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「京――――!」
夏の暑い陽射の中、彼女は探していた
背中に届く髪を一つに縛り、20代始めだろう彼女は「京」と言いながら村の中で何かを探して歩いていた
「京―――!…っもう、何処に行ったのかな…」
「いたか?!」
彼女の前からやって来た美丈夫に彼女は首を横に振った
「ったく…お転婆め。誰に似たんだ」
「少なくとも私じゃ無いですよ?成実さん」
彼女の答えに成実と呼ばれた青年は顔を歪めた
「…なんだよ。俺かよ」
「私がお転婆に見えますか?」
「んにゃ、見えねーな。はいはい、俺がお転婆娘にしたようなもんですよ!つか、結構暑いから無理すんな。俺らだけで探すから」
成実は彼女の頭を愛しいそうに撫でた
「大丈夫です。それより前田さんの家に行かないといけないんですから京を探さないと…」
「だなー、あ。もしかしたらガキ共の溜まり場に居るんじゃね?」
「なるほど。じゃそこに行きましょう」
■■■■■■■■■
「っくそ!」
「ったく!おとこのくせによわいのね!」
銀髪の髪を揺らした気の強そうな女の子が木の棒でちゃんばらごっこをしている
なかなか筋が良く、相手の男の子を押している。女の子は攻める事を止めず、むしろ攻めを強めていた
「京!」
「あ、かあさま!!!」
自分を呼ぶ声がしてそちらを向けば母親が立っていた
「これで、おわりっ!」
パシィッ!京は相手の木の棒を弾き飛ばした
「ひゃくねんはやい!」
「こら!」
駆け寄ってきた母親は京をいさめた
「今日は出掛けるっていったでしょ!もー···剣術なんかしちゃって…」
「いいじゃん。護身になるぜ?」
「成実さん…」
「とうさまぁっ!」
とてとて、と
京は成実の側まで走った
父親の事が好きなのが一目で分かる
「よしよし。京、あのな今日は前田のおじさんの家に呼ばれてんだ。だから支度して行かないと間に合わなくなる。遊びはここまで」
二人の髪の色素と異なる銀色の髪を成実は撫でる
京は「えー、まだあそびたいよ」と言うが成実は駄目だと言う。そのやり取りを少しの間していたが、ついに京の方が折れた
「たろー、もっとつよくならなきゃだめだよ?」
帰り間際自分が打ちのめした(?)男の子にそんな一言をかける京
それに母親は溜め息をついた
「どーしたんだよ凪」
「どーしたの?かあさま」
成実に抱き抱えられた京と成実が凪に同じ質問をしてくる
「いや、血は水よりも濃いっていうか…。ちょーっと教えた位で、あんなちゃんばらしちゃうなんて…と」
「関係なくね?」
「なくね?」
「京、父様の口真似は駄目よ?」
「むー」
最近父親である成実の言動を真似する様になり困る。女の子なのだから女の子らしく…女の子らしく…
「でもやっぱり思っちゃいますよ。…武士の、侍の血を引いてるんだなーって」
「凪…」
娘の容姿は、彼に似ていた
顔は母親である自分に似ている。しかし髪は彼の色だし、時折彼と似ていると思うカ所がでてきたりする
京は父親が成実と疑っていない。毛並みが違う事に疑問を投げられた事はあったが、身内に同じ髪の色をした人がいたからその人に似たんだね。と嘘を吐いた
「武士の子、なんだね。京は」
京の頭を優しく撫でる凪
呟いた言葉に
成実は影をみた
消えない影を
「んとね、わたしねおっきくなったら、たたかうぶしょうってのになりたい!」
何処か雰囲気を変えた母親を元気にする為か、そんな事を言い出す京
「おー、お前ならなれるぞ。なんたって俺が父なんだから!!」
成実はそれに答える
「とうさまみたいになるーーー!」
そんなふたりをみて凪は微笑んだ
■■■■■■
―数年前―
半兵衛死後、秋と冬の狭間の時期に凪は痛みと苦しみに耐え、一つの産声産み落とした
産婆と匡二の手により取り上げられ、取り上げられた赤ん坊を見せられた凪は、涙を流してした
凄まじい痛みの中で生み落とされた赤ん坊、先程まで自分の中に居たもので、生まれてきてくれてありがとう。そんな気持ちでいっぱいだった
そして産まれたばかりの我が子を成実は不思議そうな目で見ていた
『ちっせー、抱いたら折れそう』
お産から一日過ぎ、名前を決めた
一応半兵衛も成実も武士なので、幼名をつけなければと思っていたが、男の子でなく女の子だった為、用意していた幼名は見送りになった
(因みにつける予定だった幼名は、成実がしつこく俺の幼名でいい!と言った為用意も何もない)
色々名前のアイディアは成実から出た
珠(たま)
鈴(すず)
一(いち)
あーでもない
こーでもないと成実が散々悩んでいたが、凪はぽそりと呟いた
『成実さん。名前は決めちゃいました』
『は?』
『京。京にします』
『や、ちょ、ま…なんで?』
『―――半兵衛さんが、男の子なら左京と名付けたいと言ってたからですが?』
『こいつ、女子だぞ』
『だから、左京の左をとって京。半兵衛さんが居た証に、半兵衛さんの最期の願いをつけたいんです。そのまま付けても良いですけど、京の方が可愛い感じがしますし…ね?』
■■■■■■■
そうして半兵衛の忘れ形見の“京”は、伊達成実の娘としてすくすく育ち始めた
京が産まれて半年後に小さな祝言をあげて、成実と凪は正式な夫婦になり
成実は今日(コンニチ)まで京に沢山の愛情を注いでいる
成実に肩車をねだり、成実の肩に乗っかっている京をみると成長は早いものだと思う
「あ、おじちゃーん!」
京が匡二を見つけた
匡二は三人の姿を見ると、安心した表情をみせる
三人は匡二の所まで行き、止まった
「京、駄目ですよ?何処かに行く時は、私か父様か母様に言わないと」
「だってー」
「だって、は聴きません。凪様、身体の方は?」
「大丈夫。匡にぃも成実さんも心配しすぎだよ…」
凪は今、自身に第二子となる子供を宿している。成実の子だ
冬に産まれる予定で、安定期に入っているのでそこまで心配される必要は無いのだ
四人は家の前にたどり着く
家の前には馬が二頭いた
「さ、行きましょう。ゆっくりなら身体に障らないと思いますから。凪様は私の方に」
「ちょ、ばっ!凪は俺の前!!京はお前の前!」
「嫉妬ですか」
「何とでも言え。身重な嫁さんを思ってるだけだ」
成実は凪を自分の馬の背に乗せる
そして自分も馬に乗った
とうさまかっこいい―!、かあさまずるーい!と言う京に二人は笑ってしまう
京はしぶしぶ匡の馬に乗っけられる。手綱を握る二人は出発が出来る状態だと判断すると、ゆっくりとした速度で目的地まで行ける様に馬を操った
前田家に行くと、慶次が出迎えてくれた
「凪!久し振り!腹の子は元気かい?」
「はい!順調ですよ~」
前田家着いたのは夕方から夜に変わる手前位だった
成実が先に馬から降り、凪を馬から降ろした
「まつねぇちゃん楽しみにしてるぜ。京ちゃんと逢うの」
成実は京を匡の馬から降ろし、京は慶次の元に走りよった
慶次は「大きくなったなー」と京の頭をその大きな手で撫ぜた
「ほら皆待ってるから!」
グイッと引っ張られ、屋敷にあがらされる
皆?と疑問が生まれる。三人は、まつ・利家が待ってるのだと思っていたが、皆とはその二人以外も居るという事だ
草履を脱ぎ、座敷へ上がる
「慶次!大事に扱えよ!身重な………」
慶次と凪に続いて入って来た匡二と京をその腕に抱いた成実
成実はその部屋の中を見て言葉を無くした
「梵…!?」
そこに居たのは、奥州の覇者・伊達政宗だった
それに、片腕の片倉小十郎、伊達三傑の一人鬼庭綱元、原田宗時、後藤信康、白石宗実、留守政景――――
伊達に名を連ねる政宗を支える武将達だった
「おー、本当に生きてる」
そう言ったのは信康だ
「政宗様から全て聴きました。信じ難い世界もあるのですね。―――病も何も無さそうで何よりです」
これは宗時
「変わってないな―」
これは宗実
留守政景は中座で目を瞑り胡座をかいている
綱元・宗時・信康・宗実は凪と成実の所まで集まり囲い、特に成実とじゃれようと信康と宗実が成実に執拗に触っている
綱元と宗時は凪の姿を見て、「大変な決断をしたんですね…。無事で良かったです」と宗時は手を取り、綱元は泣きそうになっていた
「っ、だあぁああああああ――――!!信康もっ!宗実もっ!!!頭撫でるんじゃねぇぇええええええええええええええええええ!!!!押すんじゃねぇよ!京が潰れんだろぉがぁあああああ!!!!それとそこぉっ!見てねぇで先に京を助け出すとかしやがれよっ!!!!!!!」
「むぅうう…とうさまぁ、こえおおきいよぉ」
京は成実の腕の中で身動ぐ
宗実と信康はそんな京を見る。成実の顔と凪の顔を見て、京を見た
「気ぃつよそー」
「京って言うんだ?母上にそっくりだね」
凪は京を見られてやばいと思い、二人の元へ行こうとしたが宗時に肩を掴まれた
振り向くと、首を横に振る宗時に行くのを止められた
「言ったでしょう?政宗様から全て聴きましたと」
そして声を潜めた
「私達は全て知ってます。貴女が違う世界から来て、この世界を選び―――あの戦の時に既に竹中半兵衛の子を宿していて、それを案じ身を隠した事を」
では―――
綱元も宗時も頷いた
「お前らそれ位にしねぇか」
六人を制したのは小十郎だった
相変わらずの風貌だが、ここ数年見ないうちに少し老けた様な気がする
「成実、まず政宗様に挨拶するのが筋じゃあねぇのか?」
「する前にこいつらが邪魔したんじゃねぇか!ったく…お前らかわらなさすぎ…」
懐かしい面々に、成実は頬を緩めた
あの日、あの場をこっそり出て行ってから会わずにいた戦友達
やはりそこは居心地がいいと改めて思う
「京、おいで」
凪が手を差し出すと、京は凪の方に行くと身体をくねらせる
凪に京を預け、目を合わせると二人は頷いた。匡二はちゃっかり下座に座っていた
上座に近い場所にいる政宗の前まで二人は移動し、独眼竜と謳われる男の前に座った
成実は胡座を、凪は正座をし、京にも正座をさせた
「………」
何を言っていいのか分からず、成実は緊張して固まっている
しかし意を決し、口を開いた
「ひ、久し振り…?」
「あぁ」
「……ご無沙汰してました……?」
「あぁ」
何故全て疑問系なのだろう…
「――――改まって挨拶とか、やっぱり無理…!!梵ッ!畜生、イイ男に更になりやがってぇ――――!」
ガバッと成実は政宗に抱き付こうとした
それを政宗はひょい、と避けた。成実はそれにより行き場を失い壁に当たった
盛大にビタンッ!という音がして、京が立ち上がり政宗に駆け寄った
「とうさまをいじめないで!」
「Ah?」
「京!いじめてるんじゃないの…!!違うんだよ!!」
ポカポカと政宗を叩き始めたので娘を政宗から離す
嫌がる京に再度止める様に強く言うと、ふてくされ、泣き始めてしまう
「京」
「いててて…、あー…、京泣いちまったか…」
鼻をこすり、成実は泣く京を抱き締め政宗をチラ見し、視線を交わす
「京、父様はいじめられてなんかいないぞ?」
背中を擦って、京をなだめる。小さな背中を優しい手つきで撫でる様を見るからに、あやすのは慣れっこらしい
「父様は強いんだ。苛められる程弱く無い!」
「でもぉっ」
「京は、父様の子だろう?だったら泣きやむ!んで、父様の子らしく挨拶をしなさい」
「んぅ」
ごしごしと小さな手で目を擦った。凪はそれを見て、政宗に挨拶をする
「お久し振りです。政宗さん。あの時以来…ですね。お元気でしたか?」
「Ah….I'm fine.How are you?」
「Me too」
にこりと笑いを返す。そして京がおずおずと凪の隣りに座り、政宗を見た
そして―――――
「だて、とうごろう、しげざねがいっし、だて きょうです。さんさいです⋯さっきはごめんなさい⋯」
政宗は隻眼で京を見る。表情は以前と変わらない
「………」
その姿を見て、思うのは今は亡き天才軍師だった彼の面影だろう。顔は似て無くとも髪色が、少しの癖っ毛が彼を思い出させる
「京、別に俺はお前の父上を苛めてるつもりはねぇ。挨拶だ挨拶。にしても…」
今度は凪を見始めた政宗
ニヤリと口端をあげた
「凪、数年見ないうちに綺麗になったな。成実の正室にゃもったいねぇ」
その言葉に成実は反応する
「はぁ!?もったいねぇって何!?俺が釣り合ってねぇって言いたいの?梵っ
あ、もしかして政宗の室にすれば良かったとか、まさか…奥にするつもり…!?駄目っ!ぜってぇっ、離縁しないし梵の頼みでもそれは聴かないからな!!!!!こいつは俺の嫁さん!正室!」
がしっ!と凪の後ろまでまわり、抱き締める。いきなり抱き締められた為、凪が「ちょ、や、な、成実さん……っ!!」と動揺している。やる事をやっている癖にここで動揺されてもなぁ…と成実は思う。いや、そんな凪だから愛してるのだが…
「別に凪を娶るとは言ってないぜ?綺麗になったなって褒めただけだ。父親になってちったぁ落ち着いただろうなんて思ったが…」
「全く変わりませんな政宗様」
「…どーせ俺はいつまでたってもかわらねぇよ!!!」
畜生ーーーー!と叫べば、周りが笑い始めた
懐かしい。こんな感じだった。···伊達にいた時は
そしてそのまま宴会じみた食事が始まった
成実は久し振りに仲間にあったのが余程嬉しかったらしい。信康と政景と宗実と綱元と政宗と慶次で呑めや騒げやと酒を飲んでいる。政宗は周りにのまれず静かに飲んでいるが、内心は久し振りにあえて嬉しいのだろう
匡二と小十郎は畑の話をしている。そういえば奥州には以前匡二が植えた花があった。それの話もしているらしい
凪と京は、まつが作った料理を“おいしーね”と言いながら食べ、食べ終われば、まつと京がお手玉で遊び始めた
それを見計らってか、宗時がこちらにやって来た
「そういえば宗時さんの奥さん、あの時妊娠してましたよね?」
あの時というのは、凪が城で飼っていた犬について原田家に行った時の事だろう。あの時原田の嫁は妊娠していた
「産まれましたよ。女子です。また来年あたり予定してます」
「大変ですね、奥さん…」
「子供は何人居ても良いと思いますよ?…成実殿が父親ってのは未だ信じられませんが…少々、お転婆の様な気質が見えるのは成実殿のせいです?」
「多分…。あ、でも元々剣術の才能があるみたいで、成実さんのを見て覚えちゃうみたいです」
それはきっと血筋なのだろうが…
「宗時さん。私忘れたくても、忘れられないんです。名残を見つけると。軍師だったから時には非情な事をした人ですけど、私の前では……少なくとも“夫”として振る舞ってくれてたから。最期の言葉が、とても嬉しくて悲しくて、数ヶ月だけの夫婦だったけど、」
京を見てると思う
―私は半兵衛さんに愛されてた―
「これは成実さんに内緒ですよ?半兵衛さんについてちょーっと、まだ気にしてるみたいですから」
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宴もたけなわになって来た頃、成実と政宗は少し風に当たろうと外に出た
夜の風は酒でほてった身体と酔った気分を一気に冷ます
「あー、久し振りに騒いだ」
「飲み過ぎだな」
「バーカ。普段あまり飲まないからいいんだって!」
政宗は柱に立ちながら寄り掛かり、成実は縁側に腰を下ろし、前田家の庭を眺める
「で?なんで梵がここに居るの。逢えたのは嬉しいけど、何かあるから来たんでしょ」
「Ah...come backさせるつもりで来た」
「カムバック……んと、えっと…………帰って来いって事?」
「まぁそんなとこだ」
「どうして?」
「皆、成実さんに戻ってきてほしいんですよ」
カタン…
音がして、そちらを向けば寝てしまった京を胸に抱いた凪が立っていた
「宗時さんから聴いちゃいました。どうしてここに来たのか」
柱に寄り掛かり政宗の横を通り過ぎて、凪は成実の隣りに座った
「京は置いてこいよ。夜風に当てたら風邪ひくだろ?」
「布団に寝かせると愚図っちゃうんです」
そっか、と成実は凪の腕で眠る京の額を撫でた
そして先程の気になる発言の先を凪は続けた
「平和同盟を結んで、戦は無くなった今ですけど、政宗さんの隣りには成実さんが必要らしいです。成実さんがいて皆揃っての伊達ですから」
「駄目だ。まだ帰れないだろ!お前…」
凪はにこりと笑う
「最初に誰かが言ったじゃないですか。政宗さんから全て聴きましたって。奥州の皆は、私達がここに居る理由を知ってます。それを知って受け入れて―――、成実さんに帰って来て欲しいんです」
「凪―――」
「私は、成実さんなら何処でも輝けると思うけど、政宗さんの側なら尚輝けると思うんです。ね、帰りましょう?」
帰ろう、懐かしい
貴方が産まれた場所に
貴方を待っている人の所へ
「もし誰かが狙って来たとしても、成実さんが守ってくれるんですから、大丈夫」
だから、貴方の本当の居場所へ帰ろう――――――
next