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「凪殿は竹中殿と夫婦になったのであろう?」
戦に向けて鍛練をしていた成実にふいに話題を振って来た幸村
その内容は、いつかは誰かに聴かれると予測していたものだろうか
鍛練用の棒を壁に立て掛け、浮いた汗を手ぬぐいで拭う
「お前の猿飛佐助がそう言ってたんだから、そうだろうなぁ」
「め、夫婦になったと言う事は、その…」
モゴモゴと口ごもる幸村
彼の顔が紅潮している様子を見て言いたい事を汲み取った
「夜のつとめか?」
「っ…!!」
はぁ、とため息をつく
予想はしていたが、まさか、こいつに聴かれるとは思わなかった
「成実殿は、凪殿を妻にしたいと望んでおられる。なのに、他の男に娶られて、他の男に…その…」
ぐっ、と幸村は手を握った
「そりゃ、腹腸煮えくり返りそうさ。すっごく嫌だ。俺が、初めの男になりたかったさ。でも、例え他の男に抱かれても、凪は凪だろ?それは変わらない。ま、抱かれてなきゃ一番良いんだが、まぁ無理な話だろうなぁ。兔に角、俺は気にしちゃいない。ただ今は凪をこの手に取り戻す事しか、考えられない」
だから、お前もそんなの気にするな、と幸村の肩を叩く
そうは言ったが竹中を羨ましく思う気持ちもあり、そして憎い気持ちも成実の中に確かに存在した
凪と夫婦になり、契りを交わす
それは成実が夢見ていた事なのだから
だからこそ、その相手が自分でないのが嫌だしそいつが憎い
だけど、今そんな事を考えても、どうにかなる訳じゃなく
「竹中見つけたらボコボコかな」
取り返すことだけを考えるしかなかった
■■■■■■■■■
「悪いな皆」
宵の闇の中
死神の一軍が林の中に集まっていた
集めたのは、彼らを率いる北斗であった
「集まってもらったのは、指令の為だ。これから言う6人を覗いてこの師団は解散する。これからは静かに暮らしてくれ」
ざわめきが走る
いつもの指令と違うからだ
「師団長っ!解散ってどういう事ですか!?」
「選ばれなかった奴は静かに暮せって…!?」
轟々とそれぞれが北斗の下した指令に異議を唱える
それを制したのは頼だった
「納得がいく様に説明はして下さるのですよね?」
「言えねぇよ。ただ、俺の叶えたい望みの為に、俺はお前らをここまで仕立て上げて、付き合わせた。これから起る厳しい戦いで、俺のエゴに付き合ったお前達を死なせる訳にはいかない」
目を伏せた
ここにいる団員達の平均年齢は10代後半
戦いに投じた身柄ではあるが、十分普通の生活に馴染み込めるだろう
そして彼は頭を下げた
「今まで、ありがとう。血は繋がらないけれど、弟や妹みたいだった。楽しかったよ」
だからこそ、君たちにはこれから少しでもいい人生を歩んでもらいたい
「頼」
「秋」
「楓」
「刹那」
「釉」
「楓」
名を呼んだ子達には悪いなぁと思うけれど、彼らはまだ自分にとってまだ必要な子達だ
選ばれなかった者達の様子は様々で、声を殺して泣いたり、選ばれなかったのは自分が不甲斐ないからだと自分に対して怒りを抱いたり、北斗の意思を受け入れて穏やかに笑う者もいた
「近々、豊臣に戦が仕掛けられると言う情報を耳にした。出来れば、直ぐにでもここから去って欲しい」
「長」
北斗の前に進み出た青年
銀髪の綺麗な青年だった
「俺、達────は、俺達は、“異能”を持った一族に生まれました。
しかし、血は引けれども力はこの身に宿らずの者や、力としては微々たる力しか持てなかった者ばかりです。
迫害されていた俺達を救い、尚且つ長の目的の為とは言え一族を滅ぼして下さった。家族を殺されて喜ぶなんてどうにかしているかもしれませんが、······嬉しかった。
道具としてしか、生きる事を許されなかったから。しかし、異能は理解が出来ないモノです。今、力が無くても、力が弱くても、いつか力を得てしまうかもしれません。
───その時、貴方は俺達に銃を向けますか?」
その言葉に皆が動きを止めた
師団の団員は、全員、彼が言った様に異能の一族だった
目的の為に殲滅したい筈なのに、彼は一族の中で迫害された者を密かに自分の部下にする為育て上げた
理由は異能の一族は、普通の人間より身体能力が優れているから。それもあるだろう
しかし理由はまだあり、それは…‥
「一族の血を引いてるならば一人残らず殺す。
それが貴方の目的なのに、俺達を救った。それは、普通の人間を育てるより、普通の人間より身体能力が優れていながらも力が使えない俺達を便利だと思い、そして全ての一族殲滅を完遂したら、不確定要素の俺達も殺すつもりでいたからなのか···どうなんですか長。解散する前に答えて下さい」
「確かに、最初は普通の人間よりお前達を育てあげた方が遥かに便利だと思った」
その言葉に団員達の一部は、やはりそうかとため息をついた
「でも」
「でも?」
「お前達を救ったのは、何処か凪に似ていると思ったからだ。名前も与えられなかったお前達に名前を与えて、寝食を与えて、武器を手にとらせた。家族の様に育てた…。もし、お前達がこの先力を持ったとして、俺は銃を向けるかと聴いたな?向けたらお前達は、抵抗するか?そのまま殺されるか?」
質問を質問で返すのは以ての外だが、そこに答えは有る
「…っ、この命、貴方に…救ってもらったモノです。銃を向けるのであれば、貴方の手を汚さずに……………………自害致します」
北斗は柔らかく笑った
「そしたら俺は自害される前に」
北斗は銃を懐から取り出して、トリガーを引いた
ガウン…ッ
空に放たれた銃弾
消煙がのぼる銃口
「お前達を止めてやる」
「…!?」
「銃で死ぬのなら、銃を弾き飛ばしてやる。
首を吊って死ぬのなら、縄を打ち抜いてやる。
刃で己を傷つけ死ぬのなら、刃を弾き飛ばしてやる。
身投げして死ぬのなら、身体に縄を縛り付けて引き揚げてやる。
例え力を持ったとしても、お前達は殺さないし死なせはしない。お前達なら力を悪いことに使わないと信じているし、何より可愛い弟や妹なんだから」
「──────さようなら、愛しい弟、妹たち」
その一言を聞いた後
ちらほらと師団の人間が一人、また一人とその場を立ち去り始めた
去っていった者の背中を見ては、あの子は甘えん坊だったっけ等と思い出が蘇る
──────いきなりの別れだけれど許して欲しい
──────だけれど、見られたくないから
優しいあの子たちに
見せる訳にはいかなかったから
「最後は君か。相馬」
選ばれなかった者で残った最後の一人は、先程問い掛けをしてきた人だった
「相馬…、この名前、嬉しかった。俺、俺…………、あ、貴方の側で生きて…………、死にたかった。最期まで側にいて、笑って、怒って、泣いて、苦しんだりしたかった。長、今まで…………ありがとう、………ござました………っ」
彼は頭を下げた
そして顔を上げると風の様に消えた
そしてその場にはとうとう7人だけになってしまった
「─────みんなぁ······」
泣き崩れる秋に頼が肩を撫でる
そんな二人をみて北斗は空を仰ぎ見た
さようなら、俺の、
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