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「お前の国の人間か?」
刀を鞘に納めず政宗は元親に問うた
「いや。多分ちげぇ。連れて来たのは俺だけどな」
その言葉に一同コケたくなったがそんな事は出来なかった違うとは何なのだ。連れて来たなら自分の国の人間ではないのか
「拾ったんだ、海で」
人間を…しかも大人を拾うなんて聞いたことがない。犬猫子供じゃあるまいし
「ま、待って下さい!この人私の知り合いです!匡二!!離して!!」
腕の中で暴れる凪
じたばたしても匡二は力を弱めようなんてしなかった
「みつけた、見つけた、見つけた…!」
そればかりしか言わない
「…皆さん耳、塞いで下さい」
全員が耳を塞いだのを確認すると、凪はすぅ…と息を吸い込み溜める
「離せっていってんでしょぉおお!!!」
大 音 量
その声を聞いて匡二は凪から身体を尻もちをついた
整った顔立ちに、一度も髪を染めたことがないだろう位な漆黒の髪 、適度に鍛えられた身体、日本人にしては薄目な茶色の瞳
昔と変わったのは髪型ぐらいだろうか
よく見ると彼の瞳は揺らいでいた
匡二を見下ろしたまま、今度は凪の瞳が揺れた
「なんで…?!」
此所はゲームの世界だよ?
・・・・・・・・・
向こうの世界の人間がいるはずが無い。
そもそも世界の間を往来する事なんては出来ないのだから。出来たら世界は今頃色々な世界と交流している筈だ
とどのつまり彼女が言いたい事は
どうしてこのバサラのゲームの世界に
どうして自分の元・世話役が
どうして、目の前にいるのか
だった
外国に行くのとは訳が違う
・・・・・
自分の居る世界から、異なる世界に行くなんて不可能。否、天地がひっくり返ろうが、世界が滅亡しようが、宇宙が無くなろうが
他の薄っぺらい中に成立つ
(漫画や小説やゲームの世界)世界に行き来する事なぞ有り得ないのだ
まぁ有り得ない事が現実になり、凪はこの世界にいるのだが
故に、自分の居た世界の知り合いがまさか目の前に現われるなんて普通、思わない
「おい、何皆集まって‥…。なんだコイツ」
井戸に行っていた成実が戻って来た
刀を持つ彼らに成実は尋常ではない雰囲気を感じ取ったのだろう
ダッ、と凪に駆け寄ると手を引いて政宗の後ろに凪を隠した
そして己も政宗の隣りに立つ
「いいです、危険じゃないですから成実さん」
この人知り合いですから
「凪様」
匡二の声を聞いて凪は政宗の後ろから出て、彼の前に立った
「凪様、凪様」
少し混乱しているようだ
凪が前に立つと跪いて、腰に抱き付いて来た
まるで迷子の子供が親を見つけた時のように抱きついている
こんな彼を見た事がない
「な、何抱き付かせてんだよ!!」
成実はそんな二人を見てそう言った
別に好きで抱き付かせている訳では無いのだが…
このままでは埒があかない
凪は鬼庭に視線を送り、口パクである事をお願いした
鬼庭は匡二の背後に回ると手刀を匡二の首に落とした
「「―――!?」」
「よし。皆さんお騒がせしました。すみません宴会を中断させちゃって。更に申し訳無いのですが、この人運んでくれませんか?」
凪は無表情で匡二を見た
聞かねばならない事があるけれど、異世界から来たと言う事を
・・・・・
長曽我部らに聞かせたく無かった
長曽我部らが悪人だとは思わないけれど、凪らが異世界から来たと知っているのは政宗、小十郎、成実、武田の三人だけだ
伊達の家臣らにもばらしていないのだから、こんな沢山の人がいる場所で問い質すわけにもいかない
だから鬼庭に(勿論鬼庭も凪が異世界から来たとは知らない)頼んだ
後ろは振り向けなかったので見える範囲で頼める人物だったのは鬼庭だけだった、というだけなのだが
それでも十分だった
気絶した匡二を凪の部屋に運んでもらった
まだ宴会の最中だったので政宗、元親らには戻ってもらった
成実は断固として宴会に戻ろうとはしなかった
その訳は
凪も気分が悪いのだからそのまま倒れたら困るだろう!?と言うものらしいが、政宗・鬼庭らには
二人っきりになんか出来ない!!からだとわかっていた
しかし気絶させるのはやり過ぎただろうか
さらり、と頭を撫でてやると成実が隣りにきて話しかけて来た
「こいつとどういう関係な訳?」
「世話役です、私の」
凪は静かに言った
「私、一応良いお家の人間なんです。って言ってもそんな格がある訳じゃないですけど、母親が消えた後からの私の世話を匡二はしていました」
そうですね、政宗さんと小十郎さんみたいな関係に近いです。きっと
でも…とつけたして
「私が12になると彼も、私の前から消えましたけどね」
「消えた?」
そう、消えたのだ
彼は、彼らは
それから一度も会ってもいないし見た事もなかった
嫌いになったんだって、思った
父親に尋ねても世話役を辞めたと言う一言しかかえってこず、彼らの通っていた学校に行ってみても会えなかった
捨てられた
そう、思った
「でも、どうして、此所に、貴方が…?」
目を閉じ思い出すのは幼い日のこと
過ごした暖かな時間も悲しい時間も、今でも思い出せるのはきっとまだどこかで思いが残っているからなのかもしれない、と思う
「全く、手酷い事をしますね」
目を瞑っていた凪の耳に聞こえた声
バッ、と成実は凪の前に腕を出してまるで守るかの様にした
・・・
むくり、と起き上がる男
匡二
首を鳴らすと、欠伸をしへらっと笑った
「あー、なんであんな事したんだろう。しかし首に手刀ってまたベタなやり方で。でも入れ方が甘かったかな。本気でやるなら深く入れないと。直ぐに意識回復しちゃったし…。あれ?二人しかいないのかい?私はてっきり先刻あの場所にいた人物全員がいるのかなと踏んでいたのに」
布団から起きると匡二は正座をし、先程の長い独り言を呟いた後の彼とは表情を変えて頭を下げた
「お久し振りです、凪様。石動匡二、先程は大変御見苦しい事をしてしまい申し訳ありませんでした。御許し下さい」
許すも何も…
「貴方はあたしとはもうそんな関係じゃないでしょ?。貴方があたしに頭を下げる理由も無いし、許しを請う理由も無い。そうでしょう?」
だって私の世話役はもう何年も前に終わっている
それに世話役は、そもそも主従関係ではない
「成実さん、何かご飯持って来ます。匡二を見ていて下さい」
立ち上がった凪は成実の答えも聞かずに部屋から出て行った
気のせいでは無いだろう
負の感情が伺えた
「…ちょっと怒ってるし、呆れてるし、泣きそうになってたかな。うん、何だか悪い事をしていたみたいで、否悪い事はしてないんだけど、した気分になるなぁ....で、君はあの子の何?先刻もあの子を私から守るようにしてさ。何、君は」
敵意が匡二から漂う。
敵意はあっという間に室内を包んだ
「俺からすればあんたが何なんだって感じだけど。まぁ敢えて言うなら周りが言うには、片思い中らしいよ?俺はアイツに」
「ふん、片思い中ねぇ…」
成実は匡二と呼ばれていた男を見る
「世話役って事は…あんた、アイツと同じ世界の人間なんだよな」
・・
「ん?あぁ、やっぱり違う世界だったんだ、此所。来れるなんて思わなかったなぁ。
・・・・・・・・・・・・・・・
まぁ、来れる確率は95%だったからね。そうだよ。此所とは異なる世界の人間だ」
匡二は何処からか取り出したゴムで髪を括った
「それから君と凪様が思っている問いに答えてやろう。私はね、運命を捩じ曲げに来たんだよ」
運命を変える
未来を変える為に
だってあの人はそう望んだ
でもそれが正しい事だなんて誰も思わない
「まだ、あの子の運命は変わっていない」
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