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人間は、いつだって
死を思う。死を思いながら、人は生きて行く
でもソレを思うのは、ソレを思って生きていくのは、
《生きたいから》
■■■■■■■■
「えっと…」
寝る前、凪の部屋にやって来た匡二。真剣な顔で、受けてください。と言う
言われた事は、確かに納得出来た。そう言う行為をしてきていたし、避妊なんてしていない。夫婦になったのだから、それは仕方無いと思っていたし、彼は跡継ぎを・とずっと言っていた。妻なら、それは役目なのだと
でも
「どうして、今…?」
ここには成実もいる
何故、そんな時に···何故今それをしなくてはならないのか
────どくん、と鼓動が速くなる
「凪。調べてもらえよ」
「え…」
成実は壁によりかかり、そう言った
「あ、もし身籠もってても、俺はお前をもう二度と手放すつもりは無いから!えーっと、身籠もってたら、奥州には急いで帰れないしさ、それに―――その事で何かあるかもしれないから」
何かあるかもしれないから
その言葉に凪の心臓は更に鼓動を速くした
嫌な汗が吹き出る。負けた軍の、しかも軍師の子供が存在したら―――?
戦の終わり方には、大まかに言えば二種類あると半兵衛から凪は聴いていた。和睦か、その戦の中心となった一族を皆殺しをする…
後者に関しては、嫡男やその血筋の男が皆殺しになる事が多いね。と言っていた
そうだ、とその時思い出したのは、史実浅井長政の事だった
長政のは三人の姫と男子二人がいたらしい。長政が信長に倒された時、嫡男の万福丸は処刑され、次男は匿われたがその後出家した、と聞いたことがいる
ぞくっ、と背筋に冷たいものが走る
妊娠していたら、私は殺される?
遺恨を絶つ為に、殺される?
そんな考えがグルグル巡る
みるみるうちに顔色が悪くなる凪を見て、成実はヤバいと思った
また、変な方向に考えを走らせて居ると
壁から離れ、成実は凪を抱き締めた
「匡二、ごめん。少しで良いから、出てくれないか」
「 」
凪の様子に匡二も気がついていた
ここは成実に任せようと思い、凪をちらりと見ると部屋から下がった
「――――――」
「どした?」
優しい声で、聴く
何を考えている?
言わなきゃ分からない
「私、殺されるんですか…!?」
思ってもみなかった内容に、成実は目が点になる
真剣なんだろうが、潤んだ瞳にぷるぷると震える様が、なんというか色んな意味でツボに入った
「ぷ、」
「ぷ?」
「あっはっはっはっはっはっ!!!ひー!!!!腹イテェ――――!!」
今度は凪がきょとんとする番だった
何故、殺されるんですか?と聴いて笑いが返ってくるのだろうか
ひー、ひー、と笑いを何とかおさめた成実は、凪の頭を撫でた
「そんな事するわけねーじゃん」
「で、でも!!私敗軍の軍師の奥さんですよ!?」
あー、成程。凪が何考えているのか、成実には漸く分かった
「だから、しねぇって。信玄公も、梵も、長曽我部も、そんな事するつもりは毛頭ねぇよ。豊臣の頭は、もう居ない。豊臣の兵力を、竹中の力だけで押さえるのは無理だから、敵討ちとかも無い筈。生き残った武将は、新しい仕官先を探すか…最悪後追い自害かな。竹中は、その才を二度と発揮させないように、生涯奥州の山に幽閉だそうだ」
「幽閉…?」
「そ。伊達が、竹中を見張る。んでお前は、俺の嫁になる。言ったろ?離さないって」
それでも、不安は残る
今の今まで忘れて居たけれど、私は
「私、半兵衛さんと…」
「ん?夜の営み?まぁ、して無い訳無いよな。だから今こう言う話が出たんだし…」
でも、と成実は言った
「気にしないよ。そりゃ、初めては俺が良かったなー、とか思うけどよ…。でもお前はお前だろ?嫉妬はするけど、それでも…凪が凪のままであるなら、俺は気にしない。身籠もっててもだ!それぐらい、好きだし愛しちゃってんの。俺は」
ニッ、と笑う
成実さんは、変わった
いや元々器は大きかった、それに気づいてなかっただけだ
自分がこうなって、それに改めて気がついただけだ
「調べてもらいたい理由、真実を話せばそれが事実かどうかで…、俺達の身の振り方が変わる」
「え?」
成実は凪の頭に置いた手を頬に移動させ、柔らかい手つきで撫でた
武士として生きてきた手は、以前より少し硬くなったと思う
「竹中の幽閉は確実なんだが、お前が身籠もって居れば俺達は良くても他の奴等は黙って無いだろう。幽閉だって、あちこちで不満に思ってる奴等がいる。生温い!ってな。勿論、奥州にもちらほらそんな事言ってる奴等もいる。そこで、竹中の嫁で、身籠もったお前を俺の嫁に…なんて言ったら、国内がどうなるか分からないし、竹中自身どうなるか分からない。最悪、暗殺され兼ねない」
(駄目、この先は)
どくん、とまた音がした
「―――身籠もっていたら、お前の命が危ないかもしれないんだ。でも大丈夫。もし身籠もっていたら、俺はお前を守る為に」
(駄目、それは)
「国を出る」
国と女
私は、彼に選んでもらえる程のモノでは無いのに、彼は《運命の人だからさ!》と言って、迷いの欠片を見せずに言った
成実の指に光るリングが、彼を縛っている様で申し訳無い。彼は、奥州に必要な人なのに、私が妊娠していたら国を出ると言ってしまった
それは決意したと言う事
彼の意思を覆す事は出来ない
でも
「だ、めです。成実さんは、奥州にいなきゃ…!もし身籠もってて、命を狙われるなら、私それでもいいですから…!!むしろほとぼり冷めるまで、一人で…!」
その先は言えなかった
背中に衝撃が走ったと思ったら、何故か天井が見えて、首筋には成実が顔を埋めて居た
手は押さえ付けられていて、抵抗したとしても男の成実に適うはずが無い
「もう、離れたくないんだよ…!」
痛い、想い
――離れたくない――、その言葉の深みを知って居るから、とても痛かった
離れた時の痛みを知り得ているからこそ、痛かった
「お前は、俺が必要としてるから俺の前に現れたんだろ…?なら、いなくなるな、離れるな。武士として生きていく、それは何処に居ても出来るけど、お前と生きて行くって事はお前とじゃなきゃ出来ない。だから、勝手な事を思うなよ?二度と、二度と――――――」
緩められた手の拘束
自由になった手で、成実の背中に腕を回し、ぎゅうっと背中の布を掴んだ
ごめんなさい、ごめんなさい…!
ひたすら謝る
そう、私はこの人を選んだじゃないか
何度も、選んだじゃないか
それなのに、離れようとした
ただ、ごめんなさいとしか言えない自分が小さく思えた
す、と襖を開ければ匡二が正座をして待っていてくれた
凪は、成実に手を繋がれて匡二の後をついて行った
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