4
あなたの名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どくん、どくん
ゆっくりと深呼吸をする
すぅ、と息を吸い、身体の隅々までに行き渡らせる
「旦那」
「あぁ、支度して今行くよ」
今日と言う日をどれほど待っただろうか
寝間着を脱いで、いつもの戦衣装に腕を通す
───────碧の、戦衣装
ただ前と違うのは、彼の髪が短いことだった
伊達家の人間らしい毛並みの長かった髪は、切り揃えられ、左右の髪が長ければ浅井長政の様な髪型になっていた
「凪――――――」
思い、願うのは
―――――――――――――
「皆の者!」
戦へ赴く前に幸村は足軽や、隠れているだろう真田忍隊の士気を高める為に声を上げた
「こたびの戦の敵は、恐らく一筋ではいかぬ相手だ!なれど、我らだけで戦う訳では無い!!北からは伊達殿が、南からは長曽我部殿が、打倒豊臣の意思を掲げて進軍している!!両軍に笑われぬ様な働きを期待しているっ!!」
幸村の演説に成実は驚嘆した
(意外だけど士気を高める力はあるらしいな。まぁアイツ見てるだけでも士気が上がりそうだけど)
これが政宗だったら「are you ready!?」とただ一言で終わるのだが
「成実殿っ」
「え、あ、何?」
「成実殿からも是非一言!」
「え"」
「伊達家きっての武将の貴殿の一言で、兵達の士気はまたより一層高まりましょうぞ!!」
「え、いや、無理」
「何故でござる!?」
「俺、した事無いから。それに、士気高めるのは梵の役目だから」
「では、政宗殿の変わりに!」
「だから…!!」
と此所で兵達の
あつーい
あつーい
視線に成実は気がついた
幸村の演説で士気を高めた男達の、むさくるしくも意志の強い目差し(まなざし)
「兵達が聴きたがっておりますぞ!」
うんうん!
と兵士達は頷いた
キラッキラした瞳を向ける幸村
あつーい視線を向ける兵達
「む、無理だって―――――!!」
成実の叫びが、木霊した
■■■■■■■■■■■
伊達からやって来た軍勢と共に大阪城を目指し南下する
馬に乗り、振り返ること無く、手綱を強く握って
「成実殿」
「綱元…」
伊達軍軍勢を率いて来たのは、伊達三傑・鬼庭綱元だった
成実の隣りへ馬を進め、同じ速度で馬達は歩みを共にする
「気負い過ぎは身体に毒ですよ」
彼は青磁色の戦衣装を着ていた
「…成実殿」
「なんだ?」
「この戦が終わったらどうなると思いますか?」
「戦が終わったら?うーん、また元に戻るんじゃねーの?乱世にさ」
「そう思いますか?」
群雄割拠の時代
今はある目的の為に団結はしているが、それを成した後、きっと乱世に戻るだろう
天下統一を目指している人間がいる限り…
「そうなったなら、皆さんと刃を交える日が来るのでしょうか…」
「……」
「成実殿、私がこれから提案する政策を聞いて貰えますか?」
成実は耳を傾けた
綱元は政治力に長けた人物だ。そんな彼が、考えた事ならきっと良策に違いない
「へぇ、そりゃ思い付かないなぁ。でもそれで納得する奴等は居ないかもしれないぜ?」
そんな成実の言葉をもろともせず、綱元は己の志を口にする
「天下統一を目指してる方はそうかもしれません。ですが、この先天下統一が成されても、時が経てばその統政を覆そうとする輩がでます。そうしたら、戦火は確実に上がるでしょう。先を見据えれば、私の提示した案は愚策にはなりません」
むしろ、私は後世で智将と言われるでしょうね
と付け足した
「ふぅん。先かぁ。俺にはそんな先を考えるなんて無理だな」
成実は手綱から手を放して、手のひらを見た
「俺には一歩先に有る未来を取り零さない様、縋るので精一杯だよ。零れて、零れて、拾うのだって精一杯で、先なんて見れない。凄いなぁ、綱元は」
「それが私の得意とする所ですから」
片倉小十郎は常に政宗のそばに
伊達成実は常に最前線で伊達を守る
鬼庭綱元は常に政宗の元、政治で奥州を統治する
智の武将、────鬼庭綱元
「ま、物分かりが良さそうな信玄公は賛同してくれそうだな」
「そうだと、嬉しいです」
■■■■■■■■■■
―大阪城―
「武田、伊達、長宗我部が大阪城へ向かって進軍している、か」
「どうする半兵衛」
「何がだい?」
「何、と問うか」
クスクスと半兵衛は笑う
分かってるよ、言いたい事は
「凪が言ったのは手を出すなだったかな。うん、でも秀吉、それを守ったら豊臣は滅んでしまう。だから仕方無いよ」
月が水面で揺らぐ様を半兵衛は見つめた
「婚姻の前、彼女は僕に言った。奥州へは手を出すな、と。けれど一切手を出すなとは言われていない。攻撃されたら、仕返しをしなきゃ」
そう
言葉の抜け穴を突くだけ
それに防衛しなければこちらがやられてしまうのだから、これは正当防衛に当たる
「生憎、兵糧も武器も砦も、何処かに攻め入られる事位想定はしていたから、万全の状態だ。万全じゃないのは北斗の部隊が解散した事位。何も慌てて戦準備する事はないだろう」
そう言うと半兵衛は、立ち上がり秀吉に背を向けた
そして、そのまま一歩一歩と前へ進む
「明日から策を練る。だから今日はもう秀吉も寝ると良い。じゃあね、おやすみ秀吉」
「あぁ」
秀吉は、盃に入った酒を飲み干した
――――――――――――――
薄暗い室内には、凪が居た
褥(しとね)の上で、夜着を来て、旦那の帰りを待つ
慣れてしまった夜の務め
ただ最近は寝不足だけれど、仕方無いと思う
行為をしていると、心底思う
これは愛を確かめる行為では無く、動物的子孫を残す行為なのだと
酷く甘い痛みが、身体を襲うけれど、それは種を芽吹かせる為で、それ以外意味は成さない
「……」
この中に、赤ちゃんがいつか、宿る
想像が、出来なかった
自分はまだ子供に近い存在だと思っているのに、母親になると言う事が想像出来ない
「待たせたね」
「いえ…」
襖を静かに開けた半兵衛は、後ろ手で襖を閉めて、褥の上に腰を下ろした
「秀吉と戦について話していてね。そうだ、それについて君に話しておかなきゃだね」
伊達と武田が攻め入ろうとしている事を、分かっている限り凪に伝える
凪は段々顔色を悪くしていった
「一番前の部隊は、真田幸村率いる部隊と、伊達成実が率いる部隊らしい」
「成実さんが!?」
「その後続として、伊達軍・武田軍が続いて居るみたいなんだけど、「半兵衛さんっ」
凪は、半兵衛の腕を掴んだ
動揺している。彼女が、動揺していると、わかる
「戦になるんですか…!?手を出さないでって言ったのに…!!」
「向こうが攻めて来るなら、なるだろうね。ただやられっ放しというのは出来ないから。だから巻き込まれ無い様に、君は…」
「…………」
一瞬、凪は口を閉ざして何かを考えて居るように見えた
そして、何かを決めた様に顔を上げて、半兵衛の瞳を強く強く見た
「先頭が何処を通って来るか分かりますか?」
「大体は。それを聞いてどうするんだい」
「――――――攻め入らない様に、この城が戦場にならない様に、」
───忘れてくれと言ったのに。
何故彼らは豊臣を攻めようとしているのだろう
自惚れた考えの通りならば、身を呈した行動が水の泡となる
「半兵衛さん、彼らが夜営する場所へ私を連れていって下さい」
next