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半兵衛の妻になった事で、拘束はなくなり、ある程度城内の中を自由に歩く事が出来た
あくまで城の中だけ、外に行くことは叶わない
鳥籠よりマシだと思うが、それでもずっと白の中は息が詰まる
侍女がつき、何処へ行くにも半兵衛がいないと、一人必ずついてくる
伊達の頃と違いきちんとした着物、打掛も息が詰まる原因のひとつだった
たまには外に行きたい、そう思っていた時、半兵衛は、庭に居た凪に声を掛けた
「今商人が来ているけど何かいる物はあるかい?」
「商人?」
「うん」
凪は、半兵衛の居る縁側まで行くと彼を見上げた
「どう?」
「えっと…」
言いたいけれど言ってもいいのだろうかと、口をモゴモゴさせていると、
「武器から着物、ありとあらゆるものを扱っておるけぇ、何か言ってみ!」
「「…………」」
誰かが話し掛けて来た
茶色い猫毛の、伸びた髪を頭部の高い位置で縛った男が半兵衛の後ろからいきなり出てきた
ぽかんとしていると、その男は凪をじーっと見て、あっ、と声をあげる
「姉ちゃん、あの時の…!!」
「?」
「覚えておらん?前田家に居た時にぶつかったん覚えておらんかの?」
「んー…」
前田、前田と記憶を呼び覚ます
前田でぶつかった…ぶつかった…
「あ!」
「思い出してくれたようやのー」
うんうんと頷く男
「卸…、奥に慣れなれしく触らないでくれないか…」
はた、と気がつけば、卸は凪の肩に手を置いていた
「あ、すまんの。竹中!」
「彼が商人だ。欲しい物があれば今言うと良いよ」
「そうやで!普通の商人より扱うてる品物は多いけぇの、何でも言うてみ!!」
二人の圧力、と言うより二人に詰め寄られて凪は後ろへ後ずさった
けれどこれも何かの縁だと思い、思い切って言う事にした
「く」
「「く?」」
「薬を…」
「何の?」
「…っ、目、の」
そこで半兵衛は凪の欲しい物を理解した
「目が、見えなくなった人が居るんです…。なんでそうなったのか分からないのですが、目に利くお薬があるなら、それを頂きたい…です」
でも、生憎お金なんて持っていない
後払いで何とかなりませんか···?と卸にいう凪
二人はきょとんとして、暫くした後半兵衛はため息をついた
「卸、そんな薬あるかい?」
「ま、有るな。まぁ効果は人によりけりですわ」
「ならそれをくれ」
「え?」
「毎度」
卸は、じゃあ取って来るけぇ、ちょーっと待っててくんさい。と言って、その場を去る
その場に残された凪と半兵衛
彼は縁側に腰を下ろした。凪は、おずおずと半兵衛の前に立つ
「遠慮なんかしなくても良い。支払いの事は特に。稼いでるから」
「でも、私が個人的に欲しい物なので、払ってもらう訳には…」
「君は僕の《妻》だろう?家族の生活費等は全て、家族を支える家長が出すんだから、気にしないんだよ。僕の稼いだお金は、君のお金。分かったかい?」
あまり納得はしないが、頷いた
そうしないと、彼が納得してくれなさそうだったからだ
「彼、その薬で良くなると良いね」
「―――!」
半兵衛は優しく微笑んだ
そんな微笑みをあまり見たことがなかった凪は少しだけ驚く
演技なのか本心なのか分からない。けれど良くなるといいね、の言葉は偽りはないように思えた
■■■■■■■■
卸から薬を受け取ったすぐあと、凪はすぐ匡二の元へ駆けた
侍女が後ろで何か言っているがそんなことは気にならなかった
匡二に用意された部屋の扉を開ける
カタン、と音を立てると匡二が顔だけこちらに向けた
「誰ですか」
「わ、私…」
匡二は胡座をかいて座っていた
目が覚めたあとのあの部屋では無く、庭先が美しく見える一室だ
だが、庭が美しく見える一室でも、今の匡二にはその光景が分からない
「あのね、薬を持って来たの。目に効くんだって」
「私にですか?」
卸に言われた通りに薬を、と凪は白湯と
紙に包まれた粉薬を用意する
湯のみに入れた白湯に薬を溶かし、それを飲ませればいい。一日二回、それを続ければ良くなった者もいる薬だと卸は言っていた
「すみません、凪様」
突然匡二の口から零れた言葉
それに動きを止めたが、それも悟られる事は無いだろう
彼は目が見えないのだから
「何謝ってるの?何も無いのに」
「…」
変な匡にぃ、と乾いた笑いをする
見えないけど、きっと彼には声色だけでわかるだろう
──────自分がどんな気持ちなのかを
「さ、出来たよ。飲んで?」
「はい」
湯飲みを渡したが、凪mはその手を離さなかった
「凪様?」
「目、············見えないから口の中に薬入れられないよね…、うん!口開けて!!」
「え"」
「あーん、してよ」
それはちょっと、と思う
大の大人が少女にそれをされるのは、些か恥ずかしいモノがある
口を開けようとしない匡二に痺れをきらしたのか、凪は強引な手に出る
「、っ」
口もと近くを頑張って片手で、うに、と摘み口を少し開けさせる
それから直ぐに白湯を飲ませる
湯のみの中にある白湯が全て口の中へ消えたのを確認して、匡二の顔を見るとものすごく渋い顔をしていた
「え――――――」
「苦味強すぎやしませんか…これ」
「り、良薬は苦いって言うから…!!」
「それにしたって苦いです···胃の中全て吐き出しそうなくらいに···」
────いくらこれが良薬でも、きっとこの苦味じゃあ誰も服用しないだろうな
と思ったが、でも苦味より彼女が自分にと薬を持って来てくれた方の嬉しい感情の方が勝り、口内に残る苦味は吹っ飛んでしまう
「ありがとう、ございます」
いつもと変わらぬ微笑みを彼女に見せてあげられているだろうか
引きつって居ないだろうか
「うん!」
「それから」
彼女が決めた結婚
およそだが、予測だが、ほぼ当たっているだろう彼女の真意
「ごめん…」
それしか言えない自分がとても、憎らしい
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