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行きましょう
それで、わたしは
橋が遠くに見えた
大阪城の中に入る為の橋だ
弓兵や足軽を切り倒しながら、三人は進んでいた
先行しているのは佐助だ。忍らしく苦無等を駆使して、同じ忍を倒している
慶次と成実は、近くも無く遠くも無い距離で戦っている
刃の擦れ合う音
断末魔の叫び
血の匂い
毎度毎度思うがけして気持ちが良いものではない
「二人共っ!橋まであと少しだ!」
「分かってるっつーの!!」
ギィンッ!
成実は敵の攻撃を弾く
新しい武器はとても気を伝わらせやすい
と、言っても前の武器とはまだ比べられる段階では無いが
気を行き渡らせ、成実は目を瞑り、槍をドンッと地面に垂直に立てた
そしてそれを隙だと思った豊臣兵は、四方八方から成実へと襲いかかる!!!
ひゅぉ…………っ
成実が静かに息を吸い、ゆっくり目を開けた
その瞬間!!
パキパキパキパキパキパキ……ッ
成実のほんの僅かな周りを残して、敵の足元が凍った。それは蓮の花のように形作り、殺す事無く成実は足止めをした
「よし!抜けた!!あと少しだ!!」
敵の多い場所を切り抜け、目の前に橋が見えた。アーチ状につくられていた橋の真中は盛り上がっていて、そこに誰かが立っていた
三人はそれに気がつく
その人物が近付くにつれて、段々走るスピードが落ちる
橋には、目的の人物が居た
「凪ちゃん…」
彼女は、ゆっくりこちらを向いた
彼女の後ろには、二人の男がいる
「凪!!」
凪まで、あと数メートルと言う場所で、成実の足元に弾丸が打ち込まれた
銃で打ち込んだのは、あの燃え盛る砦で成実の腹を刃で貫いたあの男
成実は前に進む事を止めた
「凪…」
「どうして来ちゃうんですか…!!」
「どうしてって…」
「わたしは、来ないでって言ったのに…。目の前で傷つく人を見たくないのに…。今からならまだ間に合います!!退いて下さい…っ」
うつむく凪
そんな凪に、佐助は考えを巡らせた
(やっぱり…)
佐助の考えていたことが確信に変わる
凪は、竹中半兵衛と婚姻する事で、何かを約束した
それは多分、手を出さない事…みたいな内容だろう
それなら合点がいく
・・・・・・
彼女の全てに
彼女という人物を詳しく知り得ている訳じゃない
だけど何となく分かる彼女の本質
凪は、自分達の為に結婚をした
凪は、それをきっと条件に手を出すなと言った
(その性格故、か。強い意思が居る決断だっただろうに…)
好きな人がいるのに、それを守る為違う男と結婚をする
これ程やるせない事は無いだろう
しかし凪はそれを選んだ。好きな男では無く、それを守る為に違う男を選んだ
「凪ちゃん、俺達は弱くない。それなりに強い事位知ってるでしょ?」
「知ってますよ…。でも……!でも…それでも……!!もう目の前で誰かが傷つくのは嫌なんです…」
だから、涙目になりながら凪は訴えて来た
───どうして聞いてくれないの
─────どうして私の気持ちを無駄にしようとするの
──────なんで……、まだ愛してるなんて言ってくれたの?
自分が思い付く限りの嘘を並べた
なのに、嘘だと見抜かれた
どうして、どうして、どうして…?!
ぎりっと手で拳を作った
「誰も傷つかない為に、私は此所に居る事を選んだ!!皆が傷つかない様に、皆に手を出さないでと半兵衛さんにお願いしたのに!!それなのに、どうして、どうして、私の願い気持ちを無駄にするの!?私は、私の身一つで皆を守れるなら、それで良い!!皆が傷つかないなら、それで良いのに…!!退いて…!!退いて下さい…っ」
彼女の叫び
本音が、凪の口から零れる
やはり、そうなのかと佐助は納得した
「傷つかない、って言うけどさ」
それまで口を閉じて居た慶次は表現しがたい顔をしていた
「それは身体的に傷つく、って事だろ?でもそうして守られたって傷つくものは…あるんだよ」
『誰も傷つかない為に、私は此所に居る事を選んだ!!
皆が傷つかない様に、皆に手を出さないでと半兵衛さんにお願いしたのに!!』
先程の凪の言葉を頭の中で思い出し、慶次は吼える
「一人を犠牲にして、体は守られたって、心が傷つくんだよっ!!」
「────────こ、ころ?」
「それじゃあっ、おかしいだろっ!!誰も傷つかない様に、って言って言ってるけど、体が無事でも心が傷ついたら、意味がないだろうっ!誰も傷つかない様に、って言うなら心も傷つかない様にしなきゃ駄目だろ!?凪、俺…いや、少なくとも、伊達の皆や俺は、傷ついたよ…っ!それに凪だって傷ついたんじゃないのかい!?」
心の傷は
見えない傷
体の傷は
大小問わず見える傷
他人の目で分かる傷は、表面上の傷だけ
内面の傷は、それを負った人間にしか分かり得ない
その言葉に凪は、固まった
ワタシハ
ワタシガ
良イト、思ッテ
ダカラ、ダカラ
「っ、ぁあああああああ嗚呼あアアアアアぁあぁあああ嗚呼ああアアアアアァァァアァアアアアアアアアっ―――――――!!」
耳を塞いで、凪は前のめりになり、膝を突いて蹲る
近寄ろうとすれば、威嚇射撃が容赦無く襲う
目の前に居るのに。誰かが、手を差し出さねば壊れてしまいそうなのに、進み出せない
なら、道は
「風来坊、成実の旦那。アイツらを引きつけるから、凪ちゃんをその隙に」
左助は自分の武器、旋風を構えた
「ちょっと待った!佐助だけに良い格好させらんないって」
そう言うと慶次も武器を構えた
「二対二、か。じゃあ凪ちゃんの事は成実の旦那に任せた!風来坊、同時に斬りこむぜっ!!」
「応っ!!」
壱、弐、参っ!
三つ数えて二人は前へ飛び出した
それに敵の二人は焦る事無く、冷静に攻撃を始める
黒い銃
それを構えて、それぞれが慶次・佐助に狙いを定めて引き金を引いた
ガウンッ
ガウンッッ
鼓膜を劈く様な音を立てて発砲される弾
「凪―――――!!」
あと一歩
その時間がやけにゆっくりに思えた
一歩、あと、一歩
「触れるな」
ひゅっ、と目の前から凪が消えた
がくん、と凪を触る為に走っていた成実の体が崩れる
成実の背中に、頼が軽い蹴りを入れていた
頼の腕には、耳を塞いだままの凪が
成実は前のめりになった体を、左手で支え、そのまま体のばねを使って後方へと飛んだ
凪は、ゆっくり瞼をあけて頼を見た
「さわるな。この方は既に竹中半兵衛様の奥方。田舎武士が気安く触れる様な方では無い。…取り戻すつもりなら、俺達を倒す事だ。俺達は逃げも隠れもしない。まぁ、それが出来れば…の話ですが。
奥方。交渉は決裂、戦いは避けられません。そろそろ城内に戻りますよ」
そう言うと、頼は懐から丸い包みを出した
それを自分の足元に投げ付ける。投げ付けた瞬間、そこから白煙が出て来てあたりを包んだ
白煙の中、成実は凪の名を呼ぶ
「凪!凪っ!!」
「成実の旦那っ!」
佐助の服は銃撃により、衣服の一部が掠れ破れていた
「もう逃げられた」
「くそっ…!!」
唇を噛み締めていると、白煙が一気に飛んだ
慶次が消し飛ばしたのだ
「城へ行こう…!!」
「あぁ…」
見上げたのは大阪城
間近で見る大阪城は酷く大きくて、身震いが起きる
さぁ
行こう
自分の
信じるものを
貫くために
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