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カンカンカンッ!
木刀が互いに合わさり、乾いた音が道場に鳴る
木刀を握り見事な剣捌きを見せる齢30はとっくに過ぎただろう男と、ゆるくうねった銀髪のまだ10代半ばだろう少女が打ち合っている
男は少女の木刀を弾き飛ばした
「まだまだ甘いぞ京」
襟足に髪を纏めていた男はニヤリと京をみて笑った
「父様はお強いのです。私が本気になっても敵いません…」
「ふっふっふー。伊達三傑の一人をナメるなよー?年取っても俺はまだやれる!」
京と戦っていたのは伊達成実。政宗に仕える武将として何年か前に奥州戻ってからは、自分の治める地方で政治を行なっている
世は太平
豊臣が滅びた後、連合軍の国々は不可侵平和協定を各地の武将と結んだ。そして、奥州・陸奥は伊達が。越後を上杉が…という様な形でそれぞれが今までと変わらず国を治め、一年に三回程集まり国々の状態を報告し、何か援助が必要であれば他国が援助を出す等を話し合っている。この日の本全てを治める人間が居なくとも、今の日の本はそのやり方で平和だと言えよう
さて平和協定が結ばれ、武将として名を振るっていた成実だが、協定により戦が無くなり戦う機会なんて無くなってしまい腕が鈍ると言い、こうして時折自分の子供達を鍛えると名の元に自分の腕が鈍らない様にと思っているらしい
「本当…母様は父様の何処が良いのかしら」
「そりゃあ…京。全部だろ?」
「自身満々ですね」
「そう思いたい、思える位の出来事がいっぱいあったからな!!」
ぱたぱた…
ぱたぱた…
小さな足音がする
二人がその音がした方を見れば
「ねーねーぇっ」
「ねーねーぇっ」
双子の男の子が京に抱き付いた
「…父様に何で抱き付かない?静丸(シズマル)、優太(ユウタ)」
成実はちょっと泣きたくなった
京にとても懐いている双子は、数年前成実と凪の間に生まれた子供だった
「ねーねー、かあさま」
「ねーねー、かあさま」
二人の声は同時に発せられている。そして京にしがみついて、母様と言っている
「母様が呼んでるみたいですよ?父様」
「俺にそっくりなのになぁ~~~…‥。どうして俺に懐かないんだ…‥」
それは父様が原因です。なんて思ったがほっとく事にした
木刀を元の場所へ戻して、京の左手は静丸・右手は優太の手を引く
四歳になったばかりの双子は一番上の姉が大好きだった
あのねー、と二人して声をハモらせながら一生懸命喋る。それを京は頷きながら聴いてやるのだ
成実はそんな自分達の子供の姿を見ると幸せを感じる
(今日からまた子作り頑張ろうかな…)
でも多分嫌がられるかな、なんて思ったりしたが、目の前を歩く子供達の姿を見るとやっぱり頑張ろう!と思うのだった
■■■■■■■■■■■
「母様」
廊下を少し歩き、凪が居る部屋までやって来た
30をとうに越えたとは思えない容貌の凪が、小さな布団で眠る幼児―――と言っても生まれてから一年半年しか経っていない子供を寝かしつけて居る所だった
「ありがとう、静・優」
大好きな姉の手を双子は同時に離すと凪に抱き付いた
「かあさま―」
「かあさま―」
よしよしと抱き締めてあげると双子はニコニコしてさらに母親にベッタリとくっつく
「何か用があったから呼んだのでしょう?」
「うん。葵を迎えに行ってくれない?そろそろ匡にぃの所での勉強が終わる頃だから」
葵は、京の弟にあたる
成実にとっては自分の跡を継ぐ跡取りだ
「今日もこてんぱんにやられてる筈だから、何も言わないのよ?」
「分かりました」
「ねーねー、いってらっしゃい」
「ねーねー、いってらっしゃい」
「ん、行って来ます」
屋敷を出る京を両親と双子で見送り部屋へ戻る
戻る途中、成実が凪に話しかける
「なぁ、凪。今夜、いいか」
「きょう、は···その」
「ん?」
「多分危ない日で」
だからその、出来ればそれが過ぎた後がいい、と言おうとすると、頭をグイッと寄せて成実は凪の髪に口付けをする
「だめ?」
「う………」
そう言われてしまうと少しだけ弱くなる凪。成実はあざとさをこの十何年で会得し、度々凪を戸惑わせていた
「うううう」
「な?」
子供の前でいちゃつくのは昔と変わらない。恥ずかしがる凪とそんなのお構いなしな成実
──────きっとこの二人は、変わることは無いのだろう
■■■■■■■■■■
ガラッ
「葵ー」
町中にある一つの小さな屋敷に京は足を踏み入れた
そこでは京にとって二人目の父親と言っていいだろう匡二が、葵を扱いていた
「おや?京、葵のお迎えか?」
「うん。で葵はどうして…」
「テストで赤点だったんだよ。だから、」
根性が足りない!と言って扱かれているらしい。体よく雑用をさせられていると思うのは自分だけ?
「葵ー、ちゃあんと勉学励まないのは良くないよ?」
「あ、姉上ぇ…!!」
葵は根をあげていた
葵は凪と成実を足してニで割ったような顔をしているが、気質というか性格が成実に似てしまった
武術の訓練ばかりして、匡二の教える勉強・勉学を進んではしようとしない
「私は武術の方が合ってるのです!人には得て不得手が、ぐぇっ」
「勉強が出来る様になったら得て不得手が~って言え?この俺が教えて馬鹿なままなんて許さないからな?ん?」
匡二は葵に容赦が無い。それは成実をみている様だからなのだが…
「て、てめぇの勉強は難しいんだよっ!」
「ほぉ、俺に向かっててめぇと言うか。良い度胸だ。宿題の内容、覚悟しろよ?」
「ひぃいいいい!」
こうして扱(シゴ)いているが、匡二は葵の事をきちんと思ってこういった扱(アツカ)いをしていると京はわかっている
自分達兄弟を自分の子供の様に接してくれるのは、自分を含め赤ん坊の頃から見て来てくれているからだろう
「どうした、俺を見つめて?20以上離れた男なんか見ても良い事はないぞ?」
「別に何でも。老けないなぁと思って」
「褒め言葉として受け取っておく」
京は知っている
彼が時折切ない顔をして自分たちを見るのを
―――両親は昔の事をあまり話さない。いや、話してくれる事は沢山ある。もう死んでしまったが、数年前まで飼っていた北斗の事や、母が四国まで鬼庭のおじさんと行った事、その間父が宗時おじさんと戦いに出ていた事、着物をあまり持って無かった母に父と政宗様が着物を買おうと街に出て母の勘違い?で大変な目にあった事、皆で雪だるまを作った事、ほんの些細な思い出から武勇伝まで
けれど両親の思い出には欠けている期間がある
―――私の生まれる前の時期が、抜けている
あえて話さないのを、知っている。隠したい事があるのだろう、と。例えば―――自分の出自、とか
子供の頃はこの銀髪は母方にそんな髪の人がいたよ、と言っていたけれど成長するにつれて嘘だと分かる
私を見る度に何かを思い出して頭を撫でる母
きっと―――私の父は、実父では無い。それはきっと確信をついている筈だけど、両親や匡二が何も言わない所をみると聴いてはいけない事なのだろう
(あれ、中見て見たいなぁ…)
あの首飾りと、匡二が時折大切そうに見ている茶色の薄い入れ物は自分の出自の秘密の一つだと思っている
知られたくないから隠している、それを暴けば母は悲しむのかな、と思う。だけど好奇心が勝り知りたいと思うのは人の性だ
「ねぇ、それ中見せてほしいなぁ」
「え?」
指さしたのはネックレス、大きなロケットペンダントだった。それを見せてくれと言われた匡二は一瞬固まった
「開くんでしょ?」
「あ!俺も見たい!!」
「別に何も良い物は入って無いですよ?」
「いーからっ!」
「うわっ!」
匡二に抱き付いて押し倒す。緩んだ隙に首から下がってるネックレスに触って中を開けた
パチン
中には―――――
「赤ん坊と………、誰?」
「これ母上だ」
左右にある鮮明な絵。―――写真だ
「ほら、右側の絵。きっと若い頃の母上だよ。左側は―――多分」
と、葵は目の前の匡二を見た
右側に映っているのは、中学生の凪
左側に映っているのは――――
はぁ、と匡二はため息を吐いた
「赤ん坊がお前達の母上と、これが俺でこっちの男の子が―――凪様の兄の北斗だ」
起き上がると写真の説明をした
「「北斗?」」
北斗と言えば母が飼っていた犬の名前だ
でも、
「母上に兄上が居たなんて知らなかった…」
そう。今知った
だって話さないから
「…北斗はもう死んでしまったから。それに、アイツを思い出す事をきっと凪様はまだ…」
「まだ?まだって何?」
「それは俺からは、」
「………どうして隠すの?母上も父上も私に隠してる事があるよね?どうして隠すの!?」
感情的になってしまう
だけどだけどだけどだけど…!!
「なぁ、この薄いヤツ、多分裏に何か入ってる」
葵の一言にハッとなる。葵はロケットペンダントの写真を丁寧にとり、その写真の下から二つの紙を取り出した
「なんだ、それ」
匡二は初めてそれを知った。写真の下に何か入っているなんて分からなかった。あまり、開けないからもあるが
葵の手からそれを奪い、カサ、と開ければ―――――
「は、は、あっははは!!!!!!!」
匡二は手を目にやって隠した
「君は、本当に…馬鹿だ」
匡二の手にある紙が墜ちた
一枚は小さなメモ用紙に書かれた、手紙
一枚は――――――――、北斗と半兵衛と秀吉の写真
京は写真と紙を拾った
この先凪を守る為に強くなる
俺達が守るんだ。何がおきても、何をしても
ここに、二人で誓う
19××、3.15
石動 匡二
間蔵 北斗
匡二の瞳から涙が流れた。色が茶ばんだソレは、遠い昔の約束事
30年位昔のものだ…
こんなものを大事にしていた、なんて
「これ、」
写真に映るのは銀髪の青年とガタイの良い男の人
匡は銀髪の―――、自分と同じ色をした二人をじっと見た
こっちの紫が入った銀髪の青年は、先程の写真の、母の兄だろう。母に似ている
じゃあ、こっちは…と自分の髪と比較する京
少しうねった髪
銀髪
ドクン、
「姉上?」
「葵、おい。先に帰れ」
「え―――!!何で姉上を置いて!」
「凪様と成実を連れて来い。はやく」
「分かった…」
しぶしぶ葵は家へ帰る。数分無言のままだったが、匡二は写真を見つめる京の肩に手を置いた
「京」
「…」
「京」
「私の、お父さんはこの人…?」
「………」
「ねぇ、」
ガタンッ!!!!!
「てめぇっ!」
いきなり音がしたと思ったら、成実が匡二に掴み掛かっていた
あれから10分もしてないうちに来た所を見ると、走って急いで来てくれたのだろう
「京…」
凪は京の肩を叩いた。京の手には、懐かしい面々が映っている写真があった。それにとても驚く
「兄さん、半兵衛さん―――」
「母様…」
京は凪を見ずに、聴いてはいけないと分かっていても、それでも言わなければと言う感情の方が勝っていた
「この人、私の父様…?」
京の瞳から涙が零れる
「私は何も分からない子供じゃないものッ!!!葵達を見れば、いやでも気付きます…!!ねぇッ!…私の……私は父様の実の子じゃないんでしょう…?!」
「京ッ!」
「お前…ッ」
匡二と成実は京の叫びにうろたえる。隠したい過去が今、京を泣かせている
この年頃は思春期だから精神的にも不安定だが、この嘘はそんな京をかなり傷つけていたらしい
子どもが泣いている、自分たちのせいで
「京…、話してあげる」
「凪?お前まさか…」
「気付いたなら言わないと…、成実さん。京、ごめんなさい。嘘を吐いていたのは、理由があるの」
だから泣かないで?
話すから