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戦いは続いていたが、明らかに半兵衛の方が疲弊していた
元々体力が無い半兵衛だからだろう
長引けば彼が不利になるのは当然だった
二人の気迫に口を出せなかった凪だが、
「や、止めて下さいっ!」
「っ、凪…!?」
凪は、僅かに開いた二人の合間に割りいった
「もう、良いじゃないですか…。勝敗は既に分かります!!なんで、戦うんですか…!?」
成実の氷の刃には、半兵衛を斬りつけて流れた血がつき、下へと滴り落ちている
「譲れないから、かな」
半兵衛は傷つきながらも凜としていた
半兵衛に近寄ると、彼は凪の手を自分に寄せて微笑んだ
「君が例え僕を好いて居なくても、僕は君を好いているし、何より弱い君を…手放すなんて、今更出来るはずが無い。それに言っただろう?跡継ぎ、産んでもらわなきゃって。僕の跡継ぎは、君に産んでもらいたい。それを成す為には、彼に君を諦めてもらわなくてはならないんだ。それに
──────時間が無いから僕には」
「え――――?」
ニコリと笑う半兵衛のその一言
時間が無い、って…?
ガタン、
物音がして、振り返れば顔色の悪い兄がいた
柱に手をかけて、苦しそうに顔を歪めながら、こちらへゆっくりやってくる
北斗を視界に捉えて、瞬時に成実は氷の刀を構える
「はんべー、今の、は」
「北斗…」
「今の時間が無いってなんだ!!!???」
「―――――」
思わぬ乱入者
兄は今まで何処に居たのか。戦いに参加して居たのかと色々な考えが巡るが、兄の気迫はそれを消し飛ばした
「結核は、治したはずだぞ!?」
「結核!?」
結核と言えば、昔だと不治の病に近い病気
それに半兵衛は掛かっていた…?
「労咳は、君のお陰で治ったよ。君の世界の医療によってね。でも、それとはまた別なのに今僕は掛かっているらしい。分かるんだ。労咳に掛り死期を一度予期して居るから」
「な…」
「君も、だろう?」
「え、」
半兵衛は関節剣を終いこみ、北斗へ近付いた
「君も長くないはずだ。最近姿を見せないのは、時期が近いからだろう?この戦、君なら裏方で先陣を君の部下達と共に戦うと思った。だけど君はそんな顔をして此所に居る。そして北斗、君からも僕と同じ匂いがする」
苦笑する北斗
兄が長くない、それにも驚きが隠せない
半兵衛が長くないのも、兄が長くないのも、知らない
「そう言う意味で時間が無いんだよ。僕らには」
「くそ、最近急いて居たのはそれかよ…」
「君の軍が解散しなければ、礎は要らなかったんだけどね」
「あ、」
凪は、北斗の軍の解散と言う言葉にびくりとした
―――解散したのは、私が、それを条件に上げたから―――
「時間が無い、だから、僕は僕なりに豊臣に、彼女に出来る事をする。その為には、まず彼女を奪おうとする輩を消し、後に伊達・武田・真田・長曽我部勢力の一掃をはかる。残った死神部隊は既に、各大将の所へ行って居るんだろう、北斗」
「あぁ。それが凪を守るに良い策だと思ったからな―――」
北斗は顔色が良くないままだ
聞きたい事は山程あるけれど、気になる事がたくさん有りすぎて―――――
「頼と颯以外は、戦う奴は好きに自分達で決めろと言ってあるから、誰が誰と戦っているかは分からないがな」
ゴソゴソと北斗は懐を漁った
そして取り出したのは、黒光りする銃だった
「北斗?」
「いつだ、いつからだ!?長くないと分かったのはいつだ!!」
銃を向けるのはこちら側か、と思いきやそれを裏切り彼は半兵衛に銃を向けた
彼からは怒りと困惑しか感じられない
「少なくとも、結婚する前には」
「――――――ッ!!」
「半兵衛ぇ…っ!!」
「ごめん」
それは誰に対しての謝罪なのか
半兵衛は瞳を伏せたあと成実の方を向いて、成実を見つめた
「残りの命の灯火、家のため、子を成したい。勿論、秀吉の夢モ叶えたい。それが今僕が戦場に立つ力を与えている」
ジャッ
はっ、と北斗は銃を引っ込めようとするが、逸早く半兵衛の関節剣が銃を絡めとり、銃を奪った
「くっ!」
「手は出さないでくれ」
この戦いに勝たなければ、きっと後の夢は消え去る
儚い未来、砂の城の様に脆い未来
「長くないならいっそ若い奴等に任せて、引退しときゃ良いんじゃねーの」
「そうはいかないんだよ」
苦笑する半兵衛
半兵衛の体力は、今現在そんなに無い
元々体力が無いのと、病と、戦いで消費されていた
「―――君は」
何か言いかける
しかし、それは喉元まで来ているのに出ない
「………北斗、彼女に今触れたら攻撃するよ。動かないでくれないか」
北斗が銃を失い、凪に近付いていたのを視界に捉えたので、牽制をしておいた
それが終わると殺気を出して、刀を構える
「…華やかなようにっ!!」
短い、戦いがまた始まった
――――――――――
「半兵衛さんが、長くない」
それは衝撃で
彼の優しさや強さに少なくとも気を許していたせいか、この隠し事はショックだった
それと同時にこんな思いが巡る
「……」
兄は兄で、半兵衛の告白に呆然としている
ちらりと戦いに視線を戻す
―――私じゃなくても良いじゃないですか
―――私に執着する理由は無いじゃないですか
―――同情、ですか。なんで、わたしなんですか
―――信じられない―――
気がつけば、劣勢だった状況から巻き返した半兵衛に成実は押されていた
「っ、成実さん…!!」
半兵衛の急所狙いの攻撃を受けそうになっている成実の名を凪は叫んだ
そして身体も、彼の前へ
朱が、散る
「っ、凪―――――――!!」
紅い、赤い、緋い、血
刀が、凪の脇腹に刺さった
貫通したソレは、冷たくて、目の前には驚いたような顔の半兵衛がいた
ずるり、と力無く刀を抜くと、凪はその場に倒れた
「凪、凪っ!!凪っ!!!」
成実は氷の刀を置いて、凪を抱き起こした
ぬるりとする、脇腹
「――――――凪?」
北斗はゆっくり倒れて行く妹をみた
そして、畳みに沈んだ凪
「は、半兵衛ぇええええええええええええええええええっ!!!」
北斗は、もう一丁懐から出して半兵衛に銃を向けた
しかし、半兵衛の表情を見て引き金を引くに引けなくなる
「何、故」
ガラン、と関節剣を床に落とし、凪のそばに寄った
────何故、といわれても
────体が動いたから
成実さんが危ないと思ったら、体が自然と動いていた
「半兵衛さ、」
痛みより先に沸いてくるこの気持ちは、何なのだろうか
「わたし、間違ったと思ってます…」
慶次に言われた一言が、今とても頭の中をめぐる
「あなたと、結婚したこと、間違ったと思います」
その一言に、半兵衛は目を大きく開く
「優しさを、あなたは私に与えてくれた」
気にかけていてくれたのは分かってた
どこか気を使ってくれて、優しい言葉をかけ、贈り物をしてくれて、戦前は大阪の城下を見ようと連れ出してくれた
「でも、今の、言葉を聴いたら、それが偽りだと思えてしまった。私は、あなたになくてはいけない人ではない」
誰かの絶対的存在になれるのは、伴侶だと思う
でも、自分が結婚した半兵衛は残り短い人生を友人の為、自分の血を繋ぐために使うという
それは自分でなくてはいけない、という絶対的理由ではない
「わたしは、そんなのいや」
「そんな訳無いじゃないか」
力なく、彼は座った
腹に当てていた手を、半兵衛は握り締めてきて、成実はキッと睨んだけれど、そんなのお構いなしに凪の顔をみて、切ない表情をした
「僕にはなくてはいけない人なんだよ、君は」
「違う、いらない」
目を閉じると、浮かぶ人影
「だって、そう聞こえた。わたし、そう捉えたの。だから、間違ったと思った」
「君を愛しているのに?こんなに、愛しているのに?」
「きっと、偽り。半兵衛さんは人をだませれる人、だもの・・・」
「…」
「ね…?」
すぅ、と意識が急速に沈んでいく
「凪?」
成実が、力を失っていく凪に呼びかけた
「…」
無言の腕の中の、少女
「っ!!!」
どろりとしたものは、血
「凪ーーーーーーーーーーー!!!」
彼の、言葉も
届かない深みへ
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