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【恋】

「アラン、好きだ」

「えっ……? か、からかわないでくださいよ、エリックさん」

 回収終わり、冬の夕陽をバックに、エリックさんが不意に言った。西日が眩しく逆光になっていて、表情は分からない。
 でもエリックさんが俺を好きだなんてこと、ある筈がないんだ。エリックさんは、根っからの女性好きだったから。
 だから、たちの悪い冗談だと笑い飛ばしてしまいたかったのに、上擦った声は震えてしまう。本当だったら良かったのに、という想いで。
 今口を開いたら変な声しか出なさそうだったから、唾液を飲み込んで空咳を幾つかし、喉の調子を整える。

「からかってねぇよ」

 相変わらず、表情は分からない。
 革手袋をした大きな右手が、スッと俺の方に伸ばされた。手のひらを上に向けて。

「お前も好きなら、一緒に来いよ。手を取ってくれ」

 心臓が、うるさいくらいに鼓膜を叩く。もし本当だったら、俺は君と、この永遠に近い死神の生を、一緒に生きていきたい。
 でももし手を取って、冗談だよと失笑されたら? 立ち直れない。最近涙腺が緩くなったから、泣いてしまうかもしれない。そんなみっともない姿だけは、エリックさんに見せたくなかった。

「アラン」

 分からない。表情が、分からない。からかってるのか、本気なのか。
 ぼんやりと見上げたら、覗き込むようにして、エリックさんの真剣な顔があった。
 冗談じゃない? 俺は嬉しさに、顔が笑ってしまうのをこらえられなかった。

「一緒に、行きます。エリックさん。俺も。ずっと……」
 
 それまで真剣だった顔が、不意に笑み崩れた。え。

「お前が居眠りするなんて珍しいから、調子でも悪いのかと思って心配したけど。優雅に夢なんか見てたのか」

「夢」

「おう。寝てたぞ、アラン」

 ……そうか。そうだよな。エリックさんが、俺のことを好きな訳がないんだった。

「おいおい、そんな露骨にガッカリするほど、良い夢だったのか? 俺の夢だろ? どんな夢だか教えろよ」

「いえ、あの……」

 俺は、嘘や言い訳が苦手だ。口ごもってしまう以外の選択肢がない状況だったから、いつもは好ましくないロナルドの声も、天の助けに思えた。

「エリックさ~んっ! 今日の合コン、どうします~?」

 エリックさんの視線が俺から逸れて、ホッと胸を撫で下ろす。

「あ~、悪りぃ。今日はやめとく」

 だけど視線はすぐに戻ってきて、心臓が口から飛び出るような思いをした。

「え~! エリックさん、今日ホワイトデーだって分かってます~?」

「知らねぇよ。年中無休で発情してるくせに、イベントにこだわるな」

 顔も向けずにそう言って、俺のデスクに両手を着いて長居を決め込む。

「今日、ホワイトデーなんだな? アラン知ってたか?」

「あ……はい。義理チョコくれた女の子たちに、クッキー焼いてきました」

「はぁ? お前、手作りか?」

「はい」
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