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兄は、あれから色んな事を話してくれた
自分の気持ちから、何故匡二が姿を見せなくなったのか、とか色々
全てを語るにはきっと時間が足りないだろうけれど、兄が話すのを凪は聞いていたかった
暁の空になり、夜が明けるまで
真向かいながら話を「うん、うん」と頷きながら聴いて居る。聴いて、もう戻らない空白の時間を埋めようと思いながら。埋めたとしても、その先は無いけれど
「俺はあと少ししたら元の世界にかえることにした。お前はもう大丈夫だし、何より────父さんにお前のこと、俺の事、色々言わなくちゃいけないしな。······帰ったら二度と、俺はこの世界に渡れない」
「······」
「命を対価に世界を行ったり来たりした代償だ。もう渡れるだけのストックはない。この髪の毛がその証だ。白髪になっちまって···はぁ」
「匡二は大丈夫なの···?」
「あいつはそもそも命を対価にして渡っていない。大金払って飛んだだけだ、それに片道切符だったしな。この世界にそれが出来るやつはもう彬しかいない。でも彬はもうそんな事しない。凪、匡二は、いや匡二もお前と一緒で帰れない。アイツ、めんどくさいやつだけどさ、まぁお前の為なら何でもすると思うからそばにいさせてやってくれ」
太陽が少し顔を出し、兄の顔を照らす
もう少し踏み込んで聴こうとすると、それを遮るように「おーい」と下から声が聞こえた
成実と、この声は佐助だろうか。幾つか言葉を交わした後、こちらに向かって声をかけられた
「死神サン。竹中が目を覚ました」
それを聴いた北斗は、話すのを止めて深呼吸をすると立ち上がった
「またな」
「わ、私も行きたい…」
半兵衛がどうしてここに居るのか、夢で知っている
言いたい事、言わなくてはいけない事を言うなら早めに言った方がいいだろう
しかし北斗は首を横に振った
「身体が冷たい。風呂を用意してもらうから…もう寝ろ。話なら俺がつけてくる」
そもそも、お前とアイツの結婚を勧めたのは俺なんだから
そう言うと頭を撫でて北斗は下へ降りた
予想通り、そこには伊達成実が居た。血が付いた戦衣裳のまま、背を壁に預け、胡座を書いて刀を左に置いて何かあったら抜刀出来る様にしている
ちらりとこちらを見る若い青年は、真っ直ぐな瞳をしていた
「あいつを直ぐ風呂へ入れてやってくれ」
そう言って、中に入った
入ったと同時に、成実が声を掛けて来た
「あれが、お前の兄ちゃんか」
成実は明けた空を見ながら、呟いた
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お風呂を用意された凪
そんなに広くは無かったが充分だった。上がった頃には、身体がぽかぽかで先程の冷たさは何処へいったのだろうと思う程だった
成実と廊下をゆっくり歩いていたら、ほんの先の部屋から騒がしい声が聞こえた
「だ、旦那ぁっ!」
「身体の方は大丈夫だ!寝てばかりいては鈍ってしまう!!」
「いや、旦那!!病み上がりだからね!?治して貰ったとはいえ、病み上がりだから!!」
「邪魔立てするな佐助ぇッ!」
…どうやら、死神部隊の人間にやられて倒れていた幸村が目を覚ましたらしい
どうやら話を聴くと、目覚めて直ぐに激しく動き出し、佐助はそれを止めようとした、と言うのが騒ぎの内容らしい
「相変わらず、なんですね」
「あいつが、変わる事はねぇだろ」
変わったらそれこそ事件だ。と言うのはきっと言い過ぎだが、幸村はこう言う人なのだろう。変わる事無い、良く言えば純粋な人
「治っておるなら鍛錬せねばならぬだろう!!」
ガラッ、ではない
スパンッ、でもない
表現するならスパンッ!の更に上な勢いで襖を開けた幸村
いきなり開いたものだから、びっくりして足が止まってしまった
続けて部屋から出て来たのは、頭の鉢鐘の様なモノを外し、それ以外はいつもと同じ忍衣装の左助
左助はこちらに直ぐ気がついた
「あ!凪ちゃん!旦那ぁ!うちの旦那を止めてくれないか~~~!?」
「むっ!?凪殿ではござらぬか!無事でよかった!!!某大層心配していたでござるよ!本当に、よかった···!!さて!!凪殿の確認も取れた事だし鍛錬!鍛錬だ!!佐助ェ!!」
幸村は既にやる気満々だった
成実はそれをじぃっと見て、首を横に振った。無理だ。手負いの状態の自分が、通常の状態の幸村を止めるのは非常に難しい
「諦めろ」
「ひどっ!」
「私も止め方分からないので…ごめんなさい」
がっくりとうなだれて居るうちに、幸村は前へと進んでいた
「待ってってば!旦那!!」
幸村を追って左助は消える
残ったのは二人だけ
「相変わらず嵐のようと言うか···、暑苦しいと言うか」
「それが幸村さんですよ」
「まぁな」
「ふふっ、変わらないですね」
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「はんべー」
彼は窓辺に寄り掛かり空を見上げていた
「僕は…」
「はんべー」
呼び掛けが聞こえていないのだろうか
虚ろな瞳の友達に北斗は語りかける
「はんべー、」
「………」
壊れた
それが一番彼の状態にあう言葉だろう
「はんべー…」
こちらを向かない半兵衛
「もう、秀吉はいないんだ」
「………」
「話を聴いてくれ…」
半兵衛の腕を掴んでいた北斗。半兵衛はゆっくりこちらを向いた
「…このまま死んでしまいたいよ」
そう言った彼の顔は、きっと最期の日まで忘れる事は出来ないだろうと思う
手を伸ばしても、届かないモノ