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一世一代の芝居
さぁ、顔を上げて
「成実の旦那っ!」
はっ、として先を良く見れば、松明の灯の近くに人が立って居るのが見えた
開けた草原に、立つ、女
その隣りに立つ、男
成実は馬の手綱を引き、馬に止まるように促す
それから、彼は馬の背から降りた
月が、草原を照らす
冬なのに珍しく夜空に雲は少なく、良く下界を照らして居る
「凪…」
どれほどの間合いが有るのだろう
一歩、一歩と歩を進めたけれど、近付いている気がしない
暫く見ないうちに女らしくなったな、とか色気が少し出ただとか、そんな気持ちが巡って…
「近寄らないで下さい」
その言葉に、成実は足を止めた
――――――――――――
広い草原に行き着くと、成実がこちらに馬を走らせているのが見えた
馬から降りて、私の名前を口にしながら、こちらに向かってくる
何か違うなと思ったら、あぁ、髪を。長く揺れていた、綺麗な髪を切って、短くしてしまったんだ。自分が知らない間に、何か、随分と大人びた感じがした
こんなに
こんなに
近くにいるのに
私は彼に手を伸ばす事が出来ない
何故ならば、私は今、他の人のものだから
「近寄らないで下さい」
これから
貴方を傷つける
それは私の咎
それは私の業
それは私の罪
それでも、たったこれだけの事をするだけで、大事なものを守れるならば、喜んで、背負おう
貴方に呆れられても、
貴方に怒られても、
貴方に悲しまれても、
貴方に、
貴方、に
貴、方、に
風が吹く
冷たく、肌に刺すような冷たい冷たい風が
これが冬の風と言うものなのだと実感する
「今直ぐ、己の領地へと帰って下さい。豊臣は、手を出されない限り北への進軍は致しません!理由無き進軍ならば、退いてください!!」
真っ直ぐな彼の目を逸らさず、凪は言った
──────どうか、このまま、ひいて
それだけを願った
なのに。
「嫌だ」
彼はそう言ったのだ
「な―――!!」
「保証が無い事に頷けるか。それに理由無き進軍じゃあ無い」
彼は一歩一歩こちらに歩を進める
半兵衛達豊臣の人間が凪のそばにいるのに、彼はそれに恐れる事なくこちらに向かって来て居る
「お前を」
「ひいて下さいっ」
どくん
「豊臣から」
「ひいてくださ…っ」
どくん…っ
「救い出す」
「退いてってばっ!!!!」
どくん…っ!!
成実は、凪の前に立った
そして、腕をとった
「退けない。俺、諦め悪いから」
そして、指先に口付けをした
どうして
どうして
どうして
成実さんは、聞いてくれないの
退いてって言っているのに
「人の奥に、手を出すなんて不埒者だね。君は」
はっ、とした
半兵衛は、凪の腰を引き寄せ、腕の中に収めた
(人の――――、)
そうだ、私を救い出すと言うなら、完全にその理由を無くしてしまえば良い!!
彼らが来ない様に
だって、
だって、私が結婚したのは
ヒュ…ッ
息を吸った
酷く、浅い、呼吸
「私は、」
「伊達成実、だったかな?生憎、彼女は救い出す出さないの存在では無いのだけれど」
「あ"ぁ"?」
半兵衛の言葉に成実は機嫌悪そうな声を出した
「さっきも言ったけど、彼女は僕の正室なんだ。僕のものを勝手に救い出すとか言わないで欲しいね」
「僕のもの、ねぇ」
今まで黙っていた左助が、口を出して来た
「何か密約でも交わしたんじゃないの?引っ掛かる要素が結構有るし。何かそれで得たって感じがするよ、俺様には」
「―――」
左助はそれとなく気がついている――??
私と兄
私と半兵衛さんが交わした約束で、こうなった事を
「そんな事、有る訳無いじゃないですか」
喉が一気に乾く
動悸が止まらない
胸が、苦しい
「私は、半兵衛さんを好きになったから、結婚したんですよ――――?」
見破らないで
私の嘘を
腰に回された半兵衛の腕を握る凪
「優しくて、」
成実さんも優しい
「強くて」
成実さんも強い
「大事にしてくれる」
貴方に好かれていたあの頃
それが今になってとても大事にされていたのだと気がついた
「兄に豊臣へ連れて来られて良かったと思う程」
ねぇ、私
本当、は
「私は半兵衛さんを愛しているんです。救い出すとか、訳の分からない事でこの人との間を引き裂かれたくない…!!」
成実さんの事
今でも好きなんです
「私は、幸せなんですっ…!!それを壊そうとする貴方方は、最低ですっ」
そう言ったあと、私はくるりと半兵衛さんの腕の中を回り、半兵衛さんにキスをした
震える私のキスをどう思ったのだろうか。彼は、私の腰に回していた腕を解き、後頭部へ手を回した
そして、深いキスを――――――
「っ…ふぅ…っ」
「凪ちゃん…っ」
一分程キスをした
短いけれど、ものすごく長く感じた
どうかこれを見て諦めて欲しい
彼が好きになってくれた私は、居ないのだと思って欲しい
その私は、凄くどうしようもなく、心の片隅で大声を出して泣いて居るけれど。みっともなく、大粒の涙を流して居るけれど
「はぁ…、はぁ、わた、しを、救い出すなんてしないで…。私は、助け出されたくも無いし、貴方のそばに帰るつもりも、取り戻されるつもりもない。進軍する理由が、私を救い出すというのならば、今となっては無いに等しいですよね…?何故ならば、私は望んでいないから」
目を擦って、振り向かず、彼と言葉を交わす
そう、だから、これが最後の別れ
「行きましょう半兵衛さん」
半兵衛達は、成実に背を向けて歩き出す
これで良かった
良い、筈なの
それが私の望んだ事だから
なのに…
ポロ、っと頬を伝うのは、何なのだろう
酷く冷たくて
悲しい、この伝うものは
「……」
成実に自分を諦めてもらう事
これが望みだった
豊臣に戦を持ち掛け無い事
これが望みだった
なのに
「また――――」
「だけど!!
俺はまだ!!
お前を愛してる!!」
伝うものが止まる
後ろにいる成実が、大声で、そう、叫ぶ
心からの、叫び
こんなに、こんなに、嬉しい言葉があるだろうか
愛している、も、好き、もこの人から貰う分がとても嬉しい、声に出して応えたい
でも
「私は、好きじゃ有りません」
「俺は好きだよ、それに、愛してる」
「っ!!だからっ!!!!!」
止めてって、言おうとした
顔を見られ無い様、背中だけで気持ちが伝わる様に思いっきり、言おうとした
「お前、嘘吐くの下手」
彼が、そう言わなければ
「もう一年だろ?それ位そばにいて、気がつかない訳無いだろ。騙された時も有ったけどよ、もう騙されねぇよ」
そう言った成実は、とても穏やかに顔をしていた
「お前は優しいから、どうせ俺達が傷つくのが嫌で、自分の身を差し出して助けようとか考えてるんだろ?違うか?」
「違い、ます」
駄目、これ以上聴いちゃ駄目だ
半兵衛の冷たい手を取って、馬が有る場所まで早足で去ろうとする
「違う、か。じゃあ、なんで」
泣いてるんだよ
「っ」
「此所まで来てもらって悪いけど、進軍は止めない。お前が嫌だって言ってもだ」
そして
「竹中半兵衛、お前の正室だろうが、奪い取ってみせる」
その時、まだ
俺の事を、少しでも思って居てくれたら
それだけで、十分だから
「…………」
頼が半兵衛に耳打ちした
左助をちらりと見ると、不敵な笑いをし、凪を姫抱きする
「此所は撤退しよう。あちら側から、馬の蹄の音が幾つか聞こえる。囲まれたら終わりだからね」
(ちっ、随分耳の良い奴がいるな…)
左助は頼を睨んだ
「伊達成実、折角彼女が身を呈した行動を無下にした罪は思いよ?」
半兵衛は背を向けたまま、成実に言った
「言ってろ。大阪城だ。そこで絶対てめぇの首打ち取ってやる」
「クスクス、怖い怖い。出来るものならば、やってみると良い」
「ああ」
馬まで行き着くと、先に半兵衛は凪を馬に乗せて、あとに自分も乗っかった
「待ってろ!!絶対、行くからなっ!!」
走り出す馬に乗りながら、遠くでそんな成実の声が聞こえた
next
さぁ、顔を上げて
「成実の旦那っ!」
はっ、として先を良く見れば、松明の灯の近くに人が立って居るのが見えた
開けた草原に、立つ、女
その隣りに立つ、男
成実は馬の手綱を引き、馬に止まるように促す
それから、彼は馬の背から降りた
月が、草原を照らす
冬なのに珍しく夜空に雲は少なく、良く下界を照らして居る
「凪…」
どれほどの間合いが有るのだろう
一歩、一歩と歩を進めたけれど、近付いている気がしない
暫く見ないうちに女らしくなったな、とか色気が少し出ただとか、そんな気持ちが巡って…
「近寄らないで下さい」
その言葉に、成実は足を止めた
――――――――――――
広い草原に行き着くと、成実がこちらに馬を走らせているのが見えた
馬から降りて、私の名前を口にしながら、こちらに向かってくる
何か違うなと思ったら、あぁ、髪を。長く揺れていた、綺麗な髪を切って、短くしてしまったんだ。自分が知らない間に、何か、随分と大人びた感じがした
こんなに
こんなに
近くにいるのに
私は彼に手を伸ばす事が出来ない
何故ならば、私は今、他の人のものだから
「近寄らないで下さい」
これから
貴方を傷つける
それは私の咎
それは私の業
それは私の罪
それでも、たったこれだけの事をするだけで、大事なものを守れるならば、喜んで、背負おう
貴方に呆れられても、
貴方に怒られても、
貴方に悲しまれても、
貴方に、
貴方、に
貴、方、に
風が吹く
冷たく、肌に刺すような冷たい冷たい風が
これが冬の風と言うものなのだと実感する
「今直ぐ、己の領地へと帰って下さい。豊臣は、手を出されない限り北への進軍は致しません!理由無き進軍ならば、退いてください!!」
真っ直ぐな彼の目を逸らさず、凪は言った
──────どうか、このまま、ひいて
それだけを願った
なのに。
「嫌だ」
彼はそう言ったのだ
「な―――!!」
「保証が無い事に頷けるか。それに理由無き進軍じゃあ無い」
彼は一歩一歩こちらに歩を進める
半兵衛達豊臣の人間が凪のそばにいるのに、彼はそれに恐れる事なくこちらに向かって来て居る
「お前を」
「ひいて下さいっ」
どくん
「豊臣から」
「ひいてくださ…っ」
どくん…っ
「救い出す」
「退いてってばっ!!!!」
どくん…っ!!
成実は、凪の前に立った
そして、腕をとった
「退けない。俺、諦め悪いから」
そして、指先に口付けをした
どうして
どうして
どうして
成実さんは、聞いてくれないの
退いてって言っているのに
「人の奥に、手を出すなんて不埒者だね。君は」
はっ、とした
半兵衛は、凪の腰を引き寄せ、腕の中に収めた
(人の――――、)
そうだ、私を救い出すと言うなら、完全にその理由を無くしてしまえば良い!!
彼らが来ない様に
だって、
だって、私が結婚したのは
ヒュ…ッ
息を吸った
酷く、浅い、呼吸
「私は、」
「伊達成実、だったかな?生憎、彼女は救い出す出さないの存在では無いのだけれど」
「あ"ぁ"?」
半兵衛の言葉に成実は機嫌悪そうな声を出した
「さっきも言ったけど、彼女は僕の正室なんだ。僕のものを勝手に救い出すとか言わないで欲しいね」
「僕のもの、ねぇ」
今まで黙っていた左助が、口を出して来た
「何か密約でも交わしたんじゃないの?引っ掛かる要素が結構有るし。何かそれで得たって感じがするよ、俺様には」
「―――」
左助はそれとなく気がついている――??
私と兄
私と半兵衛さんが交わした約束で、こうなった事を
「そんな事、有る訳無いじゃないですか」
喉が一気に乾く
動悸が止まらない
胸が、苦しい
「私は、半兵衛さんを好きになったから、結婚したんですよ――――?」
見破らないで
私の嘘を
腰に回された半兵衛の腕を握る凪
「優しくて、」
成実さんも優しい
「強くて」
成実さんも強い
「大事にしてくれる」
貴方に好かれていたあの頃
それが今になってとても大事にされていたのだと気がついた
「兄に豊臣へ連れて来られて良かったと思う程」
ねぇ、私
本当、は
「私は半兵衛さんを愛しているんです。救い出すとか、訳の分からない事でこの人との間を引き裂かれたくない…!!」
成実さんの事
今でも好きなんです
「私は、幸せなんですっ…!!それを壊そうとする貴方方は、最低ですっ」
そう言ったあと、私はくるりと半兵衛さんの腕の中を回り、半兵衛さんにキスをした
震える私のキスをどう思ったのだろうか。彼は、私の腰に回していた腕を解き、後頭部へ手を回した
そして、深いキスを――――――
「っ…ふぅ…っ」
「凪ちゃん…っ」
一分程キスをした
短いけれど、ものすごく長く感じた
どうかこれを見て諦めて欲しい
彼が好きになってくれた私は、居ないのだと思って欲しい
その私は、凄くどうしようもなく、心の片隅で大声を出して泣いて居るけれど。みっともなく、大粒の涙を流して居るけれど
「はぁ…、はぁ、わた、しを、救い出すなんてしないで…。私は、助け出されたくも無いし、貴方のそばに帰るつもりも、取り戻されるつもりもない。進軍する理由が、私を救い出すというのならば、今となっては無いに等しいですよね…?何故ならば、私は望んでいないから」
目を擦って、振り向かず、彼と言葉を交わす
そう、だから、これが最後の別れ
「行きましょう半兵衛さん」
半兵衛達は、成実に背を向けて歩き出す
これで良かった
良い、筈なの
それが私の望んだ事だから
なのに…
ポロ、っと頬を伝うのは、何なのだろう
酷く冷たくて
悲しい、この伝うものは
「……」
成実に自分を諦めてもらう事
これが望みだった
豊臣に戦を持ち掛け無い事
これが望みだった
なのに
「また――――」
「だけど!!
俺はまだ!!
お前を愛してる!!」
伝うものが止まる
後ろにいる成実が、大声で、そう、叫ぶ
心からの、叫び
こんなに、こんなに、嬉しい言葉があるだろうか
愛している、も、好き、もこの人から貰う分がとても嬉しい、声に出して応えたい
でも
「私は、好きじゃ有りません」
「俺は好きだよ、それに、愛してる」
「っ!!だからっ!!!!!」
止めてって、言おうとした
顔を見られ無い様、背中だけで気持ちが伝わる様に思いっきり、言おうとした
「お前、嘘吐くの下手」
彼が、そう言わなければ
「もう一年だろ?それ位そばにいて、気がつかない訳無いだろ。騙された時も有ったけどよ、もう騙されねぇよ」
そう言った成実は、とても穏やかに顔をしていた
「お前は優しいから、どうせ俺達が傷つくのが嫌で、自分の身を差し出して助けようとか考えてるんだろ?違うか?」
「違い、ます」
駄目、これ以上聴いちゃ駄目だ
半兵衛の冷たい手を取って、馬が有る場所まで早足で去ろうとする
「違う、か。じゃあ、なんで」
「っ」
「此所まで来てもらって悪いけど、進軍は止めない。お前が嫌だって言ってもだ」
そして
「竹中半兵衛、お前の正室だろうが、奪い取ってみせる」
その時、まだ
俺の事を、少しでも思って居てくれたら
それだけで、十分だから
「…………」
頼が半兵衛に耳打ちした
左助をちらりと見ると、不敵な笑いをし、凪を姫抱きする
「此所は撤退しよう。あちら側から、馬の蹄の音が幾つか聞こえる。囲まれたら終わりだからね」
(ちっ、随分耳の良い奴がいるな…)
左助は頼を睨んだ
「伊達成実、折角彼女が身を呈した行動を無下にした罪は思いよ?」
半兵衛は背を向けたまま、成実に言った
「言ってろ。大阪城だ。そこで絶対てめぇの首打ち取ってやる」
「クスクス、怖い怖い。出来るものならば、やってみると良い」
「ああ」
馬まで行き着くと、先に半兵衛は凪を馬に乗せて、あとに自分も乗っかった
「待ってろ!!絶対、行くからなっ!!」
走り出す馬に乗りながら、遠くでそんな成実の声が聞こえた
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