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「で、連合軍が豊臣軍と戦った。これを大阪の陣といい───キーンコーンカーンコーン···───今日はここまで。来週小テストだからなー!復習しておけよ!!」
西暦20■■年
東京のとある学校に1人の青年がつまらなそうに授業を聞いていた
「あー!終わった!歴史って退屈だよなぁ、成実!」
「なるみって呼ぶな、シゲザネ!!」
顔立ちの整った青年はの名前は成実
友人には
「いやー、しかしお前のご先祖さまが歴史上の人物ってすげーよなぁ、しかも名前同じ」
「母親の方の先祖だけどな、歴史の教科書には名前出ないけどな、ついでにこの名前は先祖と一緒の名前もいいよね!って母親がつけただけだけどな!!!」
文房具や教科書をリュックに入れ、青年は立ち上がる
スラリとのびた手足とその顔立ちは女子生徒に人気で「成実くーん!土日は部活ー?!」とクラスの女子に話しかけられる
「いやー家の用事でこれから宮城のほうにねー」
「そうなんだー、あっ、試合来月でしょー頑張れー!」
「おう!応援きてくれよなー!」
そう言って青年は急ぎ学校を出る
スマホを取りだし家族へこれから駅に向かう連絡を入れ、駅が最終目的地のバスに乗り込む
時間まで暇だなとリュックからヘッドフォンとスマホを取り出し、青年は英語の勉強を始めた
青年が宮城に向かうのは、毎年恒例の行事のため
一族が大事にしている先祖の命日供養をするためだった
めんどくさいなぁ、と思いながらも先祖が亡くなってからずっと一族で行われている行事でもあるのでこの先も行われ続けるのだろう
駅に着くと新幹線に乗り、新幹線から在来線に乗り換え夜にやっと目的地へたどり着いた
「相変わらずデケェ屋敷」
立派な門構えの屋敷のインターフォンを押し、自分が到着したことを告げる
すると中から人がでてきた
「あらあらあらシゲちゃん遠いところよく来たわね」
「ばあちゃん、久しぶり。ごめんな、母さんぎっくり腰でさぁ···」
80を過ぎた彼の祖母は孫の手を引いて家の中へ連れていく
家の中に入ると、祖父母が食べているところだった
「おー、シゲ。よく来たな、飯はたべたか?」
「まだ。ノンストップでここまで来たから」
「じゃあ飯くえくえ」
そんなに食えないよー、と青年は言いつつ自分でご飯をよそって席に着く。祖母が味噌汁とおかずを用意し、ありがとうばあちゃん、と礼を言う
いただきます、と青年は手を合わせ夕飯を食べ始めた
────この家の一人娘だった青年の母は、東京に住む父を追っかけて結婚した。
結婚する時はとても揉めに揉めたらしいが、いざ孫が生まれれば波は収まり、今はいい関係を築いている
この家の跡取りは青年の母だったが、家を出てしまったので、母に代わりいつかはこの家を青年が継ぐ事が決まっている
だから、青年は命日の供養に必ず出なければならないのだ
「明日は早いからな、風呂に入ってはよ寝ろ」
「んー」
いくら若いからと言ってもさすがに公共交通機関の乗り継ぎは、体育会系の部活の青年でも体力を相当削ったようで、青年は風呂から上がってすぐ寝落ちした
寝て少しした時、青年はパチリと目を覚ます
喉乾いた、と思い起き上がり台所まで遠いんだよなぁと内心文句を言いながら家の中を歩くが、とある部屋の前で立ち止まった
ふすまを開ける
その部屋には明日の命日供養で1年に1度、その日だけしか見れない物が飾ってあった
────────戦国武将、伊達藤五郎成実の甲冑と彼が最期まで所有していた槍である
普段は痛まないように厳重に保管、管理されているものだが、命日の日はそれを見せることで供養のひとつとしている
数百年前のものなので甲冑は色あせなど見えるが、槍は今でもきれいな状態だ
「これが実際使われていたなんてなぁ」
先祖たちは婆娑羅技という特別な力を持っていたという
伊達政宗は雷、真田幸村は炎、と言ったように伊達成実は氷の婆娑羅技を扱えた、と記録がある
実際数代前まではその力を微妙に扱えた先祖がたまにでたとの話もあるようだが、現代に至ってはない
ほかの戦国武将の子孫達もきっとそうだろう
カチ···ッボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーン···
壁掛け時計が12回鳴る、それは日付が変わったことを意味していた
あぁもう命日の日か、そろそろ寝ないとなーと青年は部屋を出ようとした
その時
カタン、と槍が音を立てた
青年は、え、何ホラーな展開!?と後ずさりする
しばらくじっと見るけれど、何も無い
が、その先によく見ると銀色に光るものが落ちていた
─────指輪だ
しかも細くなってる。青年は祖父のかなぁとそれを拾い上げる
「シゲ···?」
「あっじいちゃん」
「何しとる?」
「いやなんか音がしてさ、こんなのあったんだけどこれじいちゃんの?」
青年は祖父に指輪を渡す
「これ、は」
祖父は青年にどこで見つけた?と聞く
いやどこで見つけたって何もこの部屋の槍の下に落ちてたと答える
「あれ、でもじいちゃん指輪してんね」
「これはわしのじゃない。シゲ」
お前のだ、と祖父は青年に指輪を渡した
「は?」
「お前は跡取りだからな、もっと先でも言いも思っていたが、これが出たと言うことはまぁそういうことなんだろう」
祖父は話し始めた
これは伊達成実とその妻の凪の結婚指輪だ、と
青年はびっくりした
祖父は伊達成実のことを話すことはあってもその嫁の話をしたことが無い
ウィキ〇ディアに伊達成実のページはあってもその嫁のページはなく、なんなら名前すら残ってないので、祖父も知らないのだとおもっていた
伊達成実直径の跡取りにしかこの話は伝えられない、と祖父はいう
「伊達成実はある日とつぜん彼の現れた娘と恋に落ち結婚をした。その際に付けられたのがこの指輪だと伝わっている」
「これには、はめたら交わした相手が死ぬまで取れない呪いがかかっているらしくてな」
「──────伊達成実の妻凪は、伊達成実より6年前に亡くなり、その際に彼女の指輪が消え失せたという」
「それと同時に伊達成実の指からも消え失せ、彼はずっと探していたが、見つからず、彼は亡くなった」
「そして、消え失せた伊達夫妻の指輪は、何故かこの数百年の間何度か子孫の前に現れた」
「見つけた子孫の共通点は、伊達成実に瓜二つの顔をしていた、と伝わっておる」
「そして、それと同時にこの指輪を見つけた子孫には────────運命の相手がいると」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!このご時世運命の相手とか呪いの指輪とかないわー!じいちゃん怖がらせようとしてる?」
「ばかもん!そんなことせんわ!」
青年の祖父は青年に指輪を握らせる
「そうか、お前がこの指輪を」
「いやこんなホラーなものいらねーから」
ギュッ、と青年の祖父は彼に指輪をはめた
「はぁぁあ!?」
「つけとけ」
「なにこれ呪いなんでしょ!?」
「信じとらん風だっただろ、なら別にいいじゃないか」
「いやいや!俺まだ学生!こんなんつけてたら学校···あれ、ねぇ、抜けないんだけど」
「そんなことあるか」
─────────抜けない
「ちょっ、じいちゃん?」
「─────明日も早いしはよねろ」
「ちょっとじいちゃん!?」
──────────抜けない
左薬指にはめられた指輪は何をしても抜けない
「言っただろ、その指輪は運命の相手がいる前にしかでないと」
だから
「お前には伊達成実のように運命の人が現れる、そしてその人と結ばれ、この家を安泰に導く、そう信じてるぞ!!」
「はぁ!?ふっざけんな!!こちとら学生だぞ!あっ!おい!このくそじじい!!逃げるな!!」
逃げ足の早い祖父は青年の前から逃げ去る
ホンットにそこだけは一族の中で1番だな。と青年は悪態をついた
抜けないものはどうしようもない
東京に帰ったら消防にでも行って切ってもらおう、そう思った青年は喉の乾きを潤してからもう一度布団の中へ入った
■■■■■■■■■■■
夢であってくれ、と、寝起き1番左手薬指を確認したら夢でもなく現実だった青年は、このままでは目立つなぁと革手袋を付けることにした
そして朝、慌ただしくも命日供養が始まった
祖父の兄妹と自分たちだけのものだったが、お坊さんも呼んで静かに粛々と行われる
────────チリン
青年の耳が鈴の音を拾う
音がした方を見ると、庭に青い着物を着た男が縁側に座っていた
さっきまで聞こえていたお経が聞こえないほど、その音に魅入る青年
男の身体は透けている、おばけ?いや幻?と思ったが不思議と怖いと思わなかった
─────────チリン、チリン
男は座っていたのを急に立ち上がりどこかへ走り去る
それからすぐにブザーが鳴った
祖父に見てくるよ、と一言いい部屋を出る
すると美丈夫は自分が向かう方へ歩いていた
玄関に向かい歩く青年の前を歩く男の顔を見てみたいと少し速度を上げて横に並ぶ
「!?」
男の顔は自分に似ていて、身長が少し低いくらいだったが、本当にそれ以外はとても似ていた
えっなに?!と混乱する気持ちを押さえ、玄関を出ると、男は走り出す
────────凪
その名前は、昨晩祖父に聞いた名前
男がそれを口にしたのか、それとも空耳か
男が駆け出した先の門には、白のワンピースを着た女の子が立っていた
────どくん
胸を押さえる青年
ぶわっと溢れ出す、感じたことの無い、感情
────────凪!
男は二度名前を呼び、女の子を抱きしめると、すぅ…っと消えた
───どくん、どくん
胸の動悸がおさまらない
顔が熱い、なんだ、これ
「ごめんください」
鈴の音のようなきれいな声をした女の子は、左薬指に指輪をはめていた
「祖母から、こちらにあいさつをするように言われて参りました」
試合ですらこんなにバクバクしたことが無い心臓
「あの、こちらのお家の方、ですか?」
──────なぜか、女の子が、愛おしいと思う
「あの「あの!!」
青年は女の子の声を遮るように言葉を重ねる
「あっ、いやその、───おれは、ここの家の孫で…、伊達成実って言います」
「伊達、成実─────あっ!戦国武将と同じ名前ですね!」
「えっ」
伊達政宗の名前は広く知られているが成実の名前は片倉小十郎に比べれば歴史の教科書にも出てこないマイナーな名前
それを知ってる女の子に青年は驚いた
「えっ、まぁそうです、というか、この家がその子孫の家で」
「えっそうなんですか!?伊達とは伺っていたんですけどそれは知りませんでした⋯。ええと、その、昨日、こちらに越してきまして、そのご挨拶に伺いました」
こちらはお酒です、どうぞ、とお酒を青年に渡す
「あの」
「この街のことまだ何も知らなくて、宜しければなかよくしてください」
「あの!!」
「はい」
「⋯その、ご夫婦で⋯引っ越してきたんですか?」
え?とキョトンとする女の子の左指を指す
あぁ、これですか?と女の子は笑う
青年はコクリと頷く
「この指輪、今年の春頃に祖母の家に遊びに行った時、目についてはめたらなんだか取れなくなってしまって。消防署に行っても切れなくて、それからずっとはめてるんです。まぁ別にいいかなって思ってこのままで⋯、っていうか私結婚しているような歳に見えます?わたしまだ大学生なんですよ」
ぶすくれる女の子に青年は慌ててクビを横に振る
「いや指輪していたからそう思っただけで、ごめんなさい!」
「ふふふ、大丈夫、その質問もう慣れました」
では、と去ろうとする女の子の腕を青年は掴み取る
「えっ」
「あっ」
そんな行動取ろうと思ってなかったのに自分の身体が勝手に動いた
───────その指輪を見つけた者には運命の人が
まさか、そんなことがあるか?と青年は昨晩の祖父の言葉を思い出す
ごくりと唾を飲み込み、青年は意を決して顔を真っ赤にして、言葉を口にする
「あのっ、おれ、伊達成実⋯って言います!俺!!あなたに一目惚れしました!付き合ってください!!!!」
「えっ!?」
「学校は東京だけど⋯いつかはこの家継ぐからここに戻ってくるし⋯いやそれはいいか、あなたじゃないと嫌だってさっきから胸が苦しい、あなたのそばにいたいって!!思う!!付き合う───いや」
「おーいシゲぇーはよ戻らんとぉ」
やけに来客対応時間かかってるなと青年の様子を見に来た祖母が玄関から出てきたと同時に、青年は大きく息を吸って─────
「きみと結婚したい!!!!!!!」
─────くすくすくす
──────なに、わらってんの
─────成実さんっぽいなぁって
──────ふんっ
─────それよりも、また会えましたね
──────まぁな、今回は長かったな
─────今度もまたおねがいしますね
──────まかせろ、また今度も幸せにしてやるよ
ずっと
ずっと
あの日、出会ったふたりは
いつまでも
いつまでも
ともにいる