1
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
匡二はある日、とある女中から最近城内で流れている噂を聞いた
「おばけ、ですか?」
「そうなんですよ!夜になると小さな子供が徘徊していて、触ろうとすると消えてしまうらしいのです。特に悪さをする訳では無いのですがお気をつけてくださいましね?」
ふむ、おばけ…幽霊か
信じて居ない訳では無いが、どんな時代、世界を超えてもそう言うのはあるんだなと思った
まぁ、この世界に自分を送ってくれた人だって人間じゃなかったのだから
不思議な存在
「その姿ってわかりますか?」
「容姿ですか?噂ですと、10もいかない年の子らしいです。きっと戦に巻き込まれて亡くなった子なのでしょうね」
気の毒に…
女中は瞼を伏せた
そういえばこの世界の今はそう言う時代だったか
それにしても幽霊か…
「…退治かな」
いや、そう言う事はした事も無いのだが。
凪が…この手の話しは苦手なのだ。流石に彼女の耳に入っているだろう
昔を思い出す
「清めた塩に、御神酒かな」
あとは榊か
異形の人は知ってるけれど、そう言った類は未知なる存在だ
「魔女と魔法使いなら知り合いなんだけど…。まぁ儀式やらなんやらを聞くまでの仲じゃ無かった訳だから…」
「取り敢えず。塩と御神酒確保だな」
かくして匡二の幽霊退治が始まった
(花屋が幽霊退治なんて笑えない)
でも凪の為だ、と匡二は神社へと走っていった
一方、その頃
廊下をバタバタと音を立てて成実の部屋へ突撃してきた人物がいた、凪だ
「なるみさーん!」
「あはは、それ直す気は無いんだなー。まぁいいや。何だ」
「じ、女中さんに聞いたんですけどッ!この城にお化けがでるって本当ですか!?」
凪は成実に詰め寄った
その顔には焦りというか恐怖が浮かんでいた
匡二の予測は当たっていたのである
「あーそーいえばそんな噂昔からあったなぁ。でも別に悪さする訳でも無いから」
怯えなくたっていいんだけど。とあっけらかんに答えた
昔からとは言うがいつからいるのか…
「って言うか。城の奴誰も見た事ないから実際いるかも判らないぜ?」
なのに噂がたつ…?
「何も悪さしないんですか?本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
――――――――――――――――――
夜。
漆黒が降り立った時間
匡二は蝋燭の灯だけを頼りに廊下を進んでいた
ギシリ、ギシリと音をたてる床
セオリーとして幽霊や化け物の類はこういった夜中に出るのだ
「退治は無理でも、封じてやる」
昔の血が騒ぐなぁと呟いた匡二
一体彼の過去になにがあったのか知りたいものだ
「ん―…噂だと北辺りなんだが…。北で怪しい場所…―と言うと、あの小屋…ですよねぇ」
匡二が見た所は成実と凪が一晩過ごしたあの小屋だった
しかしそこには何の意思も感じられない
異形のものなら、もっと。
・・・・・・
自分の勘がレッドゾーンだと告げるはずだ
否、そこまで自分の勘は正確なものでは無いのだが。元来化け物だの幽霊だの魔女・魔法使いなぞを目の前にした人間は、その野生の勘的なものでここはやばいと思うものだ
それがここには無い
『ゥッ…ヒック…!!』
何処からかそんな声が聞こえた
子供の声だった
フィルターが掛かったような声
ギシリ、ギシリ
「誰だ!!」
「うわっ」
廊下を曲がろうとした所先から人が現れた
先手必勝と言わん許りに匡二は出合い頭に蹴りを繰り出した
相手は素っ頓狂な声を上げる
「いてて…何すんだよッ」
「…あれ?糞餓鬼じゃないですか」
「俺の名前は糞餓鬼じゃねぇ。
伊達成実だ。だ て し げ ざ ね !!」
「存じていますよ?ただの嫌がらせです」
たちが悪い嫌がらせだ
まだ成実(なるみ)と呼ばれる方がマシだ
「なるみ、ですか。確か食器メーカーにそんな名前ありましたねぇ」
「めぇかぁ?何だそれ。」
「というか説明したくてもそれに準ずるものが無いですから説明も出来ません。…まぁ喩えるなら、刀の一文字、古備前、国広とかでしょうかね。現代で言えば会社」
「かいしゃ…?何だそれ」
「あんた聞いてばっかだなおい」
だって判らない単語多いし
「で?こんな真夜中に糞餓鬼は何しているんですか??」
「(こいつ治す気ねぇな…)…け」
「毛?」
「おばけを見に行くんだよッ!!っー!!凪が女中だかどっかから噂聞いていて怖がってたから…。悪さはしない幽霊だって諭したが気が気じゃ無いだろうから、実際調べて教えてやろうかなと」
ポリポリと人差し指で右頬を掻く成実
心なしか顔が赤い
「顔を赤くするな。男のそんな顔程気持ち悪いものはない」
「あんた、俺を嫌いだろ」
「ええ、心の9割貴方の事嫌いです」
それはつまり、嫌いでも大嫌いの分類に入る事は成実でも判った
「まぁ、凪様の為に行動した事は褒めてあげますかね。ナルミくん」
「…あんたが俺の名前呼ぶと悪意があるようにしか感じられねぇが。…褒められても嬉しくなんかないね」
二人は険悪な雰囲気を出しながら、一緒の方向を向いて進み出した
「…あんたも噂聞いて来た訳?」
「はい、ここの女中さん達は随分噂がお好きな様子ですね。いざとなった時、口を閉じることが出来るのか少しばかり不安です。っと、話が逸れちまった。誰もみた事の無い幽霊、なのに噂がたつ。昔から言うじゃないですか。火の無い場所から煙はたたないって。真相を確かめようと思いましてね」
凪様怖がりますし
揺らめく炎の光りだけが頼りの中、成実には匡二が穏やかな顔をしているのが判った
この男は気に食わない
気に食わないのだが、完全に嫌いになる事が成実にはどうしても出来ない
『ゥッ、ヒッ…ウッ』
泣き声が、近付く
声は庭からしている
「あっちか」
「…」
軽やかに縁側から庭へと降り立つ
手入れされた草の上を歩く彼ら
暫くしたら先に人がいた
座って、背を丸くして泣いているようだ
それはやはり子供で、噂と違いなかった
「やぁ、君が噂のおばけかい?」
匡二は声を掛けると同時に、塩(台所から拝借)をぶつけた
「あっ!!テメェ、それ塩じゃねぇかッ!!貴重なんだぞ!?何勿体ない事してんだよ!!勿体ないお化けがでるじゃねぇか!!!!!」
「そんなの撥ね除けなさい。って言うかその年でそんな稚拙なものあんた信じてんのかよ」
ジリッと足に力を入れて匡二はもう一度塩をまいた
塩は霊を遠ざける
故に噂のお化けなら効く筈だ
『ウッ、ヒッ…お、お前ら誰だ…?』
「な!?塩が効かない…!?」
塩が効かないとは何者だ?
匡二は次に御神酒をかけようとした
手順なんかしらないから本当適当にしているんだが
その時子供の幽霊は顔を上げた
「あ…!!」
「さっさと消えてくださいッ!!」
「ま、待った!!待った!!!!」
匡二の腕を、成実は掴んで行動を止めた
そこは流石武人で。
自分より体格はよさげな匡二の腕を強い力で止どめていたのだ
「なんで止めるんですか?止めるなら、もう一つの腕も止め無いとダメですよッ!!」
右手から左手に御神酒を持ち替えて匡二は再び幽霊に御神酒を掛けようとしたが、それも成実に阻まれる
「コイツは、こいつはッ」
幽霊じゃない
「こいつは…!!!!」
Next.40th