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成実が政宗から任務を言い渡された翌日、匡二と成実は城を出発した
重森の里は城から離れたところにあり、地図にその名はない。重森の里は隠れ里であり、伊達の家臣の中でも数名しか知らない里だった
その理由は周辺の村が落ちた時その住民が逃げ込めるいざとなった時の隠れ里だからだ
定期的に視察をしており、今回もその視察だった
川を渡り、野を駆け、山へ入る
馬がやっと通れるようなそんな道のりだ
一日かけて二人は重森の里の入り口に行き着いた
「静か、だ」
隠れ里と言っても、山の中、深いところに有るだけだ
こんなに静かな訳が無い。子供だって村にいる
それなのに、生活音も子供の声も、動物の声も、とにかくなんの音もない
「異質すぎる」
匡二は馬から降りると、一本の刀を腰に差して村へと駆け出した
成実も馬から降りて相棒を持ち歩きながら村の入り口に入った
茂みをかき分けやっと建物が見えた、と思った時に言葉を失う
「 」
一歩踏み入れたそこはまさに地獄絵図だった
血・血・血
血
血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
ぱしん、と思わず手のひらで口を塞いでしまう
血の臭いだ。噎せ返る様な酷い臭い
戦とは違う、嫌な感じ
匡二は血の海に沈む男の近くに片足を付く
目が開いているが既に事切れている
「黒、ずくめの、変な奴がこの山の麓で目撃された。報告を受けた梵は、だから俺を…。遅かったのか」
「…いや」
匡二は男に触った
「死後硬直が始まってる」
「死後硬直?」
死んで居る男の身体を検死する様に匡二は触り始めた
「人は死んでから身体の硬直が始まる。まず脳や内臓から進み、顎や首へと行き約半日で全身が固まる。解け始めるのは、死んでから約一日と4分の1が過ぎた頃合からだ。この遺体の状態から判断するに半日たって無い。死後硬直が始まっている段階だ。例外はあるけどな」
「つまり?」
「例外を入れれば死んですぐ、遅くても死んでから半日はたっていない、と言う事だ」
「なら、殺した奴は…!!」
「武器を持って行動した方が良さそうだ」
遺体から離れて立ち上がった
その時だ
ガウン、ガウン、ガウン
銃声が村の奥から聞こえた
成実の腑抜けた顔が一気に戦う者の顔つきに変わる
「─────俺が先に行く。生き残りが居ないか確かめてくれ」
そう言って成実は駆け出した
腑抜けていても状況から一瞬にして武人の顔に戻るのは流石、と言ったところだが、もう少し腑抜けから早く抜け出していればな、と匡二は思う
そんなことを考えつつ、匡二は一軒一軒、家を見ていく
中には、死体が転がっているだろうと思ったのだがどの家にも死体一つ転がっていない
血の噎せるような臭いはすると言うのに…
「…‥……」
踵を返すと、先程の死体硬直が始まっている男の遺体の近くに腰を降ろした
検死は専門では無いと言え、流石に致命傷となる傷はわかる筈だ
俯せな身体を仰向けに直して検死の真似事をする
「身体をまず斬られた、それらは別に致命傷では無い…と思う。致命傷は明らかにこの額に打ち込まれた銃だろうな」
銃で打たれた後の死体は死亡直後から硬直が始まる。目の濁り等から死後1~2時間と見た
「一人じゃ不安だな。この銃瘡だとライフルクラスだ、この時代にそんなものがあるのが驚きだが」
お世話になった刀匠から貰った刀の持ち手を握り、匡二は走り出した
目指すは里の奥
銃声がした所だ
―――――――――――――
ガウン、ガウン、ガウンッ!!
また銃声だ
銃声は近いのに見当たらない
と、立派な門を潜ると人の死体が幾つも転がっていた
「ヒドいな…‥」
似た光景を、武田との討伐で行った城で見た
あの時より凄惨だ
目を瞑りたくなる
しかし瞑っていたとしても事態は進行中だろう
槍の柄をぎゅぅっと握ると、成実は走り出した
ガウン!!
また銃声だ
手入れされた庭が血に染まっている
倒れている人達は、手に武器を持っていた
しかしその武器は血で染まっておらず綺麗なままだ
抵抗して戦う前に殺されてしまったのだろう
「………て…!!」
声がした
それは若い女の声だ
「あっちか」
成実は走り出す
槍の刃の切っ先に気付かないうちに冷気が宿っていく
人影が見えた
一人は見た事が無い銃を持って女と男と対峙していた
男は倒れて、女は男の上半身を起こし抱き締めていた
男の意識はまだあるようだ
「 待て!!」
ヒュ…ッ、と槍を上から下に薙払う
薙払われた切っ先から、溜められた冷気が一気に放出される!!
冷気は大きな氷柱になり、対峙している間に突き刺さった!
ドゴォオオッ!!
「!?」
「!!」
いきなり間に巨大な氷柱が刺さった事で対峙していた人物達はこちらを見た
「て、め…!!」
「ち、邪魔が入ったか」
黒衣の男は銃を男女から外すと、成実の方を向いた
首に巻いているマフラーを男はシュル、と一気に取り去った
「……?」
男の顔を成実は何処かで見た気がする
何処だっただろうか。目を細めて成実はよく観察をしようと見たが分からない
「何のために里の人を殺した!!」
切っ先を男に向ける
「別に伊達の領地を脅かす為とかじゃない。······この一族諸々を諸事情で始末したかっただけだ」
男は笑った
背筋が凍ってしまう様な笑いだ
「ここは伊達の領地だ!!勝手に領内の民を殺されてたまるか!!所属は何処だ!!名を名乗れっ」
「名乗れ…ねぇ。まずはお前から名乗れよ、若僧君」
「…奥州伊達政宗の双璧の一人、武の伊達成実だ」
「伊達、そうかお前が…!!」
男は成実にライフルを向けた
「伏せろ糞餓鬼!!」
その声に成実は身を屈めた。ガウンッ!と強烈な発砲音が鼓膜に伝わる
ビリビリした
刀が飛んで来たのだ
そして男は瞬時に刀が飛んで来た方に発砲した
弾が打ち込まれた所に人影がある
「ったく、ライフル相手に刀なん…」
匡二は、ライフルを持っていた男を見て驚愕した
まさか、そんな、と匡二が狼狽える
「何でお前が…!!まさか、あの死体の山は…!!」
「…あぁ邪魔が入った。今回はこれでお開きだ」
男は口笛を吹いた
ピュウ、と吹けば忍らしき族が三人男の周囲に出現する
「命拾いしたな。だが、俺は確実にまた仕留めに来るぞ。その頭に風穴開けてやる」
ターゲットにそう宣言をして彼は振り向いた
「またな、匡。また会おう」
「 待、て!!」
駆け寄ろうとした
しかしそれを彼の周りに居る人間が阻んだ
「黒衣の死神は、お前なのか…!?」
「…‥さぁね」
「どうしてお前が‥…!!」
「さぁね。強いて言うなら、現実が俺を変えたとでも言っておこうかな」
風が、彼らの周りに集まる
「あぁ、伊達の坊ちゃん、俺が名乗るのを忘れていたな。俺は北斗。間蔵北斗だ。じゃあな」
突風が吹く
二人は目を瞑り腕で目を守る
風が止んだと同時にゆっくり目を開けると、男たちはどこにもいなかった
ただ残ったのは匡二、成実、襲われていた男女だった
呆然とする匡二
成実は成実で、男が残した言葉に固まっていた
「間蔵···?凪の苗字と同じ···?匡二、どういう」
ぎりっ、と匡二が拳を握る
「···っ、こっちが知りてぇよ!!」
何が君にあったんだ、と
匡二はもういない人にむかって吠えた