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緑生い茂る奥州
雪解け水のもたらす産物だ
「わ―、桜散っちゃいましたね」
「まぁ、桜の満開時期というのはそんなに長くは無いですし」
凪は馬に乗っていた
勿論一人では乗れないので鬼庭の前に座っている
荷物は先に城へ送った
では二人は何をしているのか
その理由は凪だ
どうせなら帰り道途中迄は荷物と共に行き、城近く迄になったら景色を楽しみながら帰りたいと言う事だった
田んぼの畔道
田植えをしている農民
柔らかな風
城暮らしをしている凪には、あまり見ない景色である
「秋になれば稲は黄金色になり、空には蜻蛉が飛び交います。夕刻の緋の色と黄金色の景色はとても美しいですよ。勿論、青々としている今も美しいですが」
「わー見て見たいかも!」
「それに稲穂は農民の気持ちが詰まってますから」
それ自体に価値がありますね
と笑った
「凪殿は」
鬼庭は笑みを崩さずに言った
「客人になってから随分と立ちますが、奥州を好きになって下さいましたか?」
「勿論!」
その答えを聞いて鬼庭は笑みを深めた
好きだという答えが嬉しかったのだ
「あ、そろそろですね。鬼庭さん!降ろして下さい」
馬の背から降りる凪
城まで歩いて行くようだ
徒歩なら30分で着くだろう
ゆっくりと景色を楽しみながら歩き始める
鬼庭は馬の歩行速度をゆっくりと凪に合わせる
蹄の音がテンポ良く鳴る
穏やかな風は心を和ませる
草履のカラカラとした音もまた、風流だと凪の心を和やかにさせる
現代には無い風流さだ
「ありゃ?なんか馬が…」
風流を楽しんでいる中、それを破る音がした
二人の行く先の道から、こちらへ馬が走って来るではないか
「あれは…」
「う?」
あれは、と鬼庭が言葉を続けようとした時突風が鬼庭の横を吹き抜けた
風が抜ける瞬間鬼庭は目をつむる
風が通り過ぎてから鬼庭は、そっと目を開けた
ふぅ、と息を吐くと隣りにいる凪に話しかけようと横を見た
「凄いか、ぜ……え?」
先程まで隣りにいた凪が居ない
辺りを見渡しても居ない
や、やばい。
冷や汗がだらだらと流れ始める
「何処行ったんですかぁああ!?」
「――――――」
ん?と後ろを振り向けば、先程前から来ていた馬とその主が後ろに抜けていた
よーく目を凝らして見れば、その主の服装髪型馬。見覚えがあるものだ
その主の小脇には凪が居て
「凪殿――――!!」
■■
風を切り走る馬
自分を小脇に抱えてる人
顔は見えない
さっきまで居た場所で鬼庭が自分の名前を呼ぶのが聞こえた
「うぅぅ」
遠ざかる鬼庭
そうして次第に、完全に姿が見えなくなった
人さらいだ、完全に人さらいだ
どうしよう、こわい、と思うけれどこのまま落とされても困る!と抵抗はしないでおいた
小高い丘にたどり着くと、馬は走るのを止める
そして小脇に抱えられて居たのを直され、攫った人物と顔を合わせる
「あ」
「…」
攫ったのは成実だった
久し振りの再会に凪の表情は、ぱぁあっとなる
それと真反対でブスッとした表情の成実
抱き付こうとしたら、成実に両頬を摘まれ引っ張られた
「いひゃいれすー」
「痛いですーじゃねぇよ。いくら鬼庭がいるからって二人だけなんて、不用心」
「むむ、分かってますよ。だから近くまで皆と一緒に来てあとはあぁしていたんですもん」
「いくら領地内でも危険は危険なの!ったく」
「でもなんで私を攫ったんですか?」
きょとんとする凪
注意をするなら城に帰ってからでも良いはず
そう言ったら
かぁ、と成実の頬が赤くなるのを見た
「そ、それは、……心配…」
「?」
モゴモゴと口ごもる成実
「だぁああ!!お前に一番早くおかえりって言いたかったからだよッ!!」
かぁああ、と顔全体
耳まで赤く染める成実
その姿に不覚にも笑ってしまった
「あはは!やだなぁ成実さん!!顔真っ赤ですよ?」
「な、テメッ!人の気も知らないで!!」
真っ赤な顔のまま成実は凪の首に、己の手を絡ませた
そして、優しげな笑みを見せると凪の首から腰へと腕を移動させて、グイッと自分の胸に凪を沈める
「あわわ!」
「…あー、なんか相変わらず安心するのな。お前ってやわらかくて」
「それはぷよぷよと言いたいんですか、言っときますが最初よりかなり痩せましたよ?!」
「ククッ、そう言う意味じゃねぇよ。なんつーか、お前の匂い?安心する」
「……」
「なんだその目は」
「いや、成実さんてもしかして変た「違うからな、断じて違うぞ」
そうじゃなくて、凪の体温や匂いを感じて漸く実感出来たのだ
「帰って来たんだなぁ」
「そうですよ、帰って来ましたよ?だから早く離れましょうよー!」
「い・や・だ。このまま帰る」
「!?」
と、凪の言葉を無視して。成実は馬を再び走らせた
凪は成実と向き合っている形なので、成実と馬とは逆向きの景色を見送る事になる
成実の片腕は凪の腰を強く引き寄せたまま、もう片方で馬の手綱を握っていた
「片手、片手運転危険です―――!!」
「あ?梵なんか手綱握らず馬走らせるけど?しかもそれで崖から降りるしな」
「手放し運転なんてもっての他ぁああ!!」
さっきよりも速度を上げる馬
「い!いゃあああ!!」
馬は二人を乗せて、来た道を逆走した
途中、鬼庭の姿も見えたがそれも追い越して
帰るべき場所へと、ひたすらに走った
凪は、成実の胸に顔を埋め着物を握った
―――――――――――――
「帰ったようですね」
風が吹いたあと四月は呟いた
蒼と青の境目をずっと視線逸らさず見る
乱はやがて訪れる
衝動で、不安定で
破壊的で、哀しい
乱が
「…もう1人の異人は未だ、刀鍛冶の元。もう1人は⋯。…彼らもまたこの物語の登場人物。いつの日か彼女と見(まみ)えましょう」
―――――――――――――
「――と。―――と」
ぼぉっとし、黒の着物を召した男
彼は自分の部下に話しかけた
しかし名前を呼んでも返事はない
そこに、自分がいつも信頼し、友と呼べる軍師がやってきた
「仕方ないよ。彼、昔からそうだから。暫くほっておけば大丈夫。それより――――」
ぼぉっとしてる彼をそっとしておき、政の相談を始めた
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯凪、」
ぐるぐる、ぐるぐる
ぐるぐる、ぐるぐる
巡り、巡れ、巡る
糸、絃、絲
巡った絃
広い集めて、一体何になる…?
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