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こんなに酷い月は今まで一度も無かった
「うーあー、うーあー」
凪は唸っていた
ある時期を過ぎた女性なら必ず毎月やって来るアレに唸っていたのだ
そう、生理だ
元の世界にいた時も、この世界に来てからも生理はこんなに起き上がれなくなる程酷くは無かった
ナプキン、タンポンは勿論無い時代。まぁ基本は大人しくしているか、寝てるしかないのだが…
しかし本当にここまで酷いのは初めてだ
「うーあー」
女中が入れ替わり立ち代わり部屋を出入れしている
『いけませぬ、成実様!今はご不浄の時!殿方は近付いてはなりませぬ!!』
遠くでそんな声が聞こえて凪は目を開けた
天井がぼやけて見える
『不浄って、今まで月モノの時は入って良かったじゃねぇか。オラ、退けよ』
『なーりーまーせんッ!!こ度は駄目なのです!あぁ、政宗様ッ!成実様をお止め下さい!!』
『hum?何なんだ…。あぁperiod?成実、たかだか数日会えねぇだけだろ。それぐれぇendurance(我慢)しろ。you see?』
『ゆーしー?じゃない!ほら、唸ってる!唸ってる!!心配で執務も出来ない!やる気が起きないんだって』
『それはただサボりたいだけだろ』
とても騒がしい
立ち上がりたいのだけれど、腰・というか子宮なのだけれどそこが痛くて立ち上がれない
「うぬ、ぬ、ぬ…む、り」
布団の上で力尽きる
こんなにズキズキするのは初めて
痛くて涙が出る。痛い…
もう生理痛で死ねるんじゃない?
世の中の女の人はどうやってこの痛みに耐えているんだろう
不思議
っていうか、生理なんてこなければいいのに!!
「……」
成実さんごめんなさい
起き上がれません、廊下まで匍匐前進も無理です
…取り敢えず寝かせて下さい
と、重たい瞼を伏せた
夢をみた
『…狙撃手気取りですか』
『気取りじゃなく、狙撃手なんだよ』
それは懐かしい声
黒衣を身に纏い、手には長い銃。あれはライフルだろうか…
『道を違えたんだ。俺とお前は』
彼は酷く悲しそうな顔をしていた。泣かないで。泣いちゃダメ。そんなもの捨てて
炎が二人を取り囲む
轟々と燃え盛る焔
『俺は屍の道、血の道を歩んで目的へと辿り着く。お前とは真逆なんだよ』
『…』
二人の間に熱風が走った
『お前はお前のやり方で願いを叶えればいいさ。俺は俺の思想の元、俺のやり方で叶えてみせる。それが修羅の道でもな』
黒衣の青年は、彼に背を向けて一歩歩を進めた
『貴方とは20年以上の付き合いでしたが、まさか相容れない事になるなんて思って無かったですよ』
進む彼とは逆に、彼の手には長刀が握られていた
刀身は焔の色を映している
『さよなら、俺の親友。君と過ごした日々はとても楽しかった。幾日・幾月・幾年共にした事は変わる事は無い。だけど此から先は過ごす事は無いんだな』
『…あぁ。…だけど一つだけ、親友を辞める前に頼みたいことが有る。アイツを、頼む。俺の道ではそばに居られないからな。じゃあ。あばよ、■■。』
互いに背中を向けて、互いに同じ歩幅で。同じリズムで歩き始めた
待って、待って、待って!!
ダメ、もう戻れなくなっちゃう!!止めて、止めてよ!!そんなの望んで無いよ!!
黒衣の青年は彼が見えなくなってその場に立ち止まった
熱風が髪を靡かせる
『⋯どう足掻いてもあの人が見た運命になる、運命は決まっているんだ、■■』
キラリと光る首飾りを彼は握り締めた
プラチナの、首飾りを
『お前を守る為なら、鬼だろうと、修羅だろうと、死神だろうと、何にでもなってやる。幼馴染みを敵に回しても、な。』
ヤメテ―――!!
ハッと目が覚めた
額には汗が滲んでいる
それを手の甲でグイッと拭うと、ぼんやりする視界の端に人影を捕らえた
「…う…」
定まる視界
輪郭を帯び行くソレは、いつも見ている…
「なるみさん…」
壁に凭れ掛かって、胡座をかいて腕を組みながら眠っていた
辺りは薄暗い事から、もう少しで夜になる事を悟った
上半身を起こすと、昼まで感じて居た痛みが無い事に気がついた
「ん…あ?…あ!」
眠っていた成実は、目を覚まし上半身を起こして居た凪に四つん這いで近付いた
「起きて大丈夫なのかよ?寝てろって!」
「う、な、何で成実さん此所に?確かお昼あたり入っちゃダメって言われてた気がするんですけど…」
「え、あぁ…。…そこは何も聴くな」
成実の身体を良く目をこすり見やると、あちこちに小さな傷があった
腫れてたり赤くなってたりと様々だったが、傷と呼べる代物に変わりはなかった
するとひんやり冷たい物が凪の頬に当たった
濡れた手ぬぐいだった
「汗、拭けよ」
手ぬぐいを手に取り凪は顔を拭いた
成実の隣りには桶の様な物が置かれて居て、その中には水が張って有った
ひんやりとするソレは、多分こまめに水を変えたりしているからなのか。起き上がりの凪にとって、この冷たさは少し刺激が有ったが気持ちの良い冷たさだ
「うなされてたぞ。まだ痛むのか?」
拭き終わると成実は心配そうに顔を覗きこんで来た
手ぬぐいを桶の中に戻すと、凪は首を振ってニッコリと笑う
「大丈夫です。痛みは引きましたから」
だから心配しないで下さい
「そっか。しっかし女ってのは大変だよな。月モノがあるなんてよ」
「これは子供を産む為に必要な事ですから、仕方無いですよ。それに、こんな痛みより産む時の痛みの方が断然痛いですよ。気絶する人もいるらしいですから」
「子、供…‥」
「ま、産めばこの痛み。酷い人とかは軽くなるらしいんですけどねぇ」
でもまだそんな事私には早いから、と付け足した
「ふぁ…すみません、もう一度、寝ます」
生理中ってダルくなるし、眠くなるんで…
と布団に潜った
成実は隣り迄来て、頭を撫でてやる
「成実さん…部屋に戻っても構いませんよ?」
「いや、今日はそばに居させろ。な」
撫でる手つきがとても優しくて、凪は瞼をゆっくり降ろした