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連れて来られたのは、小さな小屋の前だった
そこは以前成実と止まった小屋で、その中に入ると成実は凪を降ろした
「うわ!何ここ暑っっ!窓ぐらい開けなよな~」
二人のあとに続いて居た慶次も室内へ入る
中は戸が閉め切られており、外より蒸し暑い
居るだけで汗が吹き出て来る
「お前付いてくんなよ…」
「いやだって涼むなら俺も涼みたいし」
はぁ、と成実は溜め息をついた
凪はとてとてと、成実に近寄って着物の裾を掴んだ
「婆娑羅技って…成実さん戦でも使わないのに使えるんですか?」
「お前ソレ誰から聞いたの。確かに滅多に使わないし使う前に終わるからなぁ。あと、使えるんですか?じゃなくて使えるの。梵の属性とは違うけど」
一つまた一つと成実は戸を開けて行く
開け放たれた戸からは、新鮮な外の空気が流れ込んで来る。と言っても熱風に近いものだけれど
「そーいや俺も知らねぇや。何属性な訳?政宗と違うなら…俺と同じ風とか?まさか炎じゃないよな!」
全ての戸を開け放ち終わると成実は部屋の外へと足を向けた
ギシリ、ギシリと床の音がする
「見りゃわかんだろ」
と成実は棒を持ち出し、部屋の中央へと戻る
棒の長さはあまり無いものだが、成実が普段手にする槍に比べれば小さい
「ま、簡単に涼めりゃいいだろ」
目を閉じて、深呼吸をし成実は槍を回転させ始めた
ひゅん、ひゅん、と風が鳴る
次第にその動作は激しくなり、音はひゅんひゅんひゅんと断続的に鳴る
と、そこでヒンヤリした空気が成実の方から流れてくる
これは…
「ゆき?」
「へぇ、成程。氷属性かぁ」
ひゅん!と回転を止めて成実は風を薙払う様に斜めに空を切った
空中にはヒンヤリとした雪が散布している
雪なのに暑さに解けず、とても冷たい
「ふぅ、ま…こんなんだろ」
「凄い涼しい~」
成実へと近付く度に涼しくなる
成実から冷気が漂っているのだ
「ううう~~~。すーずーしー」
とても幸せそうな顔の凪
とてとて、と歩きとうとう成実に抱き付いた
「んなっ!」
顔を赤く染めて、成実は驚いたが凪を剥す気は無いらしく、むしろ抱き付いて来たのをちょっと嬉しく思った
こんな事滅多に有る訳じゃないし、別にいいよな。うん
「おーい。俺が居る事忘れて無い?いやぁ、まさか成実に恋人が居るとは!」
「見るな、風来坊。凪~?涼しいか?涼しいならもっとひっついても良いぞー。仕事全っ部終わらせたからな。涼め~」
慶次が居るにも関わらず、凪は抱き付いていた
「うーあー」
「あはは。お零れでも涼しいな。な、夢吉」
「成実さん気持ちいー⋯もっと冷やして~」
「そうかそうか!じゃ、約束。今日みたいに暑いからって勝手な行動するなよ~?涼みたいなら今みたいに涼しくしてやるからな」
余りの涼しさに凪は聞いて居なかった
ただコクコクと頭を上下に動かして、頷いた
抱き付かれて居る状態も満更では無い成実
器用にも彼は冷気を流し続けるのだった
「何だこの涼しさ」
成実を探して小十郎は離れの家に来た
その家全体から冷気を感じる。不振に思った小十郎は、室内に入った
「成実か…」
「あー小十郎。やっほ」
立って居る成実に凪が抱き付いていて、少し離れた所に見覚え有る青年が寝ていた
どうやら外の暑さより快適な室内に負けたらしく青年は夢の世界の中に居る様だ
「前田慶次じゃねぇか。何でこんなとこに…」
「梵に用事みたいだぜ?」
「それが何でこんな所に…」
「知らねぇ。俺らのあと付いてきやがった。あ、凪寝てらぁ。小十郎…慶次よろしく。俺は凪連れてく」
抱き付いていた凪も、心地よいあまりか寝てしまった様だ
暑さで余り寝れて無かったらしいから、寝かせておこうと成実は凪の膝に手を入れて背中に手を添えて抱き上げた
とても気持ちの良さそうな寝顔だ
「珍しいな。戦でも滅多に使わねぇ力使うなんて」
背後から掛けられた声に成実は止まる
凪の顔をじっと見て、それから答えた
「別に。凪が喜ぶなら良いかなって。それに…」
成実は小十郎に先に有った出来事を話した
あの時、凪は慶次に「知らない」と言ってくれとでも言ったのだろう
それぐらい分かる
取り敢えず慶次のせいにして
そばに居た凪を見て
凪をここまで連れて来て
抱き付いて来た凪を見て
「焦ったんだ。嬉しそうなのも有るけどさ、コイツが初めて会った奴と仲良くしてるところ見て」
サラリ、と凪の額に有った前髪が横に流れた
額に軽くキスをする成実
そして静かに室内を出ていった
「嫉妬か」
小十郎は静かになった室内で、ポソリと呟いた
目が覚めたら、辺りは夕焼け色一色だった
オレンジの光が室内を同じ色に染め上げて居た
体を横に捻り、上体を起こした
寝汗で背中は濡れて居て気持ちが悪い。しかし、何故自分は寝て居るのだろうと直ぐさま思い出しに掛かる
「起きたか」
すっと襖を開け、涼やかな色をした絽を着た成実が室内に入って来た
凪の横に腰を降ろして、そのヒンヤリした手を凪の額に当てた
成実のその手を一度見やり、視線を直ぐに成実へと移す
ゆっくり額から手を離すと成実はニコリと微笑した
「冷たいだろ」
「婆娑羅技ってこんな使い方していいんですか?」
さっきは暑さにやられて思わず抱き付いてしまったが、ふと冷静に考えた
この力は戦うためにあるのでは、と
「いーの、いーの。俺が好きでこうやって使ってんだから。暑いから最近寝れて無かったんだろ?もう少し寝れば?」
「そんな事でき…「梵には言って有るから。大丈夫」
凪の体をゆっくりと横にする成実
「確かに寝不足は有りますけど私病人じゃないです。大丈夫ですよ」
「そう?」
「はい。ていうか、寝たらスッキリしました。あー⋯、すみません抱き付いたりして」
両手を頬に付けて顔を伏せる凪
後悔しているのだろうか、恥ずかしがってるのだろうか
成実はそんな凪を見て、目を若干細めた
「否、俺は嬉しかったぜ?…悪いな。外連れてやってあげられなくて。政の決め事を片付けるにはもう少し時間掛かるんだ。終わったら構ってやれるし、外にだって連れていける」
だから今は我慢してくれ。と成実は言った
「そんなに状勢悪いんですか…?」
「悪いっつーか間者がうろついて居るかもしれないだろ。もし一人で出掛けて、お前が攫われたりしたら気が気じゃない。城下町は比較的安全圏内だけど、用心に越した事は無いさ」
凪の頭を撫でる成実
その手つきはとても優しく、安心できた
と下に視線をやっていたら、顔をくいっと上げられて成実の顔が目前になっていた
「わ!ななな、何するんですか!」
「何って、接吻」
「せ…?」
「えっと…梵的な言い方の方がいいのか。えっと、えーと…あ。きす?」
「kiss!?」
頭の両サイドを完全に成実の手で固定され、体は動かせるものの頭は動かせない
足をジタバタさせてみるも、それは結局無意味で…
成実は至って普通に「そうだ。そう。きす」と英語を思い出してニコニコしていた
「キ、キスって…!!」
「最近構ってやれなかったからなー」
成実の唇が、凪の唇に触れようと近付く
ドアップになる成実の顔。思わず凪は、自分の手のひらで唇を塞ぎ成実のキスを阻止した
頭をがっちり固定して居た成実の手は、凪の頭から離れた
「…何してんの」
「だ、だって!」
「はい、却下。どーせ恥ずかしいとかそんなのだろ」
うあ…と一声漏らした凪
成実は凪の手をペロリと舐めた。何度も、何度も。指先から手のひらを行ったり来たりし、凪の反応のその様子を逸らす事無く、じっと見ていた
「や、やらしーですよ成実さん」
ぎゅぅっと目を瞑り、凪は成実に言った。未だ舐める事を止めない成実は、鼻で笑うと漸く舐めるのを止めた。そして成実は凪の柔らかい耳たぶを甘噛みする
吐息も零れて、凪の肩がビクッと揺れた
「やらしーのは仕方無いだろ?男ってのは大体やらしーんだよ」
ククッと喉を鳴らし成実は笑う。そんな笑い方は、やはり血縁だからか従兄弟の政宗と似ている。成実の言葉に顔を真っ赤にして凪は漸く瞼を上げた
「でも…」
「言っておくけど、あまり攻める事はしねぇよ。免疫無いのは、分かってるからさ。だけどたまには良いだろ?」
今度は待ったなしだ、と成実は先手必勝とばかりに凪の手を布団に縫い付ける様に自分の手で押さえた。
凪の口を、成実の行為を阻むものは何もない。
――⋯⋯成実の唇と、凪の唇が重なる
夕日に照らされた室内で、とても恥ずかしくて凪は再び目を瞑った。成実はそんな凪にお構いなしで、口付けを続ける。次第に啄む様なキスに代わり、激しさを増す
与えられる”愛”にいっぱいいっぱいの凪の様子を、細目で成実は見ていた
「っ」
キスの嵐をただ受け入れる凪
ちゅ、と唇が離れる。名残惜しそうに銀の糸が唇と唇の間に引かれた
「ん、ご馳走様」
成実は凄く機嫌が良い様だ。
「はぁー。激しいねぇ」
障子にいつの間にか影が出来ていた
影の形から人物の特定が出来る
「……まぁぇえだぁあけぇええじぃいいいっ!!!!!!」
静かな二人の間を「激しいねぇ」の一言で壊した慶次(多分そうだと思う)
スパン!と素早く襖を開け放つ成実。いきなり開いたので慶次は逃げる暇なくその姿を二人の前に晒す事になった
目をこれ以上無理と言わんばかりに開き、口を引きつらせて脂汗を額にかいている
成実からも冷ややかな冷気が流れている
「さっきも今も、とことん邪魔しやがって…!!覚悟は出来てんだろうな!!」
「ごめんって!気になったから来たら、あの場面で…!!」
「ごめんで許されると思うか…!!表出ろ表ェエエェエエ!!」
成実は慶次を連れて何処かへと去って行った
凪はそっと自分の唇に指を当て、そのまま後ろに倒れた
そして天井をぼーっと見上げて目を閉じた
…何処かで雄叫びと悲鳴が聞こえた