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「あれは梵、梵天丸だ」
目の前にいる幽霊らしき子供は、成実の記憶の中の梵天丸そのまんまだった
「梵って…あの伊達政宗の幼少の時の名前ですよね…?伊達政宗は生きてますが…」
「あぁ。どう言う事だろう…」
幼少の伊達政宗(仮)は年からして5~6歳位だろうか
『お兄さん達、誰?』
「あ?あぁ…俺は匡って言う。こっちはし「成実(なるみ)だ。此所に仕えている」
成実は匡二の言葉を遮った
匡二はジロリと成実を見やる
「君は誰?」
『ぼ、梵天丸。お兄さん、父上に仕えてるの?見た事ない…』
涙を拭う小さな若君
現在の政宗の溌剌さの欠片も見られない
彼のそれは10年の間に培われたものだと予想が出来た
「最近上がったんだ。君は若君じゃないか?こんな夜遅くに、何してるんだ?危ないじゃないか」
『…………』
「(やっぱり、梵だ)」
「思念、って奴だな…」
匡二は暫く腕を組み考えていたが一つの答えを導き出した
人の思いは、時に思念となりその場に残ると言う
所謂残留思念と言うものだ
確か魔法使い曰く、思念が強すぎる時形を成す場合が在るのだと言う
『だ、誰も俺といてくれない…っ。母上も、家臣も…ッ。こじゅうろうだけしか…いないんだ。この目のせいらなのかなぁ』
この台詞に成実は聞き覚えがあった
この年の頃政宗はそんな言葉をずっとそう言っていた
この頃成実は自分の父親の城に居たのだ
この城に頻繁に来ていた訳では無い
年も一歳しか違わないので、勿論城に来た時は遊び相手になっていたが、成実以外の子供が遊び相手になっていたとは聞いた事が無かった
疱瘡にかかったあと跡取りとしては相応しくない、と一部の家臣らが距離をとったのもその一因だった
ある日ぽつんとひとりになってしまったような感覚、平気に見えて幼子だった政宗の悲しみはいかばかりだっただろうか
その想いが思念となって今でもここに存在する、
となっているのならば納得もできる
「思念を解き放てば、消えるのか?」
幽霊だって未練を解けば成仏するし
彼は幽霊では無いのだし、少し付き合ってもう出ないようにすればいい
よし、と匡二は腰をおろす
「若君、俺でよければ遊ぼう!」
「え”!?」
そんな事をさらりと言う匡二と、驚く成実
幽霊(仮)相手にしたい事を聞くとは
梵はじっ、と二人を見ると表情を変えて嬉しそうに二人に近付いた
『あ、遊んでほしい…!!』
「よし、引き受けた。遊ぶなら隠れんぼをしようか」
「こんな夜にどうするんだよ。隠れんぼなんて⋯あちこち行ったら騒ぎになるぞ」
匡二だけに聞こえるように耳打ちをする成実
だから、この庭だけで。と匡二は付け足した
うっすら背後が透けている梵。物を触って遊ぶような遊びは無理だろうと判断したのだ
「私とこの子が隠れるから探してください。要するに君は鬼です、鬼」
「…なーんか上からものを言われてるみたいで、嫌だな。まぁいい。隠れたのを探せばいいんだな?」
「百を数えてから探し出すんですよ?では若君、隠れましょう!!」
二人は同方向に走り出した
それを見ると成実は石に背を預けて夜空を見上げた
そして、いーち、にー、さーん、しー、ごー、と数を数え始めた
真冬ではないとは言えど奥州の夜寒い。綿の入ったものを着て来るのだったと多少後悔
「九十八、九十九、ひゃーく!!探すぞー?隠れたかー?」
この庭だけしか使わないと言っても庭は広いし、しかも辺りは暗闇に近い状態だ
隠れる方には助かる状況だろうが、探す側にとっては少ーし酷な状況である
「うし、探すか!!」
10分...
20分...
30分...
み、見つからねぇ!!
庭が広すぎる
広すぎて捜索範囲が半端無くて成実は困っていた
片方はちびっこい梵だ
上手く隠れて居るんだろう。問題は匡二の方だ。大の大人が多分本気で隠れている
痕跡も一切遺さず隠れている
精神を研ぎ澄ませた所で、気配なんて感じられない
気配まで消して隠れんぼとは随分なものだ
梵を先に探すか
匡二を探すか
隠れ待つ時間もそれなりに楽しいのだから梵は後の方がいいのかもしれない
土を踏みながら成実はあるものをみた
・
「上かな」
木の上なら、身を隠すのに充分なはず
人が上に登り、身を隠せる木はそうそうない。成実は何本かの木を登ってみようと思った
木登りなんてもう大分昔にした事なので、上手く登れるか一抹の不安があったがなんなく登れた
「いた」
この木では無かったが、人影が見える
よっ、と成実は言うと木から地上へと飛び降り、人影が見えた木まで行くと、木の先を見上げ
「そこにいるんだろう?降りて来いよ」
と言った
「案外君使えないですね。此所なら直ぐに見つかるかと思ってたんですが」
「俺は忍びじゃねぇから直ぐになんか分かるかよ。あとは梵だな」
頭を成実は掻くと、上手く隠れた子供を思った
今どんな気持ちで隠れて居るんだろう
隠れるのは一人の筈だから、淋しいだろうか。それとも遊んでいるから楽しいのだろうか…
どちらにしても、今子供は“遊び”に夢中なのだから楽しんでいればいい
「あと少しで日の出ですね、それまでに探しましょう」
朝焼けが近いのか空が漆黒の色より薄い色になってきていた
「心当たりは?」
「在りすぎるんだって。ガキ一人が隠れる隙間なんざ色々あるし、…あ」
■■■■■■■■■■
日が登る
朝の光が少しだけ世界を照らす
「みーつけた」
『あ…』
「るーるは守らなきゃダメだろ?庭だけって言ったぜ?」
ニッと成実は笑うと梵の前に座った
ここは離れの部屋
右目を失ってからずっといる部屋だった
政宗が幼い頃住んで居た離れ
そこの押し入れの中に梵は居た
背を丸めて、息を顰めて、顔を膝に埋めて
『そ、うだったっけ。必死で隠れる場所探してたら、いつの間にかここにいた』
匡二は離れの部屋の戸を開けて、外の光を室内に入れる
「なぁ、若様」
成実は目線を合わせると、梵に語りかけた
日の光が成実の顔にも当たり、顔の半分に影が出来る
「若様はこれから先奥州を率いて民を背負う人になる」
成長した政宗は、他の国の主に比べてまだ若いがそれなりに他国と肩を並べられる程の良き主だ
・
「今、若様は気付いてないんだ。自分の周りにどれほど自分を大事に思っている人がいるかを。小十郎殿や、一歳下の従兄弟の子も居る筈。彼らは後に貴方を支えるものとなる。そして今も、貴方のそばには彼らが居るのでは無いのか?小十郎殿だって貴方がお願いすればきっと遊んでくれる、きっと。だから、思い込まない。一人じゃない、一人ってのは無いんだ。いつだって誰かがそばに居る」
だから
もう、現れちゃダメだ
『そんな事言われたの初めてだ。小十郎にも言われた事無い。不思議な人だね、お兄さん。遊んでくれてありがとう!』
すぅ、と梵は太陽の光が完全に室内を照らすと消えた
あとには何も残って居ない
キラキラとした光だけが、室内にあるだけだった
「もう、出ないかな」
「さぁ、意外と思念強そうですからね君の主は。まぁ、暫くは出ないのでは?凪様が安心して過ごせるならそれで充分です、引き上げましょう」
匡二は踵を返すと土間近くまで行った
「俺は死ぬまで梵の家臣でいるから、一人になんかならないし、させないよ」
だって生まれた時から言われていた
そのために、お前は生まれたのだから
他に大切なものが出来たとしても、それだけは忘れるな
尊敬する父親の言葉をふと思い出す
「ふぁぁあ、眠い…仮眠ぐらいは取れるかな」
その後、その夜を境に幽霊は出なくなったという
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