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 そうしてエリックとアランは、山あいの集落に来ていた。僅かな平地に五~六軒の古民家が点在し、家よりも田畑やビニールハウスの方が確実に広かった。
 間を縫うようにして砂利道が続くが、ひとっこひとり見えない。だが、何処か遠くで草刈り機の稼働音がするので、かろうじて無人ではないのだなと分かった。
 何故だろう。何だか、嫌な感じがする。そう思って口を開こうとしたら、エリックが先んじた。

「何か、空気が悪りぃな。こんなに山の中なのに」

「俺もそう思う。瘴気みたいなものが、漂っている気がする」

「どうする? 聞き込みしてみるか? それとも俺たちだけで何とかするか?」

 そのとき、犬の吠える声がした。ふたりが振り返ると、砂利道を、犬を連れた老婆がほっくりほっくり歩いてくるのが見えた。

「あのひとに聞いてみよう」

 老婆の歩みはひどく遅いので、ふたりは足早に歩み寄った。

「こんにちは」

「はい、こんにちは。見ない顔だねえ。何の用だい?」

「実は、先日亡くなった、ハナムラ・リュウさんのことをお訊きしたくて。彼はどんな方でした?」

 アランは声をやや高くした。警戒心の強い日本犬が、烈火のごとくふたりに吠えているからだ。

「これ、ペスや。黙らんか」

 老婆が叱ると、違和感を感じるほどピタリと、犬は鳴きやんだ。やはりふたりは、嫌な感じがすると、改めて強く思うのだった。

「花村さんとこのお孫さんかい。長くわずらっとってねえ。挨拶代わりに「早くお迎えが来て欲しい」なんて言っとったから、今頃安心しとるんでないかい」

「おひとり暮らしでした?」

「いんや。親御さん夫婦はふもとの町へ引っ越しとるけど、爺さん婆さんと、確かひい婆さんも住んどるよ」

「ハナムラさんの家に、行ってみたいのですが」

 するとそれまで和やかだった老婆が、スイッチでも切り替わったように、急にまなじりをつり上げた。

「それはいかん! 見ない顔だねえ。何の用だい!? よそ者はお断りだよ! 出ていきな!」

 火がついたように、再び犬も吠え出した。

「ハルヱさん。どうしたい?」

 近くのビニールハウスから、大きな鎌を持った年寄りが出てくる。不穏な空気を感じ取り、エリックとアランは日本式に頭を下げた。

「ありがとうございました。では、失礼しますね」
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