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「秀吉、北斗…」
一人の男の呟きは冬の終わりの空に、消えた
「Hey!How about the condition?」
(訳:調子はどうだ?)
本隊が合流し、大阪城が肉眼で見える所に彼らは陣を置いた
久し振りに逢った従兄弟は、髪をバッサリ切って、髪が長かった頃の幼さは少し消えていた。男らしくなっていた
新しい武器であろう、槍を右手に持ち成実はこちらを向いた
「梵」
その一言の後、柔らかく顔を緩めた成実は政宗の為に道を譲った
「気分転換でもしたのか?意外に似合ってんじゃねぇか」
「一部ハネてるけどね」
成実の前に立って、政宗は成実の髪を触る
「暫く伸ばせば、俺mastermind(影武者)が出来そうだな」
「今でも出来るって…」
政宗は鼻で笑うと、総大将が座る席に腰を下ろした
そして、数分もしないうちに甲斐の虎・武田信玄も政宗の隣りの席に座った
一つの机に、左右分かれて座る伊達武田の武将達
まず伊達の上座から政宗を筆頭に
片倉小十郎
伊達成実
鬼庭綱元
と言った顔ぶれだ
その中には原田や白石、留守等も居る
生憎後藤と何人かの武将は奥州を守る為此所には居ないが…
対して武田は、信玄を筆頭に
山本勘助
真田幸村
穴山信君
等々、名の知れた武将ばかりだった。百戦錬磨の武将達が揃うなど、きっとこれが最後だろう
「では、軍議を始めるっ!」
武田信玄の一言で、辺りは静まった
―――――――
「ふぅ」
軍議はあっという間に終わった
そもそも、軍議などしなくても良かったのでは?と、思ったが、それはそれで良くないのかもしれない
命を預ける相手を知っておくのも、大事だ。見慣れた顔ならまだしも、あまりよく知らない人間に命を預け戦うのだから、人となり等を知っておかなくては…
軍議が終わった後、それぞれの武将は、陣地が近いもの同士で気を高め有ったり等していて、成実はそれに乗る事が出来なかった
「俺、別行動だからなぁ…」
戦になったら成実は別行動を取ると言うのは、以前から決っていた事だ
そう考えた時、ふと自分と行動を共にする事になった二人を思い出した
「成実の旦那」
ひゅっ、と成実の後ろに現れたのは、迷彩の忍装束に身を包んだ、真田忍隊の長・猿飛佐助だった
「猿飛か」
「アンタに客が来てる」
「俺に?こっちに、知り合いとか居ないんだけど」
ハァ、と額に手をやり佐助はため息を吐いた
成実の耳に唇を近付けて、こそっと告げる
「アンタ、別行動の時誰と城に入るか忘れた?」
「―――――」
その一言で、佐助の言う《客》が誰か分かった
十中八九アイツだろう
「この本陣を抜けた先の細い道に待ってる、だとさ」
「分かった」
じゃあ、俺様伝えたからね
そう言って佐助は成実の前から消えた
成実は、空を仰ぎ見て、待ち人が居るだろう方向へと足を向けた
客が待ってるという細い道まで、十分も掛からなかった
今、その道に予想していた客とやらが、猿と遊んでいる
「あ、成実ー!」
ぶんぶんと片腕を激しく左右に振り、成実へ人懐っこい笑みを向けている
「前田慶次…」
「あ、髪切ったんだ。似合ってたのにどうしたんだい?」
「髪?あー、邪魔になったから」
と言うが、それは棒読みだった
きっと何か有ったのだろうと思う。そしてそれはきっと、他人に言う様な事じゃ無いと感じた
「で?どうしたんだ」
「酒、飲もうぜ!!」
「帰る」
「わ―――――!!待って!!」
成実はくるっと来た道の方へ振り向いた
慶次はそれを慌てて止める。身体を少し慶次に向けると、成実は嫌そうな顔をしていた
「どうせ浮いてたんだろ?いいじゃないか!な?」
確かにあの場で多少浮いて居たのは間違ない。はぁ、と溜め息を吐くと成実は肩に止まっていた慶次の手を退け、慶次と向き合った
「少しだけだぞ」
「分かってるって!!」
慶次は嬉しそうに前へ進んだ。成実は仕方なさそうに慶次のあとをついて行く
細い道を抜けると、小高い丘に行き着く
そこは、大阪城の全体が見える場所だった
大きい。それしかあの城に似合う言葉が見つからなかった
「座れよ」
成実が大阪城に見入っていた間に慶次は座っていた
懐から酒の入った瓢箪と盃を取り出して、成実に盃を渡し、ソレに酒を注いだ
そして自分の盃に酒を注ぐ
成実は酒に映る自分の顔を見て、それを飲み干し喉に熱さが走る
「良い酒だろ?」
「まぁな」
(注:以前も書きましたが現実で20歳未満の飲酒は違法です)
二人は無言で酒を二杯、三杯と飲む
しかし視線は、遥か先に向かっていた
暫し無言でいたが、慶次が話を切り出した
「あそこに、凪が居る」
「………」
「半兵衛と夫婦になったなら外に屋敷を構えたり、半兵衛の城に行くかと思ってたんだけど、そんな気配は無かった。だから、凪は確実にあの中に居る」
「…」
「でも気になる事があるんだ」
そう言って瓢箪を逆さにして盃に酒を注ごうとしたが、既に中身は空になっている様で、慶次は地面に瓢箪と盃を置いた
「気になる事?」
「うん。城から出てく奴等がいたりするのに、兵を集めようとする動きが無い。まぁ出て行ったのは女中が主なんだけど、それでも少なからず足軽とかも逃げ出してるんだよ」
「足軽が?」
「それらしい奴を捕まえて、聞いてみたんだ。戦前なのにどうしたんだい、って」
そうしたら、足軽はこう答えた
半兵衛様の奥方が女中や足軽に、好きにしろと言っているらしい
奥方の独断で言ってる訳じゃなく、半兵衛様の御意思だそうだ。死ぬ覚悟の者だけを残す為、篩にかけてるのかねぇ
成実は盃に入っていた酒を飲み干す
慶次の持っていた瓢箪の中身が、空っぽになっているのを横目で見て分かっていた成実は、盃を地面に置いた
「兵が多い事に越した事はない。でも、兵にそう言ってるって事は、まだ戦力が有るって事か、余程何かに自信が有るか、何も無いのか…」
「読めない、って事か」
「読めないと言うか、何があるか分からないって事」
「そりゃ大変だ」
と成実はいうが、大変そうには見えない
むしろ楽しそうだ
「大変って顔じゃ無いよ…」
くくっと喉を鳴らして笑う成実
風が吹いて、二人の間を駆け抜ける
「成実、」
慶次は成実の方を向いた
「凪を助けよう…!!」
「当然」
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