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願わくば、
元の世界に帰った
凪が居なくなって、まだ一か月しかたっていない時間帯に戻され、父親に凪は帰ってこない事を伝えた
ついでに―――彬から“彼女から父親宛の手紙、面倒だからお前が渡せ”と預かった手紙も渡した
和紙に筆で書かれた手紙が父親の手により広げられる
暫く無言で読んでいたが、読み進むにつれ眉に皺が寄り始め、ついには途中で読むのを止めてしまった
ふぅ、と溜め息をつき目頭を押さえる
「―――決まっていた事だと?」
「あぁ」
「最初からこの世界から消える事が決まっていたと?」
「彼はそう言っていた」
「はぁ…」
アンティークっぽいイスにもたれる
50目前の父親だが、良い感じに年を取ったのかイスにもたれる姿は絵になる。ワックスで整えられた髪を父親はぐしゃりと崩してしまった
そして手紙を読み直した
十と余年、育ててくれてありがとうございました。
父さんが私の事を愛してくれていたかは私には分かりませんが、それでも育ててくれてありがとうございました。
この世界に来る事が決まっていたらしい私は、この世界で離れたく無い人を見つけました。
側にいたいと言う人と出会いました。そちらの歴史でも居る人だと思いますが、名前を伊達成実と言います。伊達政宗の従兄弟です。私はその人に出会い、人を好きになる、愛すると言う事を知りました。
あと私お母さんになります
父さんにとっては孫になりますね。まだ生まれてはいませんが。
父親は、成実さんではありません。竹中半兵衛さんと言う人です。色々あって、最初半兵衛さんの奥さんにしていたんですけど、そこは兄さんに聞いてください
妊娠したと分かって、色々悩みました
色々というのは本当に色々で、いけない事も考えたりしました。
今、手紙を書いて居る今、私は思うのです。
生まれ来る子供は、望まれて生まれて来ます。成実さんや匡にぃ、私も望んでます。
じゃあ、私は?と考えました。
父さん、私は貴方に望まれて生まれて来ましたか?…なんて私の戯言です。
私はもう父さんに会う事はありません。
この世界で生きて死ぬ事を選びました。
だから会う事はありません。
会わずに別れの挨拶がこの手紙というのは申し訳ないです。
まだ書き足りないですけれど、ここで止めておきます
最後に、
どうかお元気で
凪
望まれて生まれて来ましたか、なんて当たり前の事だ
彼女の母親の事も愛していたし、娘も愛しかった。けれど彼女が色々自分には理解しがたい事を言い出し、彼女を追い出し、娘にどう接すればいいか分からなくなった
「少なくとも私は…、お前を愛していた。親としての愛情をあまり与える事も無かったが…」
今更になって娘と二度と会えぬ悲しみが襲ってくる。こんな事なら、一緒に出掛けたり、話したりして良い思い出を作ってやれば良かったと後悔が襲う
彼の机の上には、幸せの象徴というのか生まれたばかりの凪を中心にとった家族写真が飾ってあった
何も知らなく、幸せと呼べた頃―――
「俺も、長くはありません」
この姿を見て、何かあった事を察したのか北斗が言い出すまで待っていた父親
顔をあげて本来の顔より老けた息子を見た
「お前も居なくなるのか…」
「俺の場合は、自業自得というか…。自分で選んだ事ですから。」
手のひらを見る
こちらに帰ってきてから、身体が薄くなることが増えた気がする
「残念ながら、最期に身体は残らない様です。ま、それは置いとおいて、父さんに面倒を見てもらいたい子達がいるんです。あちらの世界の人間なんですが、記憶をなくしていて…。自分の子としてか、それに近い形で面倒を見て貰えませんか?」
―――――――――――――
薄暗い部屋でパラパラと何かを捲る音がする
柔らかな日差しと窓から見える木々の様子に、北斗は目を細めた
北斗の片方の手元には手の中に収まるくらいのカードケースがあり、それは開かれていた。もう片方の手はアルバムを開いている。北斗は写真の入れ替えをしていたのだ
ケースに入っていた写真を取り出す。写っているのは会えない妹の写真だ
祝言の際、こっそりと写真を撮っていた北斗はそれを大事にケースにいれ、こちらへ持って帰ってきていた
父には見せていない。幸せそうな顔をしていない妹を見せることができなかったから
ただ何かの不手際で見られたら困る、と思った北斗はその写真の上に別の写真を重ねることで万が一を回避しようと考えたのだ
ぺり、とアルバムから出した写真は懐かしい写真
その裏には文字が書いてあった
写真の凪を見て毎日思う
何をしているだろうか
身体は大丈夫だろうか、とか
毎日毎日妹を、凪を思う。会えぬ程気持ちが募るというのは切ないものだ
「師団長の父さんちょーーー厳しい!!」
「まぁそんなこと言うな、お前たちを馴染ませるためだ。ほらさっさと行け」
北斗のそばに、かつて部下だった子供がいた
「ちぇっ、」
不貞腐れ部屋を出ていった少年に、北斗は笑ってがんばれー!と声だけで応援を送る
北斗は、あの世界で暮らすことが出来ない、生き残った部下の二人を命の対価に加算させ、こちらへ連れてきた
本来1年はあっただろう命の灯火は、もう残り少なくなったが、それでも自分がやってきたことの始末のひとつだ、と父親に引き合わせた
二人はこの世界の年頃の子達と同じ生活が出来る様みっちり勉強やマナー等教えられ、今は学校に行っている
将来は父親の側に居て父親を助けてくれる様にそうしているのだ
自分はというと残り短い時間を、出来るだけ父親の側に居る事に費やした。しかしついに昨日、顔色が悪い!一週間位休め。と父親に休養を言い渡された
その一週間すら惜しいのに、今こうしている間も時間は惜しいのに、父親はそれを許さない
「よし、こんなもんかな」
あの写真の上はこれでいいだろう、と今度はロケットペンダントを開けその写真も交換する
そして椅子から立ち上がりカーテンを開けた。室内に光が室内に入る
んー、なんか本が読みたくなった、と大きな書棚の前に行き、使い古された医学書には目を向けず北斗は目当てのシェイクスピアを探した
自分の背より一段高い所にソレはあり、つま先立ちで本を取った。手に取ったのはロミオとジュリエット。まぁこれでも良いかと思い、椅子の方を向いた
ドサ…
本が、落ちた
何故と思い手を見て見ると手が透けて、本が下に落ちて居た
それを見て、
────────北斗は目を閉じた
コンコン
控え目なノックが響く
「北斗、昼食べに外にいか…、北斗?」
北斗の部屋に彼は居なかった
何故か本が部屋の真ん中に落ちている
それを広いあげて、部屋の中を見渡す。少し前まで部屋の中に居ただろう跡はある
本があっただろう本棚の本の隙間に本を入れる。そして部屋の窓を開けた。部屋の近くに太い木の枝があり、三階にあたるこの部屋の高さはそれなりだが、そんなそれなりの高さの木の太い枝に一匹の黒猫が丸くなって寝ていた
「どこかに出かけたのか?仕方無い…」
そう言って、父親は出ていく
それを待って、木の枝で寝ていた猫が欠伸をして開けられた窓に飛び移った。そんなに距離自体はないのでなんなく窓の桟を飛び越え部屋の中に入る事が出来る
部屋をじぃ、と見て本が落ちていた所まで、トコトコと歩くと“ニャア”と一鳴きし、そこをぺろ、ぺろと舐め始めた
「止めなさい、次郎」
青年の声が静かな部屋に響いた
すらりとした手足に長身がモデルを想像させる
「北斗、」
黒猫が舐めていた場所に膝立ちし、右手を床に当てた
「北斗、」
ぼぅ、と床に不思議なものが光で描き出され始めた
「これは気紛れ、俺の、気紛れだよ。大丈夫一夜には前に許可貰ったから」
ぶわっ!と光が溢れだした。その中で最も輝いている光の球があり、秋はそれを見ると一つの呪いを口にして光を見送った
「ありがとう、北斗。ごめんな」
■■■■■■■■■■
ざぁああああああああ
風の音がした
地獄に風の音?
いや地獄にも風位は吹くだろうが、ここまで優しい風ではないだろう
緑の溢れるセカイ
『…』
きっと夢だ
ここは、ここは――――
“師団長”
懐かしい声が聞こえた
彬の気紛れだと言っていた
このセカイにいる事は彼等の気紛れなのか
俺は、身体を無くし所謂―――幽霊的なものになってこのセカイのある場所にたどり着いた
愛しいものを見た
お腹も膨らみ、幸せそうに成実と匡二と居る凪を
そして死の気配を漂わせている半兵衛をみた
―半兵衛―
ドクン、と既に無いはずの心臓が鳴った気がした
何故か不思議な事に俺の姿が皆に映っている
半実体となって、半兵衛の枕元に立ち半兵衛を見た
身体は少し柔らかいが触れる。大事にしていたものは身体よりも硬く形を成していた
匡二と目が合い、俺はソレを親友に預けた。消える事無く親友の手の中に収まるソレは確かな形でそこにある
―さぁいこう―
半兵衛に俺は語りかける
いこう、と
行く先が例え天国でなかろうとも
行く先が例え地獄であろうとも
一緒に、いこう
そこらにでも転がってる意味で、
ただ“守りたい”っていう形の意味だった
なぁ、
もし、
地獄に落ちても生まれ変われる事が出来るなら、
俺は、お前達とまた巡り逢いたい
何処のセカイでも、
どんな時代でも、
再び巡り逢うのなら
何処だって構わない
でも強く願う事は、
またお前達と親友になりたい
また、お前の兄貴になりたい
俺、は――――――
夢をみる
これが最期の夢
誰にも聞かれない
誰にも聞き取られない
ただ1人の人間の、小さな小さな願い
それを神が聞き届けるかはわからない
けれど今は─────────
next