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 ふたりは一度集落を出てから、改めて姿を隠して分け入った。土地は広いが家は数えるほどしかないため、すぐに『花村』という表札を見付ける。門から入り口まで日本庭園のある、立派な古民家だった。
 そっと気配を殺して入ると、濡れ縁の奥の部屋に布団が敷かれ、誰かが寝ているのが見えた。死神は総じてド近眼のため、ふたりは苦労して目を凝らす。

 あっと、思わずアランが息を飲んだ。それは、一週間以上前に亡くなった筈の、花村竜そのひとだった。
 いくら涼しい秋の山奥とはいえ、昼間は二十五℃近くまで気温が上がる。日本の風習として、遺体を火葬することは知っていた。それをせず、そのままになっているのだとしたら、凄惨な状況になるだろう。
 だが死神の精度の良い鼻でも、腐臭は感じ取れなかった。

 息を殺して見ている前で、彼は『寝返りを打った』。
 奥の襖が開いて、背の高い人物が入ってくる。長身な故に、頭部は庭木の葉に隠れうかがい知れない。
 すると彼は、上半身を起こしてこんな風に言った。

「村長さん。おかげさまで、もう苦しくありません。夢のようです。ありがとうございます」

「礼なんて、良いんだよ」

 黒ずくめの男は、青年の顎に長い人差し指をひっかけて、持ち上げる。うっとりと、青年は目を細めた。
 口付けでもしそうなほど男が顔を近付けて初めて、顔が見えた。見覚えのあり過ぎる顔だった。

「アンダーテイカー!」

 エリックが囁く。精度の良い耳は、それを的確に拾ったようだった。

「おぉや。ハンサムくんとカワイ子ちゃんじゃないか。はるばる英国から、日本くんだりまでようこそだよぉ」

 ふたりはもう身を隠さず、庭木の影から姿を現した。アンダーテイカーが、ニイと特徴的な笑みを見せる。

「英国支部には目をつけられてしまったからねぇ。日本の片隅でそっと実験したかったんだけど。残念だよぉ。でも彼は今のところ最高傑作だから、連れて行くねぇ」

 そして、含み笑いと共に、号令をかけた。

「ヒッヒッ……さあみんな。楽しいパーティの始まりだよぉ!」

「見ない顔だねえ。何の用だい!?」

「ハルヱさん。どうしたい!?」

「あんれ外人さんじゃねえ! よく来なすった!!」

「朝どれのキュウリ、食べてみんしゃい!!」

「お国はどちらさ!?」

「ワン! ワンワンワンワンワンワンワン……!!!!!!」

 どっと、今まで静かだった景色に、急に十人強の人影がわいた。みなエリックとアランに、輪を狭めるようにしてじわりと詰め寄る。ふたりは思わずデスサイズを顕現させ、背中合わせに臨戦態勢を取った。

「ヒッヒッヒッ……こんな面白そうな見世物を最後まで見られないなんて、小生はツイてないねぇ。さあ行くよ、リュウ」

「はい。村長さん」

 アンダーテイカーが促すと、青年はかたわらに外してあった眼鏡をかけ、彼の首に両手を回す。軽々と抱き上げて、アンダーテイカーは奥の間に消えた。
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