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【恋】

 エリックさんは俺の顔の前で人差し指を立てて、ゆっくりと左右に揺らした。

「義理なんだろ? 手作りなんて返したら、好意があるって思われるぞ」

「ええと……手作りのチョコをくれた子も居たから、俺もみんなに作ろうかなって」

「おい、ちょっと待て」

 途端に、エリックさんの眉根が寄った。機嫌の悪いサインだ。

「手作りチョコ貰ったのか?」

「はい」

「それ、義理じゃねぇだろ。本命チョコだろ。手作りで返したら、カップル成立しちまうだろ!」

「え……」

「アラン。アランアランアランアラン。いい加減、お前のその天然直してくれよ!」

 な、何だろう。エリックさん、怒ってる。何でだか分からないけど、俺は取り敢えず謝ることにした。

「す、すみません」

「アラン。俺が何で怒ってっか、分かってねぇで謝ってるだろ」

 見透かされて、俺は俯いた。

「あ……はい。でも、俺が悪いんだろうなって……」

「そんなことやってっと、気が付いたら好きでもねぇ、押しの強いその辺の女と付き合ってる羽目になるぞ!」

「え……」

「クッキー出せよ。没収」

「は、はい」

 一枚ずつラッピングしたクッキーを、全部デスクの上に出す。
 エリックさんは次々とジャケットのポケットにそれをしまい、残った一枚は丁寧にラッピングを解いていった。

「ん。美味い」

「あ、ありがとうございます」

「アラン。今日が何の日か、知ってるよな?」

「え? ですから……ホワイトデー……」

「プレゼント貰ったから、お返しをしなくちゃな。吞みに行こう、アラン」

「……へ?」

 革手袋をした大きな右手が、スッと俺の方に伸ばされた。手のひらを上に向けて。
 表情は、俺だけに向けてくれる、優しげな微笑みだった。

「お返し貰う気あるんなら、一緒に来いよ。手を取ってくれ」

「……はい!」

 また、顔がほころんでしまう。
 手のひらを重ねると力強く握られ、グッと引っ張り上げられて、強引に外に連れ出された。

 誰よりも君を想ってるのは
 今日も明日も俺だから
 ずっと好きだってことを言わないと
 会えなくなる前に
 言えなくなる前に
 その手を……

End.

※ばっくなんばーの『恋』という曲から、ネタを頂きました。
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