エリックとアランは、日本支部に来ていた。死神派遣協会は常に人員不足で、英国に余裕が出来ても、すぐによその応援出張が入る。
 日本支部にも、何度か来たことがあった。だが日本式のマナーには慣れず、そのまま入ろうとして、お辞儀で挨拶した案内係に靴を脱いでスリッパに履き替えるよう指示される。
 エリックなどは面倒臭せぇな、などと呟いてショートブーツを脱いでいた。アランが愛想笑いして、案内係に聞こえていないかと気を遣う。

「日本支部は、守りは強いのですが、攻撃能力の高い死神はあまり居ないので助かります」

 先に立って回収課に入りながら、案内係は笑顔を見せる。部屋に入ると、あちこちから「お疲れ様です」と挨拶された。正直、エリックとアランには、その意味はよく分かっていなかったのだが。
 死神は口にした言語とは別に、思念で意思疎通を図る。だから、手軽に出張に行けるのだ。
 「OTUKARESAMADESU」というその概念は英語にはなく、出会い頭の挨拶にも、別れるときの挨拶にもなるという。労をねぎらう挨拶らしい、くらいの認識のまま、エリックとアランも同じ言葉を返して入室した。

「これが、今回のイレギュラーです」

 一冊のファイルを手渡される。アランが受け取って開くとまず、穏やかそうな眼鏡をかけた青年の写真が目に入ってきた。読み上げていく。

「リュウ・ハナムラ。一九九四年、一月二十六日生まれ。二〇二一年九月十三日、病死。備考」

 特になし、と続くのが慣例だったが、ファイルにはその先にも文字が綴られていた。

「魂はロスト、肉体は何者かによって持ち去られ、これもロストしている」

 つまり、人間の死を統括するべき死神派遣協会が、肉体も魂も見失い、全く管理が出来ていない状況だ。これは、協会の威信に関わるイレギュラーだった。

「魂は分かるが、肉体のロストって、どういう意味だ?」

 横からファイルを覗き込みながら、エリックがぼやく。案内係が答えた。

「それが正直、私たちにもよく分からないのです。魂回収に向かった日本支部の者が、対象者の肉体を持ち去る人物を目撃したということのようです」

「分かりました。では、ロストした位置情報を教えてください」
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