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あのね、ただ願ったのは“幸せ”だったんだよ
「………グッ!」
雄叫びと共に力をふり絞り、一振りの攻撃を成実は仕掛けた
不思議と今隣りに凪が居る様な気がした
凪は今倒れてここに居る筈が無いのに…
槍の先端は秀吉の心臓の下に深く刺さり、つぅ…と血が伝りたまとなり滴として床に落ちる
矛先を静かに抜くと、秀吉の巨体は静かにスローモーションがかかったかの様に前に倒れた
「はぁ、はぁ、はぁ…っ」
成実はふらりとしたまま、槍を支えにして慶次の所まで行った
まだ、凪が隣りにいる気がする
ず、ず、と重たい四肢を引きずってきた為、成実の歩いてきた道には赤い線が伸びていた
「は、っ…」
手を差し延べると慶次はソレに答えた
血まみれの手はぬるりとしていたが、そんな事気にして居ない
「ぉおおお…!!」
倒れながらも立ち上がろうとする秀吉
しかし、貫いた場所が秀吉にとっては悪かったらしい。ごぽ、と吐血した
びちゃ、と床に落ちる鮮血は自分達と同じものなのに、違うものに見える
「秀、吉」
既に秀吉と袂を違いあった慶次。しかし、その瞳には悲しみが揺らいでいた。もう、分かってしまったから
「秀吉、」
「ふ、はははははっ!!まさか、この様な形で倒れるとは思ってもみなかったぞ」
仰向けになり、秀吉は苦しそうにそう言った。話し合いで解決出来たならこんな事にはと思うがそんなのあとの祭りだろう
最初に交渉は決裂したのだから―――――
「秀吉、」
「好きに、するがいい…。どのみちこの傷では助からん。お前達の望み通りに、すればいい」
「――――――」
「あ「そうさせてもらうさ。その為に戦ったんだからな」
成実は冷えた瞳で秀吉にそう言った
(助ける為、でもこんなの有りかよ―――――――)
■■■■■■■
「…これで終わりだ」
カチャン、と術具を置いて彼らは凪が負った怪我の処置を終えた
ふぅ、と溜め息が零れる。ふと北斗を見ると、匡二はびっくりした
「何なんだ、それ…」
指差した先は、北斗の腕だった。薄く透けている…
北斗は大した問題じゃないと言わん許りの表情で気にするなと言った
見間違えた訳じゃない。確かに透けていて、見える様にしてもらった今、自分の瞳に映るのは…
「―――こいつは代償だよ」
まぁいいか、と北斗は苦笑した
久し振りにそんな表情を見たけれど、昔と違い痛々しい苦笑いだ
「世界を渡る力を得た為の代償さ。存在を喰らう力を俺は持ってる。力を沢山使った…もう俺は長くない」
「―――――!!対価に自分を、差し出したのかっ!?」
「人生を賭ける程にと言ったからな。別に後悔は無い。こいつが笑って生きてくれるなら」
「君は―――」
「医者のくせに、命を大切にしないのか?だろ?知ってるくせに…。俺は何よりも凪が大事だって」
北斗は目を伏せた
腕だけじゃない。身体全てが半透明になっている
今更彼を責めるつもりは無い
先程の行動で、芯は変わって無いと思ったから
それに、彼の事だから
きっと、きっと考えてソレを望んだのだ
「覚えてるか?こいつが産まれた日。産まれた時外は大雨で、窓に叩き付ける雨音がする中、産声を聴いて、その後新生児室に居た凪を見た時、俺がこの子をずーっと守るんだ。何があっても、守るんだ!ってお前に言ったの」
「覚えてる。本当に嬉しかったのが伝ったからな」
彼のほほ笑みは何処か哀しみを孕んでいた
「俺が、殲滅を急いだのは…、無理矢理半兵衛と結婚させたのは…、長くないから。俺が居なくなったら、誰がアイツを守れる?誰がアイツを生かす?誰がアイツを見守れる?もうすぐ消えてしまう俺は、安心したかったんだ…。俺が心から信じるに足りた野郎と結婚してもらえば、凪は幸せだろう、って」
でも、それは
北斗が思った事は
「俺、その考えは間違いだと思う。お前の願いはお前のエゴだろ?…凪は自分でそれを見つけた。自分を守ってくれて愛してくれて、でも互いを想い合える男を。あの世界じゃ、絶対巡り会えない男を。もう、子供じゃないんだ。自分の事は自分で決められる――――お前がしたことは、あの子の母親と変わらない」
凪が巡り合えた男、伊達成実
彼に出会い、凪は“幸せ”を手に入れたと思う
凪は、成実の隣りに居るのが一番似合うとも思う
「こいつは、あの世界には帰さない」
「それは帰ったら、死が待っているから?」
「それが一番の理由だ。でも――――」
ただ、俺が願った事の本質は。
「俺が決めた相手じゃなく、凪が選んだ相手と――――心の底から笑って、哀しみも共に出来る奴と幸せになってもらいたいから―――――」
ごめんな、俺が間違ってた
と北斗は凪の前髪を左右に分けて額に唇を落とした
自分のエゴ
自分の願いばかりおしつけてばかりで、凪の気持ちなんてどうでも良かった
だって、経過はどうであれ最期に“幸せだ”と想えたならそれはそれで良いものだと思っていたから
でも、間違っていたんだな
お前は、俺らの手なんか要らなかった
自分で、自分を変えた人間を選ぼうとした
お前は、もう“子供”じゃない
なぁ、凪
お前はこの世界が好きか?
お前はこの世界で、親や学校を世間を捨てて、此所で…伊達成実の隣りで暮らしたいか?
それなら俺は出来る事をしなければ
お前が此所にいられるように
「秋―――、居るんだろう」
北斗は静かな室内でそう言った
今まで俯いていた半兵衛は顔をあげ、秋という単語に反応した
「居るんだろう、秋」
す、と襖が開いて現れたのは少女だった
「師団長…」
「お前は武将の足止めに行かせたはずだ」
「途中まで行ったよ…。でも師団長が心配で………!!」
パァンッ!!!!
銃声が上がった
「秋、いや――――魔法使い!とうに見抜いてんだ。その姿で要る必要は無い」
弾は秋の頬を霞めた
頬を伝う血を指先で絡めとると口端を歪ませ秋は笑った
「ふ、くっ、ははははははははははは!!!」
ぐにゃりと姿が歪むと、背が高くすらりとした青年がそこに立っていた
髪をかきあげて、彼は妖艶に微笑む
「気付いて、いたのか」
「まぁな」
「北斗、彼は―――?」
「あっちの世界の魔法使い、俺の、契約相手だ」
彼の纏う空気が空間を支配する
畏怖という名がきっとぴったりだろう
「―――――魔法使い、契約だ」
お前なら出来るんじゃないか?
…凪をこの世界にとどまらせる事が…
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