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よし、これで大体の事は終わったな。と彬はつぶやく
「もうこれで凪はこの世界から消えることは無い。彬、俺たちの役目も終わりだ」
「分かってる。伊達、成実」
彬は、凪のそばに居た成実に今度は視線を向けた
「彼女は、この世界の誰かが必要としているから、お前達の前にやってきた。ほんの僅かな人間だけだが…それでもこの世界この時代に生きる、誰かに必要だったからだ。間違なくお前はそのうちの“誰か”だ。落ちる場所は定まって無かったし、もしかしたら彼女が竹中半兵衛の前におりていたら、彼女の正しく運命の人は彼だっただろう。だけど彼女は、お前の前に立った。世界は、お前に彼女を与えた。まぁ、そのなんだ、···すまん、人妻になってしまったが。···生まれ落ちた世界を捨てると言うのは、お前や彼女が思ってる程のものでは無い。だが“居る”事を望んだのであれば、それを乗り越えろ。その腕で、この殺伐とした時代を生き抜け」
彬は懐に手を入れて、あるものを凪の手に置いた
手の中にあるのは、白銀の輝きを放つ指輪。デザインも何も無いシンプルな指輪だった。所謂マリッジリングと言う物だ
「それは呪物。共に生きると誓った相手にはめて使うもんだ。因みに効果は“連れ添った相手を失うまで抜けない”って言うだけの、ちゃちな呪い。帰る事は出来ないが、万が一と言う事もある。君をこの世界に縛り付ける一つの呪いと思ってもらえれば良い」
こくん、と頷いた
この人は、不思議な人だと思う
この人は本当は優しい人なんだと。だけど、統率者なんて立場だからそれを隠して、常にそうでならねばいけないと、冷たさを孕む様になったのだろう
「北斗、時間はさっき教えた通りだ。それまでにケリをつけておけ」
「あぁ…」
そう言うと自分たちの話は済んだからと、彬と一夜は部屋から出て行った
マリッジリングを手のひらでぎゅうっと握り、素っ気無い返事を返した兄を凪は見た
気が抜けた兄はただ凪の掌にある指輪を見ていた
手のひらの指輪は静かに輝いていて、じぃっとそれに魅入ってしまう
サイズぴったりそうだな、とか
さり気なくこれプラチナだよね、とか
リングの内側に彫られている文字は間違なく《Pt850》と書いてある。この時代にこんな文字がある筈も無いので、当然コレは自分が元々居た世界の物なのだろうと予想が出来た
いきなり、二つのリングのうち一つが視界から奪われた
成実だ。成実は大きいサイズの方のリングを取り、何処につけんだ?とリングと睨めっこしている
「夫婦なら左薬指にはめる」
匡二はそう教えてあげた
なるほど、と頷き成実は静かに自分の左薬指にリングを填めた
それをじぃっと見ていると成実は不満そうな顔をした
「何、俺が填めちゃ駄目だったのか?」
「あ、や、そんな事、無い、ですけど…」
成実のリングはサイズがぴったりだった
自分のも填めればぴったりだろう
でも、
「俺はお前の運命の人なんだろ?」
填めてやろうか?と付け足されたが、凪は首を横に振った
その様に周り―――、政宗や慶次が目を見開いて驚いた
「私、まだこれをつける事は出来ません。まだ離婚してませんから、これをつける事は赦されないんです」
重婚は出来ない
成実と生きるなら、半兵衛に別れを告げなくてはいけない
そしてしがらみを無くした状態で、コレは填めないと意味が無い
「Ahー、竹中か」
こくんと頷いた
それを見た北斗は、静かに立ち上がると無言のまま部屋を出て行く
何人かが彼の背中を見た。すぅ、と透ける身体。透けた身体が何を意味しているのか、凪は知っていた
「…あと、どれくらい?」
「凪?」
兄さん
呟きに慶次は反応した
俯いて、掛け布団を握り悲しそうにしている凪
勿論そんな様子に全員が気付かない筈も無く、匡二が一番最初に口を開いた
「あとどれ位、とは」
「しらばっくれなくて良いよ。知ってるし、知らなくてもさっきの話を聴いてれば、兄さんの命は残り短いって、嫌でもわかる」
「知ってる、って確かその話は――――」
「夢で、見たから。倒れた後、多分私は死の淵に居たんだと思う。真っ暗な中、四月さんに会った。色々な事を見せてくれて、導かれて白い何も無い空間に出た。そこで、成実さんが戦ってるのを見て、立ち上がって欲しくて言葉を掛けて…。その後かな、匡にぃと兄さんと彼らの会話を見たのは」
存在を喰う力
それと引き換えに得た世界を渡る力
使う度、寿命を縮めるだろう力
「だから私、知ってるの。どれ位なの?」
その質問に答えられる人間はこの場に居ない
答えられるとしたら、先程の二人と質問の本題になっている三人だけだ
凪の事だから、また自分のせいで…とか考えているのか?と左助は思ったが、そんな凪を見て成実は行動を起こした
「じゃ、聴きに行きゃいいじゃねぇか」
ひょい、と成実は凪を抱き上げた
膝と背中に手を回した格好はお姫様抱っこの形だ
「行くぞ」
「え、うぁ、はい…?」
「ちょっと!凪、安静にしてなきゃ駄目なんじゃないか!?」
成実はくるりと振り返ると慶次に向けてこう言った
「一夜って野郎は、大丈夫っていってた」
「それでも、万が一があるだろう?もう夜だし、明日でもいいんじゃないかい?」
取り敢えず今日は寝てさ、慶次は成実の腕の中に居る凪を布団に戻そうとしたが、成実が譲る筈等無い
引こうとしない慶次に成実は痺れを切らした
そんなやり取りを見ていて、凪は懐かしいなぁとクスクス笑う
「「……………」」
クスクス笑う凪に皆きょとんとした
何故この場面で、と全員が思う
「あ、ごめんなさい。何だか懐かしくて」
こんな、やり取り暫く周りにはなかった
だから懐かしくて、笑ってしまった
変わってなくて、安心して笑ってしまった
「慶次さん、大丈夫です。―――時間がないなら今、聴きにいきたいんです」
凪の揺るがない瞳を見て慶次は溜め息をついた
「多分北斗なら大阪城が見える屋根上とか部屋に居ると思う。さっき此所に来る前、じぃっと大阪城がある方向を見て居たから」
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未だ燃える大阪城
漆黒の夜空の一部を明るく染める。煙をあげながら、焔は燃え止むと言う事を知らずに燃え続ける
「頼、颯」
残した数人のうち、先んじて死んでしまった二人
そういえば先に別れた師団の連中は、無事に一般へ紛れ込めただろうか
生きているのであれば、それ以上の事は無い
「秀吉、悪いな」
瓢箪の中に入れた酒を盃に注いだ
日本酒、彼の口には合わないけれど弔いの酒だから…、秀吉が喜びそうなモノを選んだ
「本当は大阪城で飲みたいけど俺、そこまで行く気力体力が無いんだ」
くぃと飲み干す
喉が焼けるような感じに咳き込もうとする
「今の今まで、俺の目的を補助してくれてありがとう。まぁお前は俺達を利用したかったからだろうけど、それでも物凄く助かった」
秀吉が居なければ、あそこまで大きな集団にはならなかったかもしれない
「俺、拾われたのがお前達で良かったと思う」
そう言う彼は
過去を思い、儚く笑った
「世界は違っても、あの世ってのは同じ場所にあるのかな」
そしたら遠くない未来、お前に会えるな
あと、二人にも会えるだろうか
もし出来るなら、再会する場所は一つしかない
「地獄でまたあおう」
それが今自分が言える精一杯の餞(ハナムケ)の言葉だった
「兄さん…」
小さな声
あぁ、来た
振り向かず、北斗は空を見上げた
屋根上に座る男と、今し方上って来た凪
それから気配からして伊達成実だろう
梯子にいるらしい
「話があります」
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