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夜、辺りが静まる頃城のある部屋に赤ちゃんの泣き声が響く
「ふみゃあああ!!」
「えーとえーと、おしめは多喜さんに教えてもらった通りにしてあるし、変えたばっかだし、太郎くーん!!泣かないで―――!!」
赤ちゃんを抱き上げ、背中をトントンと叩きながらあやすが泣きやまない。逆に泣き声は酷くなる一方だった
かれこれ30分泣きっ放しだ。疲れて寝るかな、なんて最初思っていたがどうやらそうはならないらしい
「(私が預かって来たんだから…何とかしなきゃ。夜中だし皆に迷惑が掛かっちゃう)」
佐助から貰ったあの鳥も赤ちゃんの泣き声にびっくりして固まったままだ
凪は赤ちゃんを抱いたまま、自室を出た
澄んだ夜空に散りばめられた星達を見上げて、いまだ泣きやまない赤ちゃんを見た
(…指すってる。おっぱいなのかな…)
乳離れはした筈なのに何故だろう。もしかして母親が恋しいのだろうか
「ごめんね―。お姉ちゃんおっぱい出ないからあげられないの」
室内をでた凪はそう言うと、目の前の庭に裸足で降りた
月明りの下、凪は赤ちゃんを連れて歩く
「♪~~~」
幼い頃自分が聞いた童謡を歌いながら、優しくゆすり、優しく歩いた
それのせいもあってか、赤ちゃんは泣き声を小さくしていき次第に目を、とろん、とさせ暫くした後眠りについた
肩に赤ちゃんの頭が乗り、起きている時より重いな。なんて思った
そろそろいいかな、と部屋に戻り布団に寝かせようとするとスイッチが入ったように泣き始めるので、また外へ行く。また子守唄を歌い、体をゆらしながら歩くけれどなかなかねつかない
何度も、何度もやさしくおしりをリズム良く叩きながら子守唄を歌い歩く。そうすると泣きやみ、赤ん坊は凪を見てニコッと笑う
その笑顔はとても愛おしく感じられた
これなら寝てくれるかも、とあやし続け、やっと寝付いた頃に成実がやってきた
成実は欠伸をして背筋を伸ばし、二人に近付いた
いつも高い位置で縛っている髪は、首の付け根あたりで縛られていて雰囲気が少し違う
「凪、あやすの上手いな」
「成実さん?ごめんなさい…。起こしちゃいましたか」
「ま、あんだけ長く泣いてば気になってな」
凪の左へと回り込み成実は赤ちゃんの顔を見た
おーおー、気持ち良さそうに寝てやがる。と頬をつついた
ぷにぷにととても柔らかい頬だった
「ごめんなさい…。あたしが勝手に預かって来たから…」
「ん、どうした?」
凪の様子が少しおかしい事に気がついた
またこれは悪い方向へ考えをつなげていると成実には分かった
「赤ん坊、貸せ」
「や…。でも折角寝たから…」
「いいから。赤ん坊とは言え、寝たら大分重いだろうが。腕が痺れちまうぜ」
成実は赤ちゃんを凪からとった
赤ちゃんの重みが無くなったが、それはそれで焦ってしまう
「やっぱり私がずっと抱っこしますから、貸して下さい。成実さんはもう寝てくだ…」
凪は、成実の腕から赤ちゃんをとろうとしたが、成実はその瞬間反対方向を向いた
その方向へ体を移動させて、再び自分で抱く為に同じ事をしようとしたが成実も同じ事をして赤ちゃんを貸そうとはしなかった
「うるさい。俺は抱っこしたいの」
「や、成実さんには関係ないじゃないですか。私が…」
「関係無い?預かろうとしたお前を止めれなかった俺は関係無い??違うだろ??その場所に居た俺は関係有るだろ??」
成実は諌めるように言った
「お前の悪い癖は抱え込むところだ。ここに連れて来た時点で、皆こいつに関わる権利がある。お前一人でやるなんて無理だろ?」
確かにそれはそうだけれど………
でも預かった自分がきちんと責任を取らなければいけないとは思う
「俺もこいつを返すまでは、なるべく構うからさ」
だから抱え込むなよ
気に食わないけど前田慶次だっているし(赤ん坊に興味津津だった)、匡二だっている(赤ん坊あやすの本当上手かったな)
皆で構ったって悪い事なんて何一つも無い
「それに…」
成実は自分の肩に、もたれて寝ている赤ちゃんを見る
何だか未来を夢見ているようで、悪く無い
「良い返事が聞けないな。じゃあ今日は三人で寝るか!!」
「なっ!!それはダメですよ!!明日仕事に支障がでたら…!!」
「そうなったら俺のせい。駄目だって言うお前の言葉を聞かないで、勝手に一緒に寝たんだから」
よーし、と成実は部屋に向かって歩き出す。行く方向は凪の部屋じゃない。成実の部屋だ
「ま、待って下さい!!」
凪は走って成実の前に立つと、腕を広げて成実を止めた
「わかりました…。困った時はお願いします。だから赤ちゃん返して下さい」
別に困って無い時でも頼って欲しいのだが。成実はそう思った
「本当に?」
「はい」
「そっか。じゃあ寝ようか」
成実はにっこりと笑うと、凪に赤ちゃんを渡さず歩き始めた
え!?と凪は成実のあとをついていく
「ちょ、返してくれないんですか?」
「だーれが返すなんて言ったよ。三人で寝るんだよ」
「な!そんなぁ!!」
成実は振り返ると、凪に言った
「また泣いたとして、一人じゃ無理なら二人であやせばいい。そうすれば早く寝れるだろ?」
な?と言った
成実もこうと決めたら、がんとして動かないタイプだ。もう聞き入れてはくれないだろう
凪は溜め息をつくと、諦めた様子で「じゃあ…私、自分の布団と太郎君の布団持ってきますから」と自室へ踵を返した
その背中を成実は見ながら、空を仰ぐ
(…俺らにガキが出来て、こんな風に夜泣きとかしたら、同じ事言うのかなアイツ)
はっ、とする成実
二人に子供が出来てだなんて、そんな夢物語
いや、夢物語では終わらせたくない
俺は…
自分は…
伊達成実という人間は
生涯の伴侶を、アイツにと最近思うようになった
でもいつかアイツは帰ってしまうかもしれない
恋仲になる前、アイツは自分はいつか帰ってしまうのに、と言うような事を言っていた事を思い出した
気にしない筈だった
けれども…
「未来(さき)を夢見てしまったら、そうはいかないな」
自嘲気味に成実は笑った
成実が仰ぎ見た夜空はとてもひどく澄んでいた…
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