて、ハッと顔を上げると、隣の木の下にドレスアップして立っていた女性の元にパンツスーツの女性が合流するところだった。死神は生殖行為で妊娠して子孫を残す仕組みではないから、男女のどちらを好きになるかは、完全に好みの問題だ。女性たちは、ハグして啄むようなバードキスを一度交わす。その姿は、純粋に美しいと思った。俺は汚い。俺じゃ、あんな風になれない。

 まだ消え残る君への想い
 夜へと降り続く

 あと十分だけ待ってみることにした。いや、もはや待つと言うより、自分の中の未練を断ち切る為だ。明日の朝、LINEに気付いた君が返事に困らないよう、頭の中で文面を考える。

『急に誘ってすみませんでした。プレゼントは、姉と相談して決めます。気にしないでください』

「アラン」

『素敵なクリスマスイヴを――』

「アラン!」

 二の腕を掴まれて、顎が上がると、ぼろぼろと涙の粒が頬を伝わった。嬉しいのと悲しいのが交じり合った、複雑な感情だった。あんなに待ち望んだ筈の君なのに、涙でグシャグシャの顔を見られたくなくて、思わず顔を逸らしてしまう。でも君は、二の腕を離してくれない。次の瞬間、引き寄せられて、逞しい胸の中に抱き込まれた。混乱している内に、額に君の唇が当たる。思ってたよりずっと、柔らかくて暖かい。それはさっき見た、美しいカップルたちのようで。ビックリして、涙も止まってしまった。

「アラン。クリスマスイヴにここに立ってるってことは……自惚れて良いんだな?」

「え?」

 君の大きな掌が、俺の後頭部を愛おしそうに撫でる。

「参ったな。天然か。……この木は?」

 視線で頭上を示され見上げると、落葉樹の枝に鳥の巣のように、緑の玉が寄生していた。

「あ……」

 ヤドリギ。クリスマスにこの木の下にいる若い女性は、キスを拒むことが出来ないという伝説がある。間近で、君が笑った。俺の好きな、自信たっぷりの笑み。

「んっ」

 後頭部を撫でていた指がグッと後れ毛を掴んで、強制的に上向かされる。近付く君の唇に、瞼をギュッと瞑った。唇が重なって、俺たちの新しい関係が、始まる。

End.
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