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そう、だから
放っておいて
百鬼夜行が現れそうな時刻
成実は寝もせず、一人焚き火の前で揺らぐ炎を見つめていた
片足は立てて、片足は胡座をかくようにして、立てた片足の膝に腕を乗せている
それは女性が見れば、それだけで胸をときめかせようものだが…
「寒いな」
寝ずの番、というものだ
見張るのは足軽の役目なのだが、成実は自分がやると言って今に至る
パチパチパチ…
目の前の爆ぜる音
「寝ずの番なんて足軽にさせればいいのに」
背後に気配がした
猿飛佐助だ
「いーの、やりたいんだ」
「とか言っちゃってぇ~、寝れないだけでしょ?俺様知ってるよ?最近眠れて無いでしょ」
「げ、バレてたか」
「寝たら寝たらで唸されて、しっかりと眠る感じじゃないみたいだし…」
「あははは、まぁ慣れたけどな」
パチパチパチパチ
そう
唸される
夢に見るのはあの場面
目の前で凪がいなくなった、あの時の事
苦しくて
悲しくて
怒りが満ちて
どうしようもなくて
後悔して
泣きたくて
色んな感情が溢れ出る
夢でも結局あいつを救う事が出来なくて、己の無力さを情けなく思う
「良いんだよ。この痛みが今の俺には丁度良いから」
「アンタ、難儀だねぇ…」
「うん」
ザワッ…
風が蠢いた
木々が揺れる
「あのさ、猿
……っ!!」
「 、静かに」
余り寝て居ないせいか、精神が研ぎ澄まされて無い成実に佐助は静かにする様に言った
その後成実は、空気が変わった事を理解する
「何か有ったのか」
火の光が届かない場所から、得体の知れない気配がする
「長、大阪城より竹中半兵衛がこちらに向かっています。手勢は5人、その中に女子が一人」
「女子…!?凪かっ!」
「成実の旦那、頼むから静かに…」
長と佐助を呼んだ事から、得体の知れない気配は真田忍隊だと知れた
「今どの辺り?」
「一里程先です。早馬で飛ばしている様ですから…」
「手勢5人ってのはひっかか…旦那!?」
成実は左助の部下の一言を聴くと、槍を持って一人の足軽へ声を掛けた
そして己の馬の居る場所まで走り、馬の背に乗った
「ちょっ!?」
左助の声が遠のく
一気に駆け出した馬に乗り成実は、前へ前へと進む!
左助の止める声が聞こえて居ないのだろうか
ヒュッ
横に左助の姿を捕らえた
馬の速さに少し遅れ気味だが、それでもついてきている
「ちょっと待ちなって!!」
「なんで」
「いくら手勢は5人だったとしても、これは何かの策略だ!!せめて一人じゃなく旦那と行くべきだ!」
「でも凪が居るかも知れないんだろ?」
「女子一人が凪ちゃんだとは限らない!頼むから戻ってくれ!」
「いや、アイツな気がする」
「気がするだけじゃ駄目だって!!罠かもしれないっ」
佐助の言葉を返しはするが、成実には本当の意味で届いていない様だった
「あー――!!もうっ!!才蔵っ!真田の旦那呼んで来てっ!!俺様、このままついて行くからっ」
痺れをきらしたのか、佐助はその辺に居るだろう部下に指令を出した
このまま、彼だけをこちらに向かって来て居ると言う竹中半兵衛達と相対させる訳にはいかない
揺さぶりをかける為だったりしたら、とか色々な謀略が待ち受けている可能性が高い
彼は今、先行として真田幸村と一軍を率いている。そんな彼に、今揺さぶりを掛けられたりしたら…!!
「アンタ分かってんの!?一軍の将なんだぜ!?軍放ったらかして、一人で突っ走るなんて馬鹿じゃないの!!」
「あぁ、そうかもな。でも、普通に考えて、もしかしたらアイツかも知れない奴と、竹中がこっちまで来るって事は、何かしら意味があるだろ?もしそれが揺さぶりだったり何だったりするならば、それをアイツらの前でやらせる訳にはいかねぇ。まだ目的地に着いてもいねぇのに、ここでバラバラにさせられてたまるかよ」
「…」
考えていたのか
短時間というか、あの一瞬で
風を切る様に駆け抜ける馬
佐助はもう何も言わなかった
才蔵が今、主の真田幸村を呼び、後を追って来る様に伝えた筈だ
それだけで、現状はマシになったと思う
あとは、自分がしっかりとついて行けば良い話だ
(こう言う後先考えて無さそうなの、誰かにそっくりだぜ)
佐助の溜め息は夜空に消えた
―――――――――
「君と約束した事柄はいくつあったかな」
「一、結婚の式は静かに盛大には行なわない
二、伊達には今後一切手は出さない
三、…………
あとは細かいものです。あと大きな約束は、兄とした約束です」
早馬に半兵衛と相乗りで、目的地まで駆ける
藤色に鮮やかな蝶を描いた着物を召した凪は、駆け抜ける事によって身に当たる風に、ぶるりと震えた
「この先に、伊達成実の陣と真田幸村の陣が有ると斥候から報告を受けた」
手綱を強く引き、馬に止まる様指示を出す
ヒヒーン、と一鳴きすると半兵衛は「どうどう」と言って馬を宥める
「何を考えているんだい」
「言った筈ですよ」
しかし、彼女の瞳には違う炎が灯っているのを半兵衛は気付いた
恋仲だったという男についに会い見えるからか
しかしその炎は、青い炎に見えた
青は悲しみの色、伊達の主が戦衣装で身に着ける色、伊達の軍色
「竹中様、忍のものが」
「何?」
立ち止まった馬の前に、忍が現れる
いや、忍では無い
彼は、北斗の部下
――――頼だった
(兄さんに言わなければ良かったのに)
この状況の中、黙って出て行く事が出来なかった為、秀吉や北斗に先陣の軍に会いに行き、出来れば戦を持ち掛け無い様に言いに行くと言ったら、北斗は自分の右腕とも呼べる部下の頼を連れて行くように言って来たのだった
頼は渋ったが、それが師団長の命令なら。と頷き今に至る
「前方より、単騎で駆けて来る者がいます。あれは伊達成実です。それからそばには、真田忍隊の猿飛左助が」
「――――――――」
「先に来られたか。こちらから軍まで赴いて、君が戦を持ち掛けるなといえば、何かしら効果を出すと思っていたのだけれど…」
このまま相対すれば、その策を成せるのはソイツだけか、と呟いた
凪は首を横に振る
「軍の前に行くまでも有りません。成実さんに、揺さぶりを掛ければ良いんです」
むしろそっちの方が効果有るかもしれません
と凪は言った
彼は、私に優しい
だからそこに付け込む
恋心なんて、大事な大事なものを守る為なら、捨てられる
好き
大好き
愛してる
だから、
(これで諦めてください)
貴方達を守りたい
私の、意地と我が儘
どうか、彼に
届いて―――――
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